08
【勇者】
「前回のあらすじ」
【ゼロ】
「ケイトさん無双。しかしうっかり本気を出しすぎる。シナリオの被害者」
【勇者】
「ノリノリだなあ」
【ゼロ】
「勇者さんが言うんです?それ。ちなみにボタン式を採用している有名なプレイヤーってのは、僕のことですよ」
【勇者】
「おれも使ってるよ」
【ゼロ】
「まじかよ!じゃあ僕じゃない可能性もあるか」
【勇者】
「なんの根拠もなく主張したのか……」
◆◇◆◆◇◆
銀朱は起きた。起きたと思ったら起きてなかった。目の前に空と撫子がいて、泣きながら何かを言っているのを遠いどこかで聞いている。ゲームの中、だけでは片付けられない現実味のなさに、銀朱はなんとも言いがたい感情を覚える。なんだこれ、なんで泣いてるんだろ、なんで……。
自問自答しながら銀朱は空に手を伸ばした。助けてほしかった。この訳のわからない空間から。涙を流す二人が銀朱の体に触る。銀朱の手が空をすり抜けた。
やっと気付く。自分の体を見下ろせることに。空や撫子に触れようとする銀朱自身は透けていることに。
「もしかしなくても、死んじゃった?」
口に出してハッとする。死んだ?まさか。だって。でも。私は大魔法使いのはずなのだ。露草も先達のプレイヤーたちも太鼓判を押した、四天王との戦い。白銀の初陣。いやまて。これはただのゲームだ。死んだ……体力がゼロになったからといって、実際に死ぬような経験をする訳じゃない。現に、露草は何度でも生き返ったし、私も特にどこかが痛いとかはない。ただ、ちょっとだけ空たちと遠いだけ……。
必死に自分に言い聞かせる私を次にハッとさせたのは聞き慣れた低い声だった。この声はよく聞こえる。
「な、なんだこれ……」
「白銀……」
私からは白銀がよく見えた。白銀の体から生えているような白い影。私と同じく透けているけど、姿かたちは私の知る白銀そのものだった。白銀は困惑しているようだった。当然だ。私とて未だにその呪縛から解き放たれていない。
「銀朱!銀朱、だよな?」
「うん……」
「これ、どういうことなのか知ってる?」
「ごめん、分からない」
私は白銀を刺激しないように慎重に答える。露草から頼まれていたのを思い出したのだ。ゲーム慣れしていない空や撫子、バーチャルゲームが初めての白銀を守ってほしい、いざという時頼れるのは銀朱だから、と。今思い出して、安請け合いするんじゃなかった……そう思う。私は、ゲームになんて詳しくなかった。いまだって私は怯えて立ち止まっている。白銀のためではなくて、自分のために答えているのだ。
「そっか……分かんないか……。でも大丈夫だろ」
俯く私に何か温かいものが触れた。白銀がすぐ近くにいる。私は白銀の方へおずおずと手を伸ばした。白銀はきょとんとして、次に微笑んで私の手を掴む。温かい。白銀には触れられるのだ。そう分かって随分と安心する。
大丈夫だ。白銀は繰り返した。空と撫子がこれから助けてくれるから、大丈夫。白銀が繋いでいない方の手で私の後ろを差す。倣って振り向いた私が見たのは不思議な光景だった。さっきまで戦っていた人が仁王立ちになったかと思えば、空と撫子の頭をなでて隣に座ったのだ。相変わらず声は聞こえにくい。だけど、微かに聞こえる単語がある。回復……蘇生……。
「何してんだろ?」
「内緒話かもねー。白銀、その、どうもありがと」
「えっ、うち何かしたっけ?え、えっ?」
慌てる白銀がなんだかいつもらしくなくて、私は笑った。
笑うなよー。ごめんごめん、ちょっと可愛かったから。……銀朱も空たちみたいなアレなの?全然違うよー。いや怪しい。怪しくないですよー。
いつも通りの私だ。そう、これが私。くよくよして怖がってるなんて、大魔術師の私に相応しくない。立ち上がらなくちゃ。でもまだ不安だったから、互いの手を握ったまま、私たちは二人の方を向いた。
「まだ話してるね」
「また空中に文字が出てる」
「でもなんか可愛いよね」
「えー、子どもっぽいじゃん」
「それはそうだけど」
空と撫子には触れないけど、近くにいるつもりで一緒に彼の授業を受ける。会話はほとんど聞き取れないから分からないことだらけだけど。戻ったら、空と撫子にたくさん聞かなくちゃ。
「ってうちら、もしかして死んでる?」
「もしかしなくても、たぶん」
「まじかー。死ぬとこんなんなるのか……。あんまり体験したくないな」
「うんうん」
銀朱と白銀の会話中に、敵――ケイトが彼女たちに向かってすまなそうに謝罪したのは、4割れんじゃーずの誰もが見ていなかった。
◆◇◆◆◇◆
「やっぱりね……」
ケイトは空と撫子の検索結果を見てこぼす。彼女たちはリバイブカードを持っていない。やはり保険として回復アイテムをチェックさせたのは間違ってなかった。ケイトは確信する。
「どうしよう、さっきのリバイブカート?が見つからない」
「リバイブカートじゃなくて蘇生カードじゃなかったっけ」
「落ち着きなさい。それ以上は危ないわ。じゃなくて、結果画面を折り畳んでる三角を押してみて。あなたたちが持ってる回復アイテムを表示してくれるから」
「ここだね!」
「空、たぶんこっちだと思う」
「な、なんだこれ。変なのが……」
「えーと、この中のどっかにあるのかなー」
「撫子、助けてー!」
「……知らないから無理ー」
「ああもう、貸してごらんなさい!」
さっきから言いたかった。もう我慢できない。ケイトの手がにゅーと伸び、空の青色の画面を叩いた。どこをどうしたのかは知らないが、変な表示は消え検索結果が再び現れる。
「おー、消えた!ありがとー!」
「すごーい」
「別に凄かないわよ……。ほらあなたもよ、この辺だったわね。具体的に言うと43ページ目あたりに蘇生アイテムがあるわ」
「これ、全部がそうなの?」
「たくさんあるねー」
ケイトが撫子のメニュー画面を叩いていう。回復アイテムは種類順に並んでいるから、ある程度は位置の特定ができるのだ。
空が自分の画面を放り出して撫子のをのぞきこむ。なるほど、いちいち自分でやるより既に出来ている人のを見た方が早い。真理だ。しかし、ケイトは許さない。
「あなたもやるのよ。ページ指定はここからできるわ。二十づつ見ていってもいいし、ここに43って打ち込んでも行けるから」
「えー。仕方ないかあ」
「これがあれば、銀朱と白銀は起きてくれるんだ?早速使ってみよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!使う前に使い方知ってるの!?」
「おー、43ページ来た」
「あ、知らなかった」
先に撫子がゴールに到達したものだから、すっかり突っ走っている。一方空はマイペースではあるが、自力で43ページ目にたどり着いた。偉いっ。
「しっかし……、すごい量の蘇生アイテムね。あなたたち何者なのよ……」
「どこからどこまでが蘇生アイテム?」
「どこから、はこのリバイブチップからじゃない?」
「誰かが用意して、説明なしってパターンか、これ。ちなみにリターンドロップから、……ユリウスの杖までが蘇生アイテムよ」
よくご存知で、ケイトさん。ただし、用意したのは常葉氏で説明しなかったのは露草氏であることをお忘れなく。戦犯はリーダーじゃなくて、それに付随しているUFOです。
某露草氏が誰かに罪を擦り付けていることなど露知らず、ケイトはここまで徹底的に集めた誰かさんに感謝した。
「なんでレアドロップが最大数まで貯まってるのかしら……。頭が痛いわ。アレじゃあるまいし」
「これを」
「どう」
「使うのか」
「教えてー」
「はいはい。そのユリウスの杖をタップして、新しく出てくる画面の四角いところに移動させて。そうそう上手ね。それじゃ、一旦メニューを閉じて……ああ、これもなのね……」
この子達、メニューを開いたことないのかしら。ケイトはちょっとだけ疲れていた。誰よ、説明責任を怠ったお馬鹿さんは!八つ当たりしたい気分でもあった。彼の脳裏に浮かんでいたのは、ログ門で一日中だらだらしている門番だったが、何がどうしたのか、恐怖の館でモンスターと戦う双剣士はゾクッとした。なんか怒られた気がする。
「メニューを閉じる。これで大丈夫よね?開くときと一緒だし。さあ、よく体を点検して。さっきまで持ってなかったものがあるんじゃない?」
「なにこれ。棒だ」
「これがユリウスの杖?」
「そうよ。さっきの四角は装備とは別に持ち歩きできるアイテムなの。あの四角に置いたアイテムは、四角の場所に応じてあなたたちの体の何処かに実体化するわ。とにかく色々言いたいけれど、まずはあなたの仲間たちを回復させないとね。ユリウスの杖を倒れた相手に向けて振ってみて」
「こう?」
「じゃ、ウチは白銀に……えい」
無造作に降られた杖は、倒れている二人のアバターに光を吹き掛ける。真っ暗になっていた銀朱と白銀のネームプレートが元通りの透明色に戻った。変化はさらに続く。プレイヤーネームの隣にあったどくろマークが消え、HPバーが存在していた枠に青い液体が溢れ始める。みるみる回復していく体力、それに合わせて二人の痛ましい傷も消えてゆき……とうとう完全に回復し終わった。
「ぎ、銀朱、大丈夫?」
「白銀、ハク子起きて!」
しかし、彼女たちは起き上がらない。再びパニックに陥りかけた二人を止めたのは、動き出した銀朱だった。
「大魔術師、銀朱さんふっかーつ!!」
「生き返った?って銀朱?おーい」
「ハク子ぉー!!」
「うおー。頑張れしっちゃん」
「空、ちょ、痛い痛い!」
「よかった!生き返った!」
「スルーって辛くない?」
「ドンマイ銀朱」
ついで上体を起こした白銀が空にタックルされ沈む。感動の再会であった。一方、撫子は誰にたいしてもノーリアクションであり、結果的に誰にも突っ込まれなかった銀朱はいじけた。
ケイトは思う。女の子だなあ、と。ゲームジャンルから言って、シナリオ終盤まで来る女性プレイヤーは少ない。クリアしなくても十分楽しめる要素がこのゲームにはあったし、最終決戦の仕様が変わってから極端に落ちたクリア率から、クリアしなくても平気☆という雰囲気があるからだ。
稀に|四天王に挑むパーティー《ちょうせんしゃ》の中に一人だけ女の子が入っていることもあったが、ここまで女子で統一されているパーティも珍しい。居るだけで珍しい魔法使いが女の子だし、攻撃を頻繁に受けなければならない騎士が女の子だし、魔法剣士なんて初めて見た職が女の子だし、もう一人の子も女の子。それもロールプレイなしの若い女の子たち。
ケイトはもう引き下がれなかった。このパーティーに興味が湧いた。個人的な想いだが、出来るだけ彼女たちに協力を申し出よう、と。
「あなたたちはどういう集まりなの?女の子ばっかりだけど、男の子が嫌いなの?」
「ええっと、ケイトさんだっけ?」
「そうそう。色々教えてくれたんだよ」
「うん、知ってる。見てたから」
「えっ、見てたって。えっ」
「うちらは同じ高校に通ってて、その……仲で来たんだよ、こっちに」
「へえ。どこの辺りから着たの?関東?」
「それはね、ながのけーん」
「長野の山の上から来たんだよねー」
「こういうのって喋っちゃっていいんだっけ?」
「ケイトさんが言いふらしたりしなきゃ大丈夫じゃない?」
「安心しなさい。ケイトさんは口が固いわ。なんだったら沈黙の状態異常をかけてもいいわよ」
「そういうことではない気がする」
「まあまあ。それぐらい大丈夫ってことでしょ」
「KAZAKOSHIれんじゃーって言う名前で活躍してるんだよー」
「こないだ、強そうな双剣士に買ったから、それで知らない?最強だったらしいけど」
最強と呼ばれた双剣士、それが誰か分からないぐらいケイトは愚かではなかった。そして、倒されたという噂も、魔王城前のプレイヤーが話していたのを確かに聞いている。 KAZAKOSHIれんじゃー。総勢七名の女子で構成されたパーティー。
そのイメージは、仲間が戦闘不能になり混乱していた彼女たちとは、到底重ならなかった。




