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07

【勇者】

「前回のあらすじ?」


【ゼロ】

「半分は出したからセーフ」


【勇者】

「ずっとケイトのターン!」


【ハンマー】

「メアリーさんはどこに行っちゃったの?」


【勇者】

「隣の部屋で待機してるよ」


【ハンマー】

「そういうのじゃねーよ!」




◇◆◇◆◇




 白い天井から、黒い星が降ってくる――。

 ケイトを始めとする、補助魔法使い専用のオリジナル魔法『ディザスター』は、攻撃性に乏しい彼らのために用意された攻撃魔法だ。意味は災厄。多くの状態異常を乗せ、護りや回復に気を配る前に殲滅させる。それはまるで悪夢そのもの。

 黒い星はただの魔法攻撃。一応、状態異常メインでは倒せないアタッカー対策としてデザインされた。エフェクトは凝っているけど、それは表面上だけ。見た目の派手さと裏腹に威力は控えめだ。


「く、まぶ……しい?」

「なんか、やばくない!?」

「け……『堅守の構え』!」

「避けても、無駄かも……」


 やはり、メインはダークメテオに乗ったこれだ。眼には見えない無数の状態異常攻撃!いわば脅威的な矢の嵐が突っ込んできたも同然だ。多段ヒットすれば相手は死ぬ。

 しかし、ケイトにとって誤算だったのは、撫子の存在だった。撫子のジョブは何でも屋。卵に次ぐ第二の回復職と呼ばれる彼女の、もっとも多い攻撃手段はステータス異常攻撃だ。そしてそんな彼女は、リーダーの露草からデバフの蘊蓄を聞いていた。撫子は記憶を掘り起こしながら言う。


「さっき渡したアイテムはすぐ使って!」

「えっ、でも……」

「たぶん、出し惜しみすると……露草みたいなことになる」

「なんだって!?」

「分かった、ってもう来てるよ!」

「とりあえず、この攻撃が止むまで耐えて!」


 死ぬ。その表現を避けるためとはいえ、その暗喩は酷すぎないだろうか。いや確かによく死ぬけど。露草氏はあとでログを読んでしょんぼりすること不可避である。

 ちなみに、撫子がもっとも多く使用する攻撃は絵画師のスキルで、キャンパスや白紙に絵を描いてモンスターを召喚するものである。ロクヨン……とか言ってはならない。食べ物を描いても具現化しないし、回復しないからセーフだ。


「ろくよん……!」

「えっなにが?」

「アなんとか!」

「ファンに殴られたりしない?大丈夫?ねえ」

「絵画的能力持った敵は一人だけじゃないから大丈夫よ」


 なにも大丈夫じゃない。

 というか、撫子以外の全員が察しすぎである。空気を読んだと言えば聞こえはいいが、地の文を読んでどうするのだ。あと違うって言ってるだろ。


「この技を耐えるですって?やれるもんならやってみなさい!」

「ここでパワーアップ!?」

「パワーアップの後は戦闘力がダウンする!お約束に沿えば攻撃の隙が生まれるはず!」

「それってどこの常識だよ!?」

「みんながんばれ~」

「「「すっごいマイペース!」」」


 舞い戻るシリアス。

 スーパーケイトさんタイムの発動だ。両手を高く掲げると、ダークメテオの密度が眼には見えて濃くなる。不可視の状態異常も激しくなっている。

 撫子たちにそんな余裕はないが、彼女たちのプレイヤーネームの横には、麻痺や毒、混乱のマーク、それから見たこともないアイコンが付いたり消えたりしていた。


「あっ」

「やばっ……」

「ハニー?」

「銀朱!」


 声をあげたのは空と銀朱だった。単なる操作ミスか、それとも……?どちらにせよ、それは四割れんじゃーずの動揺を誘ってしまう。咄嗟に二人の方へ行こうとする撫子と白銀。その瞬間、ディザスターの輝きは最高潮に達し――。全てが収まったとき、そこには三人しか立っていなかった。

 一人は当然敵であるケイトであり、もう二人は……。


「空!」

「な、撫子……」

「耐えたですって!?予想外……いいえ、想定していたじゃない、このシチュエーションは」

『……』

『……』


 膝と剣で体を支えるのが精一杯な空と、その隣で寄り添う撫子だ。いつもはダーリンハニーと呼びあうこの擬似カップルが、そちらの名前で呼ぶほどだ、余裕のなさが感じられる。

 そして銀朱は、白銀と折り重なるように倒れていた。当たり前だが返事はない。


「『オールクリア』!『ヒーリング』!」

「ダーリン……ありがと……」


 撫子が回復魔法を唱える。空の身体が緑色の靄に包み込まれる。それがすっかり晴れると、汚れたり破れたりした装備品ごと綺麗にされた空が現れた。

 空は鎧の下に着用していた服をひっぱる。


「えっ、直った?」

「もしかして、この魔法なら二人も……!」

「やってみよう!」

「うん!『ヒーリング』……」

「……白銀の方もいちおう……」

「……『ヒーリング』」

「あの……ね?蘇生魔法か蘇生アイテムじゃないと、そこの二人は回復しないんじゃないかなーナーンテ」


 当然のことながら、戦闘不能のメンバーを回復するには専用のスキルかアイテムを使わなければならない。試行がうまく行かず困惑している空と撫子を見ていられないケイトは、思わず指摘していた。自分ではっ倒しておきながら、罪悪感を感じたのである。なんだこれは――まるで初心者じゃないか。

 全ては説明しなかった誰かさんのせいだ。彼女はこの戦いが終わったら種明かしするつもりらしいが、たぶんそれどころではないだろう。あるいは責められるかもしれない。果たしてそのとき、某リーダーは逃げずにいられるのか。説明責任を果たせるのか。全ては謎である。


「えっ、じゃあどうすれば……?」

「わたしは卵のスキル持ってないよ」

「…………えーと」

「蘇生アイテムを探さなきゃ……」

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいって!まさかその膨大なアイテム袋の中から探す気!?」


 途方に暮れた迷子がこちらを見上げている――。突如として母性を覚醒したケイトが錯覚を起こす。これは自分がなんとかしなくてはいけない。いや、僕こそがなんとかできる。

 彼は、役に立たない腰抜けリーダーより遥かに使命感に燃えていた。必ず、この戦闘を仕切り直してみせる、と。


「注目!」


 ケイトは手を鳴らす。

 無機質な瞳が四つ、ぎょろりと振り向いた。かなり怖い。ケイトは声が震えないように気を付けて、二人に話し掛けた。


「戦闘は一旦中止よ。まずはそこの二人を回復させましょう」

「回復……」

「でもアイテムが」

「そうね……もしもなかったら僕の方からギフトを贈るよ。でもその前に、あなたたちの道具袋のなかに『リバイブカード』があるか、探しましょう」


 彼女たちが思ったよりパニックに陥っていないのを確認して、ケイトはほっとする。

 女の子相手に新技を試すなんて、今日の自分はどうかしてる。しかも、プレイヤー(にんげん)相手に使うのは今日が初めて。効果も分かっていなかったのに、全力を出してしまうなんて。一生の恥だわ。ケイトは自らの軽率さを悔いた。


「僕が次に言うことを復唱してくれないかな?」

「復唱、ってなんだっけー?」

「繰り返して言う……って意味だった気がする」

「大丈夫よ、あってるわ。じゃあ行くわよ?『メニューを開いてアイテムを選択して』?」


 分かりやすいように、命令(メニューコール)だけを空中に表示する。どこぞの謎プレイヤーほど器用ではないから、手打ちで入力しなければならなかったが。

 『メニューを開いてアイテムを選択して』という文章が虹色に光っている。空中に浮かんだ文字のスタイルはもこもこしていて、まるで雲のよう。総括すると、とってもキュートだった。女児向けのシールとかでよく見かけそうな感じの可愛さ。


「これ、さっきの変な人もしてたやつ?」

「どうだろ……、文字が浮かんでるのは同じだと思うけど……」

「ちょっと幼すぎるよね」

「これ使ってる変な人なんていったい……。というか使ってるだけで十分変な人よ!」

「確かに」

「あの、それ自分のことも入っちゃうけど大丈夫?」

「あらやだ。客観的に言って、コレなしでも僕のことを変人ていう人はたくさんいるから。いいのよ」


 旧式メイド服を来た男性、それだけで変人と表すには十分すぎた。しかもちょっとオカマっぽい口調。第一印象で変態呼ばわりされること間違いなしだ。

 実際4割れんじゃーずはそう受け取っていたし。


「さ、やってみて。簡単にアイテムを探す方法を教えるわ」

「メニューを開いてアイテムを……」

「なんかちょっと恥ずかしいっていうか……」

「分かるわ。ロールプレイってきついものね。もっと凄いのだと、メニューを開くだけで『システムウィンドウオープン!』ってする人も昔はいたかな。あと、僕は使ってないからよく知らないけど、確か呼び出しアイコンってのがあるはずだよ。恥ずかしかったらそっちを使ってもいいかもね」

「呼び出しアイコン?」

「し……しすてむうぃんどうおーぷん!」

「ごめんね、ボタン式の方は詳しくないのよ。確か今でもよくログインしてる人がそれに詳しいから、首都に戻って聞いてごらん。きっと教えてくれるわ」


 空が何かに挑戦する裏で、撫子とケイトは仲良く話し合っていた。『そんなに難しくない』はずの四天王戦で、仲間が倒れてしまったショックは薄れつつあるようだ。ケイトが敵ではないというのもあるだろうが、すっかり打ち解けている。

 どっかのリーダーがハンカチを強く噛んだ。そのコミュ力羨ましい……。


「アイテム画面は開けたかしら?ここでは道具袋の中身と今装備しているアイテムを確認できるのよ。さて右上の方を見て。少し色が薄くなった長方形があるわね?そこをタッチしてちょうだい」

「これかな?」

「みたい。押してみる」

「ニュッと何か出てきたでしょう?これがアイテムの検索画面。薄ピンクの……ピンクとは限らないわね。薄い色の四角形に文字を入力、右下の丸が三つ並んでいるところを押すと、探すものの種類とか細かいところを設定できるわ」


 そこまで言ってケイトは少し考える。初めは文字入力画面で“リバイブ”と打ち込ませるつもりだったが、彼女たちは初心者のようなものだ。

 買えないタイプやイベント用のプレミアを会わせると、蘇生できるアイテムは数十種類を超える。『リバイブカード』は買える蘇生アイテムの代表だ。それだけの理由で名を挙げたのだが、先程の反応を考えると……。リバイブカードは持っていなくても、それ以外の蘇生アイテムを持っている可能性がある。


「文字入力欄にリバイブと打ち込んで、詳細の回復アイテムのとこにチェックを入れるのよ。あとは文字入力の隣のボタンを押せばオッケーよ。自動検索が終わるまで待ちましょう」


 ケイトは初めからそういうつもりだった、と言わんばかりに言葉を続けた。もちろん、コメントログ機能による文字での補佐も忘れない。本当は画面の写真も見せてあげたいのだが、コメントログ――空中に文字が出るヤツだ――には画像を上げられないし、ギフトで贈っても今は混乱するだけだろう。

 本当はもう一つ簡単に済ます方法があるのだが、それはケイトではなく空と撫子が許可しなくてはできないことであり、指示に四苦八苦する二人は当然ながら“そんなこと”ができるなんて知らない。

 ケイトは倒れている二人を見て、後悔を新たにする。そして、たぶん“そこ”で見ているだろう彼女たちに向かって頭を下げたのだった。

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