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【勇者】

「前回のあらすじ」


【ゼロ】

「メアリーさんおめでとう」


【メアリー】

「イヤッホゥ!」


【ハンマー】

「はしゃいでるなあ」


【ゼロ】

「とりあえず一回は出たからこのあと暫くお休みでも問題ないですよね?」


【メアリー】

「えっ待って」


【勇者】

「技の方針は固まったけど、キャラが分からんってさっきから唸ってる」


【ハンマー】

「前回も迷走してたし」


【ゼロ】

「そういうことなので」


【メアリー】

「えっマジなの?ちょっと」




◇◆◇◆◇




 メアリーさんの放置プレイが決まった頃、常葉さんは眼を白黒させていた。

 おかしい。図面と完成した建物に共通点が見られない。その辺にいた、それだけで手伝わされたプレイヤーたちは汗を拭っている。いい仕事をした、と言わんばかりの清々しい表情。

 常葉さんはもう一度唸った。どうしてこうなった。


「隠し部屋の仕掛けにちょっと難あり、って感じかね?」

「いえ、充分だと思うんですけど。ハンマーさん、ここを使うのは僕じゃないんですよ、お忘れですか」

「このコロシアムドームとか、1パーティーが所有するもんじゃないだろ……誰だよ、作ったの!」

「そういう弓人さんだって、完全防音の小部屋作っちゃったし……ナニに使うつもりなんでしょうね?」

「ち、ちげーよ!そういうのじゃなくて、ついいつもの癖で……鍛治施設を作る前に踏みとどまったんだ。むしろ俺は誉められるべきだと思う」

「いっそなかったことにすれば良かったんじゃ……」

「……その発想はなかった。今からでも変えた方がいいかな?」

「落ち着いてください。いまやり直したら、最初からになってしまいます。ここは無難に板でも張り付けて、部屋を認識させない方向で……」

「ホラーチックな展開が来る予感がした」

「壁を叩くと妙な空洞音がするんですね」

「そういう話はやめてくれ……!」

「だとすると、変に取り繕うより、素直に用途不明の部屋が出来てしまいました、っていった方がいいんじゃね」

「ま、まあ、希望された分はちゃんと揃ってますし、セーフですよセーフ」


 常葉さんは地獄耳なので、プレイヤーたちの内緒の相談会もよく聞こえていた。なんか誤魔化そうとしているのも、雰囲気で感じ取った。予定よりも広い更地になった元ラスダンの森を見つつ、常葉さんは呟かずにはいられない。どうしてこうなった。

 常葉さんがオーダーしたのは、KAZAKOSHIれんじゃーのおうち。最低でも九人分の女の子用の部屋と、十人で話し合いができる会議室、それからトイレとかお風呂とか洗面台とか台所とか、住居として必要なものを揃えてほしい。そういったつもりだったのだが……。眼前に築かれたそれは、どうみても城塞だった。カフェイクルの領主が住まう館よりもゴツくて、でかい。誰がこれを女の子が住む家だと思うだろうか。こんな砦みたいなものを。


「ファンタジー補正にしたって……いや、ねーな」

「許されない感じだわ、コレ。どうしよう」

「でも、格好いいよな?」

「ハンマーさん……現実逃避はよしましょう。これの使用者の九割は女の子なんですよ。普通の女の子」

「わたしたちが普通でないみたいに言わないでよ」

「テメーらは普通じゃないし、女の範疇に入ってないからそもそも論外」

「つまるところ、私は男だった……?」

「それもやめていただきたい」


 そこらへんを歩いていたプレイヤーは男だけではなかった。当然、人それぞれの理由から暇があったからゲームを遊んでいた訳で、常葉さんとしても女性ならではのセンスを活用して欲しくて……。利害の一致であった。なお、常葉氏の利と女性プレイヤーの害が一致したのである。


「馬鹿なことを……。まだログインしてるようなやからがマトモな女だと思ったのか!」

「ハンマーさん、ユウさんがこっち見てますよ」

「い、いや。いい年してネナベしてる私もマトモじゃないと思うしね?」

「プーッ!死ねって言われてるじゃんハンマー死ね」

「唐突に向けられる殺意におれは驚きを隠せないよ」

「だがなあ、身近にかなりマトモな女性がいるんだから配慮はした方がいいと思うぞ。発言に対しては全面的に同意だけど」

「えー。私マトモ系女子のカテゴリーじゃないの?」

「は?」

「死ねよ」

「あんたが全ての元凶だろうが」

「昔よりは、だろ?」

「フルボッコにされたぜ!」


 ユウさんは稀に見るマトモ系女子であり、男性アバターではあるが鍛治職人唯一の女性プレイヤーである。この人だけ勧誘すれば良かったんじゃないかな。常葉さんは途中から袋叩きの刑に処されたフミタカさんを見ながら思った。ついでに口にも出した。フミタカさんが精神的ダメージで死んだ。

 ちなみにフミタカさんはセルさんの奥さんで、現役の腐女子である。かつては自らを男性プレイヤーと騙るロールプレイを行い、現実世界の性別:男に精神ダメージを与えるなど、猛威を奮ったゴツイ男性アバターだ。現在は化けの皮が剥がれるきっかけとなった、元勇者パーティーが手綱を握っているほか、より酷い腐れ具合の女性アバターが現れたため、比較すれば大人しい方だ。比較すれば。


「あっしまった。いつもの癖でうっかりSATSUGAIしてしまった」

「どんな癖ですか!」

「蘇生?しなくていいんじゃね」

「セルさんが見捨てるんなら誰も回復できないわな」

「時系列の法則が乱れる!!」


 常葉さんが一瞬見せた黒い影。それがにゅっと出てしゅっと消える僅かな間で、フミタカのHPは儚く散った。点滅する倒れグラのフミタカ。神官であり、蘇生スキルを数多く覚えている彼女の夫は、とくになにもしなかった。フミタカは光の粒子となり、空へ消えてゆく。デスカウントが1つ乗ってレベルが1下がった。

 ついでに、それオレじゃないから!とかいう時系列と自己尊厳を無視した突っ込みが、空の彼方から聞こえてきたが、常葉さんは斧でガードしたのでセーフだった。おまえ、そのキャラでいいのか、確立しちゃうぞ。


「フミタカさんは裏側守備表示なんですかね?」

「いや死んだし、墓地行きじゃないの?」

「なんかよく分からん効果を発してるし、攻撃表示なんだろ」

「いつからフミタカさんがモンスターだと思っていた?」

「なん……だと……」

「じゃあ罠か魔法なのね」

「罠一択だろ」

「えっ、なにこれ?なんで皆分かるんだ……?」

「ハッ。……なんで僕たちはカードゲームの話してるんでしょうね」

「知らねーよ。デスペナルティとかゲームシステムを某カード王風に言うの流行ってんの?」

「流行ってるかどうかは知らんが、某カード王はまだやってるらしいな」

「そっちの事情は聞いてないからな?」

「主人公が闇堕ちするアニメですよね!僕も見たことあります」

「その条件だと漫画の方が適切じゃね?最大のフィールがなんとかってやつ」

「何の話をしてるかは分かったけど、おまえら詳しすぎじゃない?」


 何故それで盛り上がるし。常葉さんは何気なく会話に参加しながら思った。なにもかも間違っている……。原作をよく知らないのに口を出すべきではないよね。ごめんなさい。


「うわぁぁあ!セルの馬鹿ぁ!」


 この流れに割って入るフミタカ氏である。強い(確信)

 てかなんで帰ってきちゃったの、この人は。周囲が不思議に首を傾げるなか、セルは冷静だった。ダッシュで近寄られつつ罵られたので、頭に来たという説もある。単に慣れていた可能性も捨てきれない。とにかくセルは顔色1つ変えず、いい放った。


「親、趣味バレ」

「死んでしまいますやめてくださいお願いします」

「すごい漢だ」

「すごい漢だ」

「すごい漢だ」

「むごい漢だ」


 コピペみたいになってる。けど、手打ちですから!と謎の努力アピールを欠かさない私である。どや、すごいじゃろ?


「いや待てよ。単なる腐趣味なら買った書籍類からすでに推測されているはず……。

 よって、私が謝る必要はない!」

「ところでフミタカ、机の上に置きっぱなしだったこの同人誌だが」

「調子に乗ってすみませんでした。それだけは勘弁してください」

「置きっぱなしだったのか……。せめて隠せよ」

「ついでに返してください、お願いします」

「返却を要求するなんて強気ですねえ。焼いてしまったらどうです?」

「やめてー!もし焼却し損ねたページを誰かに見られたら死ねる!」

「まあ、そんなことはせんが。ほれ」

「やたー!返ってきた―!」


 大変な喜びようである。だが、少し考えてみてほしい。

 ここは架空の、データ上の空間である。

 いかに現実世界リアルと混同するぐらい身近に存在するこの世界観であっても、リアルの物質のみで組まれた物をゲーム空間に持ち込むことは簡単ではない。

 携帯端末やネット内に格納されているデータ類、成人した一般人が平均的に持つ道具ならばともかく、一部のアレな趣味を満たすための同人作品が、単なるゲームの中で再現できるものだろうか。無駄にハイテクな技術を搭載しているからといって、データのみで構成されたその本を、データ上の存在でしかないこの空間で受け取って意味があるのだろうか。


「セルさん……コピーデータを現実世界に反映できましたっけ」

「できるぞ。だがコピーだ」

「やっぱり原本は」

「開いたまま部屋に案内しちゃうフミタカも悪いと思うんだが」

「あちゃー。でもフミタカさんがあんなに慌てるとは……中身が気になりますね」

「……アレはな、未発行なんだ。うん、いつもとは違う正統派黒歴史だし」

「それは我々にも経験があるような……?」

「ノーコメントだ」

「きゃー!今なら死ねる!」

「さっき死んだばっかだぞ」

「そういやそうだった」


 フミタカさんの貴重な真顔シーンが公開中だ。ハンマーの冷静な指摘に我に帰るフミタカさん。一方セルさんは微妙な表情を隠さない。


「もしかして、セルさんがモデル的な?わずかな喜びが垣間見られますね」

「ゼロさんは誰に向かって発言してんの?」

「分からなくなってきた」

「敬語どっか行くとか……重症じゃん」


 すっかり脇道に逸れていくプレイヤーたち。常葉さんがふと周りを見渡すと、あれだけ集めた生け贄はほとんど逃げ出しているのに気付く。残っているのは、いつもだいたい掲示板に入り浸っているメンツだ。彼ら風に言えば、未だにログインを欠かさない変人しかいない。

 常葉さんは砦となってしまったれんじゃーずのおうちを眺める。今更砦を壊すのは、非合理的である。それは誰の目から見ても明らかだった。だが、このままKAZAKOSHIれんじゃーずに“トリデ”を進呈するのもまた、おかしさ満点である。とりあえず、外見だけでも漢らしさを取っ払う必要がある。そう結論付けた常葉さんがとった手段は、安価なものであった。


「これ、グラフィックだけなんとかならない?テクスチャ張り替え的な感じで」

「できるぞ」


 ハンマー氏の簡潔な返答。常葉さんは突っ込まざるを得なかった。まじかよ。初めからそうしろよ。しかし我らがゼロさんはへこたれず、冷静に不足点を指摘する。


「でも、手触りはテクスチャじゃ変えれませんよ?このザラザラっとする岩っぽさで見た目が木とかだったら、詐欺にも程がある状態です」

「テクスチャを岩っぽいものにすればそれは気にならんだろうが……。そんなもんあったっけ?」

「大理石とかどーよ。神殿みたくなるだろーけど、城塞よりかはましだろ」

「ハンマー……思考停止はよせ。確か手触りは手触りで、弄れるとこあったはずだぞ。最終手段で、壁に壁紙みたく薄い素材を張り付けるって手もあるし」


 まさかの万事解決だった。グタグタと話して問題を先送りにしていたが、一度造った建造物はすでに作品と化していること。ゆえに、壊すのは忍びないと鍛冶屋二人が考えていること。他のプレイヤーが二回目の建造を面倒くさがっていること。

 そして様々な思惑や裏事情が……。


「おれは素材感に拘りたかった。今ならどんなことにだって挑戦できると思ったんだ」

「どんなレアな素材もただで手に入るし……ちょうど良かったのが悪い」

「今だけは己の信念を捨てるべきです。弓人さんも責任転換はやめましょう」

「珍しいな、ゼロが諫め役に回るなんて」

「感心してる場合じゃないわ!私たちもハンマーさんたちを止めるのよ!」

「おまえはおまえで熱いね」

「セルさんはいつもクールですね。そんなんだから薄情者とか言われるんですよ」

「……オーケー。あの二人を黙らせればいいんだな?」

「ま、待て!男はクールな方が持てるぞ、たぶん!」

「少なくとも切れやすい若者はあんまりいい条件とは言えませんねー」

「何故煽っていくのか」

「余った素材をパクろうとか言い出したのはハンマーだからな!」

「ぬれぎぬ!」

「ゼロさん大丈夫?三人まとめてぶん殴られそうな雰囲気……」

「フミタカも殴るから四人だぞ」

「まきぞえ!」

「あれ?僕が殴られることは確定なんですか?」

「いいから建物のイメージ回復を図れYO!」


 すべての原因を担っているのだ!そうに違いない!

 キャラ設定をかなぐり捨てて突っ込んだ常葉氏の様子からも、カオスの伝染が窺える。

唐突なラップ調に、あとでログを見た某リーダーが抱腹絶倒だ。

 福絶抜刀じゃないYO!組み合わせ方間違えてるから!


「やり損ねたネタをノートとかに書き記すとか、いくつですかハンマーさんは!」

「精神年齢十四前後なんだろ」

「遠回しに中二病って言われた。死にたい」

「弓人さんも、原因を他人に擦り付けるとか小学生じゃないんですから!」

「おまえがいつもやってることだろ」

「さりげなく自分の内的年齢が小学生だって暴露してるわ!」

「ゼロさんに言われるとは……おれも疲れてるな」

「僕のジョブはアサシンですし、久しぶりにプレイヤーキルしてもいいですよね」

「相変わらずの煽り耐性0だな……名は体を表す、か」

「セルだってさっき切れてたじゃない。薄情者云々で」

「そういえばまだ殴ってなかったな。有言実行しないと」

「……なんでおまえたちったら煽り合うことしかできないの?」

「それも煽りに入るからな?」

「弓人さん、それも(ry」

「……常葉さん、斧振り回しちゃいそう」

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