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09

【勇者】

「前回のあらすじ」


【メアリー】

「私の出番はいつなの!?」


【ゼロ】

「ちょ、本人出てきちゃいましたよ。どうします?」


【勇者】

「のして片しておくのはどうだろう。ところで、あらすじは?」


【ゼロ】

「暴君みたいな発言しやがって……。いやアレが暴君ですし、実績もありますからあながち間違いないじゃ……あぶねっ」


【勇者】

「この剣の錆びにしてやろう」


【ゼロ】

「それ錆びない剣じゃないですかー!」


【メアリー】

「前回のあらすじ……は。ケイトさんびっくり。なにこれ、カンペ?カンペにしても酷くない?」




◇◆◇◆◇




 ケイトさんがびっくりしたり、メアリーさんが憤慨したりしているころ……。

 双剣士なリーダーと巫女さんな卵はボスと対面していた。


【ボス】

「出会ってそうそう中身がどうのとは……。風情のない小娘だ」


「卵、下がって。こいつは、危険だから」

「露草……?」


【ボス】

「私を知っているとでも言うのかね。見たこともない小娘よ」


「あなたが知らなくても、我々があなたを知る機会はいくらでもあるのですよ。ミスター・偽者さん」

「そういえば、この人の二つ名は『偽りの支配者』だったね。誰を騙ってその名を名乗っているの?」


【偽りの支配者】

「ふふふ。そこまでご存知とは大変光栄だ。いいだろう、小娘たち。本気で掛かってこい。跡形もなく消し去ってやる。親愛なる我らが王のために!」


 こんなシリアス展開を迫られている理由について述べるは、少し前に遡らなければならない。

 同日、約30分ほど前……。突如寒気を感じた双剣士の具合を心配して、最後の鍛練を切り上げた卵。二人はいつでも突入できるように、ボスの前の禍々しい扉の前で休んでいた。


「大丈夫?」

「うーん、なんだかよくわからんのだが、誰かに怒られてる気がする」

「なにそれ。どういうこと?」

「知らない人に八つ当たりされた感覚に似ている……かもしれない」

「そんな経験まだしたことないよ」

「いやはや。一瞬だけだったし。いったいなんだったんだろ」

「露草にも分からないことってあるんだね」

「そりゃたくさんありますとも。ま、気のせいってことにしとこうか。ここ結構冷えるし、むしろ体調崩しちゃうかも」


 露草はそう言って立ち上がる。実際のところ何も解決してないのだが、露草さんは気にしない。ここですべきことをまだ果たしてないからだ。今は考えている場合じゃない、と判断したのだ。

 卵に右手を差し出し、続けて言う。


「作戦はもう話したよね?」

「もう。何度も聞いたってば。聖属性の攻撃ならよく聞くから、わたしは魔法の方に専念するんだよね?」

「回復は可能な限り私がするよ。双剣士は素早さが高いからね、それくらい余裕、余裕」

「調子に乗らないの」

「サーセン。とある人から聖属性の剣を借りてきたから、隙が出来たら私も攻撃するよ。ここの人はそんなに時間をかけるようなボスじゃないしね」

「そういうの、確かフラグって言うんだよね」


 卵、それをいってしまうこと自体が死亡フラグなのですよ。最近はそうでもないこともあるらしいけど。


「……確かに。でも実際、もっと時間をかけるべき敵がいるからね。出来るだけ早く片付けて、他の四天王の援護に行かなくちゃ」

「どっちのボスもよゆーで倒せるんじゃなかったの?」

「私はそう思ってたけど、誰とも連絡がつかないし……ちょっと心配になったんだよ」

「そっか。それじゃ、気合い入れて行きますか」

「はいな!」


 卵と露草は同時に扉に手をかけ、掛け声と共に勢いよく開く。ほこりくさい部屋が見えた。

 踏むたび足跡が残るホコリのカーペット。雲の巣の張ったベッドに、傾いだ机と倒れたイス。じめじめとした空気も相まって雰囲気たっぷりだ。


「演出とはいえ、これは酷くない?」

「いや、演出じゃない。変だな、なんでこっちに入るんだ?」

「露草、見て。あそこの壁ボロボロ。三本の爪痕?が入ってるし……なんか変だよ」

「……一度出よう。もしかしたらバグかもしれないし」

「えっ。それってどういう……」

「げっ。扉が開かん。これは……まさか!」


 卵の疑問に答えることなく扉へ飛び付き、今度は反対側の部屋の奥へと駆ける露草。付随して舞うほこり。むせかけた卵は露草に向かって声を張り上げようとするが、その姿はない。急に心細さが込み上げて、扉に張り付くが露草の言っていた通り、開く気配はない。

 卵は頭の中が真っ白になっていくのを感じた。これではまるで大嫌いなホラー小説の……。そこまで考えたとき、後ろから足音が聞こえた。露草は前に向かって走っていった。扉は開かない。なら、わたしの後ろにいるのは……。


「誰!?」


 奇跡的に、声を発することができた。震えていないのが信じられないくらい強い誰何が後ろの人物を貫く。わたしの声を聞いたのか、露草の声がこちらに向かってくる。


「卵?待っててすぐ行くから!」

「……あなたは誰なの?」


【???】

「君こそ誰だね?ここは私の部屋なのだが」


 私の部屋だって?

 私たちが手をかけたのはボスに繋がる扉。そして、その先がここに繋がっているということは。この全体的に黒っぽい男性は。その正体は……。


「あなたはここのボスですか?」


【???】

「ふむ、ボスか。そんな言い方もあるかもしれないな。少なくとも、この館の主というのは私さ」


 やはり。露草が断片的に話してくれたストーリーによれば、ボスはリッチ……ゾンビの類いで、昔はこの館に住んでいたという。間違いない。この人がわたしたちの倒すべき相手、四天王の一角だ。


「あなたを倒しに来ました」


【ボス】

「これはご丁寧に。私の名はグロッフェル。モンスターを操ることができる、魔物の支配者。あなた一人で私を倒すことができますかな?」


 来る、わたしは思った。露草の気配はまだ遠いけど、彼女が言った通りだとすれば、露草が来るまで粘ることはできるはずだ。

 緊張で滲むつばを飲み込んで結界の詠唱を始める。その矢先だ。露草が飛び込んできてわたしの腕を引き込んだのは。


「卵、そいつはだめだ!中身入り(・・・・)だ!」


 そして話は冒頭に戻る。


「あいつはプレイヤーだ。この間戦った双剣士みたいに、中に人が入ってる。さっきの作戦はなしにしよう。ヤツは愚かだがバカじゃない。こちらの意図を読んで逆にダメージを食らってしまうかもしれない。だから、慎重にいこう」


 露草はそれだけ言うと、卵とボスの間に割って入り、巫女を守るために剣を構えた。

 卵は戸惑う。さっきの作戦がなしならどう動けばいいのか。慎重に、ってどういうこと。聞きたいことはたくさんあった。言いたいこともたくさんあった。

 卵はさっき中断させられた結界を、自分と露草にかける。そして、聖属性の魔法を唱えながら露草の隣に立つ。


「よく分かんないけど、魔法を当てれば倒せるんだよね!?」

「もちろん!弱点はそのままだ!ただ、人間らしく抵抗してくるって点が追加されてるけど!」


【偽りの支配者】

「人間らしく、か。人間として生きていたのは久しく昔のこと。私は魔王さまの部下として正しくあるのみ!」


「部下の正しい在り方がストーカーで変態だったのかよ!魔王が涙目だよ!四天王のラスボスに言い付けるぞ!」

「え?ストーカー?変態?四天王?ラスボス?」


【偽りの支配者】

「ふん。あの程度の餓鬼と張り合っていたのも懐かしい話だ!お前たちをほふったらヤツに会いに行くのも悪くない!」


「言ったな?言質取ってやったぞアホジジイ!あの真・魔王の右腕は今や最大のラスボスとまで呼ばれてるプレイヤーだ!自称・魔王の右腕(笑)じゃ勝てねーよ!……卵さん、もしこの糞ガエルに負けたら、勇者さんに告げ口しに行こうね」

「な、なんかいまいち聞き取れないけど、派手なネタバレされてる気が――」

「大丈夫、そのうちどうせ会うから」

「やっぱりネタバレじゃんか!」


 卵の叫び虚しく、シリアスなんだかギャグなんだか分からない雰囲気で、二人は四天王・グロッフェルとの戦いに突入したのだった。


「そこのカエルは、四天王の中では魔法使いという立ち位置だ。ということは?」

「銀朱と同じだから……調子に乗りやすい!」

「なるほど。その発想はなかった。じゃなくて、魔法への耐性は結構あるけど、物理には?」

「あ、そっか。弱いんだ」

「そうです。弱いのです。シナリオ的には三番目に戦う四天王カエルさんですが、最初から戦っても問題ないとか言われる四天王最弱のお爺さんです」

「精神攻撃!?」

「しかし、合わせて物理攻撃も行います。卵、このナイフで刺すんだ!」

「分かった!えっ!?ナイフで!?」


 露草の作成が成功したのか、頭を抱えてどこかに去っていく四天王カエル。卵はナイフを装備した!


「しまった!あのカエル、儀式陣にはいるつもりだ!」

「儀式陣って?」

「ああ!卵の使ってる結界の邪悪バージョンだよ!そこに籠られると、固定砲台魔法撃ち放題お爺ちゃんになってしまわれる!即刻阻止するんだ!」

「邪悪バージョン!?魔法バージョンじゃなくて!?」

「エエーイ。しねぃ!」

「無視された!?もう、手当たり次第に当たれー!」


 阻止するために手当たり次第の攻撃を続ける露草と卵。しかし、二人の抵抗むなしくカエルさんはほこりだらけの玉座に座ってしまった。どうする、KAZAKOSHIれんじゃー20%!


【偽りの支配者】

「ふははは。所詮小娘!私を愚弄して怒りを誘うつもりだったのだろうが、当てが外れたようだな!きさまなど、そこらのほこりと同程度の軽さに過ぎん。この魔法で天まで吹き飛ぶがいい!」


「なんてこった!わしら、この部屋にたくさんいるじゃねーか!じゃなくて、こんなにほこり飛ばされたら戦闘どころじゃないぞ!」

「どっちもどうでもいいよ!どうするの?座っちゃったよあの人!」

「座った程度、何だと言うんです!?(ビーム)を放ってくる訳でもないのよ?安心しなされ、策はもう立てておきましたから」

「口調のせいかもしれないけど、不安しか感じないんだけど!」

「仕様です。スイッチオン!」


 ビーム撃つ人は拳がメインだろ!玉座に座ってるのは魔法がメインの人だからセーフセーフ。

 露草がどこかから取り出した安そうなスイッチを押すと、どこかで――方向的には儀式陣の見える正面から、ボンという爆発音が聞こえた。スイッチといったら自爆、スイッチといったら爆弾。ありきたりなコンボがいま美しく決まる!

 自爆陣の土台の部分が激しく崩れ、カエルは玉座とともに射出された。玉座は爆発の衝撃に耐えきれず空中分解し、解放されたグロッフェルはほこりだらけの絨毯の上に美しく着地した。


【偽りの支配者】

「くっ、既に罠が設置されていたとは……。小娘め、やりおる!」


「爆弾物の上で仰け反るおまえの姿、笑いものだったぜ!吹き飛ばされたのはおまえの方だったわけだ!ざまあみろ!」

「えっ。ここ笑いどころじゃないの!?」


 確かに卵の言うことはもっともだ。ゆったり寛いでいたらロケットの如く発射され、壊れた玉座に見向きもせず、何事もなかったかのように悔しさを滲ませるカエルお爺ちゃん。その姿は激しくシュールであった。


「おまえの服、やべーわ。ほこりしか着いてねー。ハウスダストの方のな!」


 人が変わったみたいに、煽り続ける露草氏も、だいぶシュールだったが。というか露草氏よ、おまえさん特定のシーフが乗り移ってないかい?


「時系列の法則が乱れる!」

「良かった。いつもの露草だ」

「えっ!?待って、卵は何か誤解してない!?私、どんなキャラだと思われてんの!?」


 露草氏の心配とは反対に、卵は良かった良かった、とそれだけを繰り返すのだった。

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