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【メアリー】
「マジで放置された……」
【露草】
「前回のあらすじ。常葉さん、振り回されるの巻」
【常葉】
「最近台詞で終わってるのは文字数の関係らしいね」
【露草】
「おおっと。スルーされたうえに、前回のオチについて言い訳し出した!」
【常葉】
「前回のオチがなかったのは、思い付かなかった露草さんのせいじゃね」
【露草】
「そんなことはないとは言い切れない我が身。今回も頑張ってまいりましょう」
◇◆◇◆◇
IN メアリーの部屋。
ここで戦うのは三割れんじゃーず、桔梗・黒鉄・赤銅。メアリーの発した布告に勃発した戦闘。それはシリアスというより、シリアルなものであった。
【メアリー】
「フォースエッジ!」
「新技だ、新技使ってきたよ!」
「ウツセミで完全回避しようっと」
「つか、エッジなのにエフェクトは剣なんだな」
メアリーさんが折角の新技を披露してもこの余裕っぷり。連携する必要もないぐらい、雑魚としてあしらわれていた。
壁を挟んだ向こうの部屋では、銀朱と初陣の白銀が1デスしたというのに、こちら側に分けられた新入りメンバーはどこ吹く風だ。四天王メアリーの攻撃を避けまくっている。
【メアリー】
「命中率95が当たらないなんて……まるで誰かさんを思い出してむかつく」
「八つ当たりだ!?」
「でも、これはすごくうざいと思う」
「当たったらやばそうなのを避けて何が悪い」
【メアリー】
「特にそこの銃抱えてる娘!言い方までアイツにそっくりでなお腹が立つのよ!ちょっと黙っててくれない!?」
「すごい無茶ぶりが来てるんだけど」
「桔梗、できそう?」
「いや無理だろ」
「だよねー」
スキルの発動には音声が必要な場合が多い。メアリーさんの言葉を素直に受け取って戦うのは、自殺行為だ。こんな屁理屈を捏ねて反論したら、またヒステリックメアリーが降臨してしまうだろう。いかにも彼が言いそうな、生真面目そうでそうでもない物言いだからだ。
座っていれば賢女にも見えるとか言われるメアリーさんが、実際に学力ではかなり上位にいるメアリーさんが、こうも彼への敵意を剥き出しにしている理由。それは意外なところにあった。
【メアリー】
「幻影剣!」
「剣が浮いてる……」
「オプションか何か?」
「幻影、か。向こうの攻撃は通るけど、こっちの攻撃は効かないのかな」
現れたのは二つの剣の映像。彼女自身が装備するものを合わせれば、メアリーは三本の剣を扱えることになる。左右に浮く剣を見ながらメアリーは言う。
【メアリー】
「これも劣化してるから腹立たしいわ……」
「さっきから何を言ってるか分からない」
「私と似た感じのキャラなんて、今までで会ったっけ?」
「んー、あたしたちが来るまえだったら分かんないけど、かなり愉快な人しかいなくなかった?」
【メアリー】
「愉快な人ね。私も端から見たら愉快な人に違いないでしょうが、私だって引けないのよ……。キャラ被りなんてモノはね!」
「なんということでしょう」
「思ったよりひどい理由だった!」
「私と似た性格で、あんたとキャラ被り……?ますます分かんなくなったぞ」
【メアリー】
「まあ、いずれ分かるわ。貴女たち、パーティーメンバーが十人もいるんでしょう?実際のとこ、書き分けに困ってるところもあるんじゃない?」
「おいおい、えらいこと言い出したぞ」
「メタ~い」
「この人もしかして……露草に精神的ダメージを入れるつもり!?」
地の文書いてる人に矛先を向けるのはどうかと思います。えっ図星なのかって。嫌だなあ、そんなことあるわけないじゃないか。
あと、君たち、そういう前提で話を進めないの。露草さん的には、心配するより否定して欲しかったり。消極的な肯定とかね、パーティーメンバーからもこの扱いとか、もうね。
【メアリー】
「私が出せる幻影はたった二つよ。この剣だって浮かせることしかできないわ。一時的に三刀流になっても攻撃できるのは、そのために組まれたシステムを使っているためね。でも」
急にやってくるシリアス。四天王あるあるですね。
【メアリー】
「私より凄いヤツが上にいるの。貴女たちも出会うことになるのよ。理不尽と馬鹿みたいな能力を持つ相手に。真面目にやってるのが嫌になるぐらいの才能に」
「……」
【メアリー】
「たかがゲームのキャラに何を言ってるのかしら、私は……。でも、覚えておいて。私のバトルシステムは伏線よ。私に苦戦するようなら、諦める準備をしておくことね。さあ、始めましょ。風切りの如く襲う刃を堪能してちょうだい!」
ちょっと泣きそうな表情をするメアリー。しかしすぐに顔色を元に戻して、彼女らしい雰囲気を纏う。空気が引き締まる。疾風の刃……その称号の由来は、彼女の素早さだけではない。カマイタチに吸い込まれたような、斬撃の多さ。メアリーの代名詞だったもの。
【メアリー】
「クラッシュブレイド!」
「そこまで言われたなら全部避けてやるしかないじゃん!」
「あたしも行けるとかまで行こうかなー」
「二人とも凄いやる気だな。銃士って回避特化じゃなかったよね?無難にガードで行くか」
幻影剣。それはスキルや通常攻撃の回数を補佐するためのものだ。普通なら、ステータスやアバターグラフィックに変化を及ぼすことはない。せいぜいスキル使用後に“攻撃回数がアップした”というテキストが出るくらいだ。
彼女の周りを回転する画像は、彼女の脳内の想像図を反映しているに過ぎない。たったこれだけでも、達成すれば称賛され普通の人間というカテゴリーから逸脱する。それなのに。
【メアリー】
「ふふ、余計な口を叩けるのも今のうちよ。レイドソード!」
「零度なのかレイドなのか、それが問題だね!」
「ちょっと。声じゃ違いが分かんないよ」
「手に持ってた剣が消えたんだし、少しはあせろーぜ」
回数を増幅するスキルは、双剣士ではない彼女が、本来手に出来ないはずの力だった。このゲームでいう彼女のジョブは戦士|(剣を装備した)になる。今でこそ剣士を名乗っているが、厳密には剣士というジョブはないからだ。
特にメアリーが始めた時期は第三世代であり、双剣士や長剣使いという特定の装備武器による分岐職が存在しなかった。ついこの間まで最強の名を馳せていた彼も、双剣を装備した戦士(と狩人)でしかなかった訳だ。
【メアリー】
「ややこしいかもしれないけど、私は戦士なのよ。だからこんな技も使えるの。スライドアックス!レインスピア!」
「斧を飛ばすのはやばいでしょ!」
「わーい、槍が降ってきた」
「赤銅が壊れた!?」
「壊れてないよー。びっくりしただけー」
「後ろに避けるんじゃ、無理なタイプか」
右の剣の画像が斧へ切り替わる。左の剣は槍だ。真っ正面から斧が迫っていて、上からは槍が落ちてくる。圧倒的な物量に押し潰されそうだ。単純に方向だけ見ると、斜め後ろに移動すれば問題ないように思えるが、桔梗の言う通りそうではない。
【メアリー】
「チッ。乗ってはくれないのね!バリアードブレイド!」
「やっぱ避けなくて正解だったな」
「前言撤回!回避って難しいね!」
「そろそろ反撃しなくっちゃ……ってええ!?」
先程メアリーが放ったレイドソードは、まだ発動していないからだ。レイド・ソードは、不意打ち罠とも呼ばれる必中スキルだ。効果の発生条件は、プレイヤーが特定のポイントに移動すること。敵対するプレイヤーが対象ではないのがミソで、設置したプレイヤーが引っ掛かってそのまま自爆した例もある。
三割りれんじゃーずは、当然こんな事件は知らなかったが、あからさまな罠には気付いていた。その場で二つのスキルを甘んじて受け止めることにしたのである。だが、メアリーは移動を強制させるようなスキルも所持していた。
【メアリー】
「逃がさないわ、覚悟しなさい!」
三割れんじゃーずの周囲に出現した、剣の環。もちろん単なる障害物ではない。その大きさが徐々に狭まっていく、行動や選択を阻害するスキルだ。うっかりすると多段ヒットで死ぬ。
「無理やり移動させる気だよ、この人!」
「罠の位置が分かりやすくて助かるよな」
「ど、どうすんの、これ!」
「混乱し過ぎじゃね?」
「桔梗、なんか名案でもあるの!?」
「ジャンプすればいいじゃん」
「なるほど」
弾幕ゲーあるある。上に避ければよくね?かくて三割れんじゃーずは跳び跳ねて前に移動する。罠はなかった。うしろの方でバリアードブレイド同士が接触する音。レイドソードはまだ発動していない。
メアリーがレインスピアで縦軸移動を封じなかったのは、慢心かそれとも良心か。メアリーと三割れんじゃーずはほとんど無傷で対峙する。
【メアリー】
「大見得張ったのに、自信なくしちゃうわ」
「次は、私たちのターンだからね?」
「あたしだって全部避け切れなくて、自信喪失中なんだから」
「自信満々に聞こえるのはなんでかね?」
赤銅が回復丸を使って、傷を癒す。準備は満タン。後ろの罠に引っ掛からないために、前に出る。攻撃してメアリーを倒すのだ。
桔梗が武器を取り出した。黒鉄が自己強化のスキルを唱えた。赤銅が気配を消した。
メアリーが、申請を始めた。
【メアリー】
「私は疾風の刃よ?避けるのも得意なの。まあ、黒い子以外は初見だから完全には推測できないけど」
「黒鉄は見たことあるんだな。チャージ」
「忍者って珍しいの?って返事したらやばいか」
「あたしもよく知らない。露草なら知ってるのかな」
「しゃべったら場所分かっちゃうんじゃ……」
「大丈夫。今から姿消すから。カクレミ」
「宣言すんなし」
【メアリー】
「貴女たちの事情は知らないけど、銃士や忍者なんてジョブがアップデートされたなんて、聞いたことがないのよ。今あるジョブで再現してる人は見たことがあるけど……。装備やスキル、その使い方に至るまで、まるで違うのね」
「どうやって再現するのか分からんけど、装備品とかもうコスプレの域じゃん」
「装備品を揃える、といってもあたしの場合は服みたいなものだったけどねー。シルバーローブの性能を持つ忍者服ください、とか露草は言ってたなあ」
「うちもそうだった。なんか沖縄で見た、好きな柄とか写真でTシャツ作るお店を思い出すんだよね」
【メアリー】
「そうね……素手が武器の戦士は、装備にとことん拘ってたわ。鎧なのに服に見えるようにカスタムしたり、素手だと効果を発揮するアクセサリを揃えたり」
「黒鉄は、モンクってジョブだったよね?」
「さっきの言葉的にそれ、包帯か布か巻き付けたようにしか見えないけど、服なんだよな?」
「モンクだし服だよ。少なくとも、戦士じゃないはず」
【メアリー】
「ふふふ。そうだったの。それは失礼なことを言ったわね、訂正するわ。みんな見たことないジョブばっかなのね」
「いや、別にそれはどうでもよくね?……ロックオン」
「間違えたから訂正したんだよ。いいことだよ」
「どっちでもいいけど、赤銅は喋ったりして大丈夫なの?」
「たぶん。相手もあたしのこと知らないみたいだから、いいかなーって」
【メアリー】
「切り札は温存しておくべきよ。私が上司に告げ口しちゃうかもしれないわ。しないけど」
メアリーは朗らかに笑う。この戦闘もかなり終盤だ。なのに、こんな穏やかな会話をしていることが不思議だった。
幻影剣の効果が切れたら、たぶんおそらく万が一にも……私の勝利はなくなる。始めから勝てない試合だと諦めるのは簡単だった。でも、私は意地っ張りなのだ。メアリーは目を伏せる。とてもとても意地っ張りなプレイヤーが、一人居たっていいはずだ。
メアリーは、幻影剣の画像処理をやめ、もう一度幻影剣を発動する。視覚的には何の変化もないけれど、別に分からなくてもよかった。申請が終了する。互いに最大攻撃を当てあって勝負を決するなんて、どこの漫画展開なんだろう。なんだか気分が高揚してきた。有り体に言うと、わくわくする。今の自分を捨ててもいいんじゃないか。
【メアリー】
「ジョブアップ、ウェポンマスター!」




