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【メアリー】

「前回のあらすじね!」


【露草】

「うん?なんであなたここにいらっしゃるの?」


【メアリー】

「そりゃあ、大活躍したからよ!」


【常葉】

「だが、君のバトルフェ」


【露草】

「まだ終わってないでしょ。さ、帰って帰って」


【メアリー】

「ええー」




◇◆◇◆◇




 メアリーさんは絶好調だった。途中で黒歴史を量産したような気もするが、それはもう過去の話。メアリーさんは生まれ変わった。

 戦士と狩人と神官をマスターしたものだけに与えられる、権利。全ての武器を扱うに相応しいジョブ。名実ともに、ウェポンマスターとして進化した四天王メアリー。メアリー・ウェポンマスター=フォース。もう、迷いはない。


「消えた!」

「またレイドブレード!?」

「ジョブアップって……」


 左右のオプションが消えたことに動揺する三割れんじゃーず。桔梗だけは、メアリーの発した言葉に反応したが、やはり彼女たちにはそれがなんなのか、検討を着けることもできない。


【メアリー】

幻影剣(ソードヴィジョン)。デュアルソード。オーバーウェポン!」


 とりあえず新スキルを試してみたメアリーだったが、彼女の想像以上に威力は高かった。デュアルソードで倍増された計六回の強攻撃が三人に降りかかっていく。しかも、オーバーウェポンの命中率は驚きの100だった。回避不能だと悟った赤銅と黒鉄がガードに切り替える。

 メアリーのスキル宣言はまだ途切れない。


【メアリー】

「ウィップソード!」


 全体に二回物理攻撃を行う、神官の初期スキルだ。神官では使い物にならないこれも、新たにウェポンマスターとなったメアリーには十分有用なスキルになる。しなるように迫ってくる十二回の連続攻撃に、三割れんじゃーずは攻撃の隙を見つけられない。

 しかし、彼女たちとて馬鹿ではなかった。こうなったら短期決戦である。防御無視やクリティカル攻撃を駆使して、メアリーにダメージを与え始めたのだ。


「そっちが数ならこっちも数だ!『三連射』!」

「絶対当たる攻撃でけりを着ければいいんでしょ、『終焉拳』!」

「奇襲攻撃もお返しだから。『暗殺剣』」


【メアリー】

「くっ、地を穿て、クラッシュアース!」



「脳がないけど、『三連射』、『三連射』、『三連射』」

「桔梗、それせこくない!?」

「しゃーないじゃん、向こうはもっとせこいことしてるし」

「じゃあ、うちもパクろっと!連続『正拳突き』だッ」


 せこいせこくないは勝利してから十分に吟味すればいいような気もしたが、熟練の戦士たるメアリーさんには少し効いたようで。


【メアリー】

「せこくないわよ!立派な戦略よ、これは!!」


 攻撃の手を緩めて言い返してきた。

 それを狙っての発言だったのか、その隙を赤銅は逃さなかった。


「よそ見はダメだよ。『デスライン』」


 即死対策を怠ったメアリーさんは、その一撃でシリアスから解放された。

 すぐにレベル一つ下がったメアリーさんが自室で目を覚まし、ボスの間に再び訪れる。

 もちろん、KAZAKOSIれんじゃー30%は警戒したが、そんな彼女たちを抑えてメアリーは言った。もう一人の四天王戦も見たくない?と。

 メアリーは壁の向こう側で戦っている挑戦者が、彼女たちの仲間だとは知らなかった。だが、久しぶりに随分と手こずっている相方の様子がおかしくて、真剣に戦い合った三人に次のヒントを与えるつもりで聞いたのだ。無論、三人は食いつくように頷く。


【メアリー】

「やけに苦戦してると思ったけど、見た目は女の子ばっかりね」


「白銀頑張ってるなあ」

「あのねー、あっちともう二人いるんだけど、それで一つのパーティなんだよ」

「向こうも知り合いだよ。あっ、空あぶない!」

「ここで言っても聞こえないパターンだろ」

「でも言っちゃうじゃん、反射で」

「あるよね~」


【メアリー】

「中身も女の子だったのね……また失礼なこと言っちゃった」


 そうして談笑するうちに壁の向こう側でも決着がついたようだ。

 ミラーガラスに変質した壁の反対で勝鬨を上げているのは、KAZAKOSIれんじゃー40%であった。




◆◇◆◆◇◆




 ケイトとメアリーにテレポーターの使い方を教えてもらい、朝、露草たちと別れた王都の道に戻って来た七人は、そこでくつろぐ某リーダーの姿を見つけた。

 帰る道すがら、露草の処分をどうしようかと語っていたときであったから、桔梗や空、銀朱なんかは背中に炎を生やしてまるで役に立たなかったリーダーをこらしめに行ったのだが。露草の横に卵が倒れているのを見つけて血相を変えた。


「またなんかやったのか、露草が」

「卵はどうしたの?」

「ちょっとー?さすがのあたしもこれは怒るよー?」

「えっ?待って、わし違う、なんもしてない」


 総攻撃を受けて思わず片言になった露草氏である。


「うーん、何の騒ぎ?」

「あ、卵が起きた」

「おおー、卵、調子はどう?」

「どうって……。あっ、銀朱、それに桔梗も!みんな帰って来たんだ!」


 良かった、と胸をなでおろす卵。露草はそっと卵のそばから離れた。それは、目の怖い集団から距離を取りたかったというのもあるだろうが、もっと彼女の――卵のそばに寄りたいだろうみんなの姿が見えたからだ。すっかりぽつんと置いてかれ寂しくなりかけた露草のそばには、いつの間に戻って来たのかトカゲの常葉さんが寄り添ってささやく。


「おうちできたよ」


 ただの事務連絡だった。空気読んでよ、常葉さん。

 しかし、それも嬉しいことの一つには違いなかった。ずっと具合の悪そうだった卵をちゃんとした部屋で休ませてやることができるのだから。露草さんのお財布事情は、とある一件からすっからかんだとみんなにばれてしまったので、快適なプライベート空間を提供しなければならない、と感じていたのだ。

 私のリーダーシップはどっちに向かっているんだ。




◆◇◆◆◇◆




 と言うわけで、常盤さんの言う通りにのこのことラスダン前までやって来たのだけれど。露草さんにも予想外なことがあった。


「おうちどこ?」

「あれです、あれ。とり……お城っぽいあれ」


 思わず幼児退化してしまったのも仕方あるまい。露草さんの想像図は、21世紀の現代住宅であり、洋風でちょっとオシャレな一戸建てだったからだ。平屋でなく離れがないそれは、一戸建てと言ってもいいのかもしれないが、声を大にして違うと言いたかった。


「お城って言うか、砦じゃねーか!」

「ギクッ」

「受注先を間違えてるよ、これ!」

「おれも後からそう思いました」


 しかし、経済的にすっからかんな露草氏に、建て替えるという選択肢は存在しない。それに、ちょっとわくわくしたのもある。

 とにかく、中を見て決めよう、ということになった。


 外装が白を基調とした物々しいお城だっただけに、恐る恐る抜き足差し足、中に入る露草さん。入ったかと思うと、すぐさま外に出て、白い壁を眺める。それからもう一度中に入って行き、他のメンバーを呼ぶ声が聞こえてきた。


「卵、おいでー」

「わたし? なんだろ……」

「心配なら着いてってあげようかー?」

「別にいいよ。行ってくる」


 卵が中に入ると、そこにはやけにニコニコした男性が立っていた。悪い感じはしないけれど、そんなに笑ってて疲れないのだろうか。


「卵、この人が以前おごってくれた人だよ。ゼロさんって言うんだ」

「あっ、この間はありがとうございます」

「まだ昨日の出来事ですがね。奢りの件でお礼を言われるなんて久しぶりです」

「あの、お金はどこから……とか聞いてもいいですか?」

「あはは、そこを気にしてたんですか。なに、例のスタジアムの一件で賭けをしたら、僕が一人勝ちしちゃっただけですよ」

「え、そんなに……」

「ええ、あのとき他の人は皆双剣士の彼に賭けてたんですよ」

「でも、本当にありがとうございました」

「いえいえ」


 始終笑顔を絶やさないゼロさんと卵が交友関係を築いている間に、他七名を誘導する。外装と内装はギャップ萌えの心理を問い掛け、意外にも木製の落ち着いた雰囲気であった。リーダーが二度見したのも無理はない。


「外って、石っぽくなかったっけ」

「白い石のね~」

「触った感じも木……?」


 常葉氏はさっきからドキドキしっぱなしである。ちょっと目を離した隙にこんなことになってしまっていたのであって、おれが悪いのではない。と思いたい常葉さんだ。

 監督責任? 知らない言葉ですね。


「卵、その人誰?」

「ゼロさんだって。こないだ夕御飯を奢ってくれた人」

「昨日のやつ?」

「あー、ありがとうございます」

「いえいえ、もうお礼は存分にもらいましたよ」

「おー、ありがとー」

「どういたしまして」


 お礼を言われなれていないゼロさんは、そろそろ困りつつある。そこで、繰り出したのは必殺技。別の用事を出して脱出すること。別の用事とは、ハンマーたちから任せられた案内の仕事である。


【ゼロ】

「ここを作ってくれた人から、案内を頼まれています。あんまり遅くなるとあれですし、先に紹介させてくれませんか」


 無論、KAZAKOSHIれんじゃーに断る理由は存在しなかった。気前よくお願いする。


【ゼロ】

「一階の構造は、ここ玄関と、左右に別れた客室、奥の方にお風呂とトイレですね。客室は、あなたたちは使わないとおもいますが、説明した方がいいですかね?」


 この客室は、魔王城にたむろしている最前線プレイヤーを収容するためである。

 魔王城は入り口付近にセーブポイントがあるので、死んでもすぐに突撃できる良物件として扱われている。しかし、魔王城をホームとして使っている四天王からすれば迷惑極まりなく、見映えもよろしくないという点から、撤退を望まれていたのだ。

 以前から停滞していたこの問題、それにメスを入れたのがこの好立地のギルドホーム。KAZAKOSHIれんじゃーのおうち(砦風)だったのだ。

 と言うわけで、客室はKAZAKOSHIれんじゃーが絶対に使わないお部屋であった。


【ゼロ】

「あ、いいですか。じゃあ二階ですね。えーと、風呂場とトイレに関しては、ゼロさんも一応男なので、後で各自確認しておくようにしてください。じゃあ、二階行きます」


 ゼロさんはフミタカとかいうオバケみたいな人物を知っているので言及を伏せた。決して紳士っぽく見られたいとかではない。ここはホント。


 フミタカというプレイヤーは女性だが、男性アバターなのをいいことに、男性の聖地であるお部屋とか風呂場とか、トイレはなかった気もするが、とにかくずかずか入ってくる人だ。内心恥ずかしがっているとかならかわいいものだが、フミタカ氏の心のうちと来たらウキウキしているというか、ウホウホしているものだから始末に終えない。

 ちなみに現実世界での経験なしとのこと。当然だ、犯罪かセクハラで捕まる。


【ゼロ】

「二階は各自のお部屋が九つと、食堂、会議室、用途不明の部屋が二つですね」


 さらっと用途不明とかのたまっているゼロさんだが、実は穏やかでない。実際突っ込まれたら何の言い訳もできないからだ。

 緑色のトカゲみたいなUFOが、こちらを爛々とした眼で睨んでいるような気もしたが、スルーである。ゼロさんほどのプレイヤーとなれば、一瞬前の自分の発言すら無視して喋ることができるから、余裕だ。ただのとり頭とか言わない。


【ゼロ】

「じゃあ詳しいことはそこのリーダーさんにでも聞いてください」


 挨拶もそこそこに去っていくゼロさんの後ろ姿は、どう見ても逃げていくようにしか見えなかった。ただ、ほとんどのれんじゃーずにはその意味が分からなかったのだけれど。

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