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06

【ハンマー】

「前回のあらすじ」


【ゼロ】

「誰にだって間違いはありますよね」


【勇者】

「20分の遅刻です」


【ゼロ】

「おや、勇者さん。社長さんからの要請は間に合いました?」


【ハンマー】

「犠牲者を呼ぶだけ呼んで帰ってったしな……」


【勇者】

「トカゲさんのせいだって言っておきました」


【ゼロ】

「なるほど。間接的にはそうですし……まあ間違ってないですね」


【ハンマー】

「今度こそメアリーとケイトが出てくるはず」


【ゼロ】

「こうごご期待ください」




◇◆◇◆◇




 武器庫周辺にて。


「てーい!」

「て……『鉄拳』!」

銃身(ぶつり)で殴る!」


 魔王城玄関から左に行った通路の先には、いくつかの部屋があった。謎氏の言葉を信じ、一つ一つ部屋を調べていく桔梗・黒鉄・赤銅。どの場所にも一つはアイテムが隠されているほか、こうして時折発生する戦闘によって回復アイテムがボロボロ手に入る様子から、この先の強敵具合が伺える。

 銃士・モンク・忍者の怪しい物理集団は颯爽と廊下を駆け抜けてゆき、禍々しい扉の前で足を止めた。


「いかにもって感じだねー」

「分かりやすくていいじゃん」

「まあ、色んな意味で分かりやすいよな」


 桔梗が辺りを見回して言う。

 ボス部屋直前の回復・セーブポイント。左手に見える部屋には無限湧きモンスターハウス。一方、右の部屋には、魔王城入口(外)と麓の都市カフェイクルへのワープ装置があった。攻略をできるだけ楽にしてあげよう……なんて、設置者の優しさが透ける。


「……これが噂のゆとり仕様ってか?」

「でも、あたしたちにはちょうどよかったし」

「だよね!桔梗、もう少しここで練習していってもよい?」

「別にいいけど。二人はこの状態になんか思わないの?」

「えっ?親切でありがたいなぁ~とか?」

「それぐらい今回の相手が強敵ってオチじゃないの?」


 桔梗は内心首を傾げた。確かに親切だし、有難い気持ちはある。特に扉前の回復ポイントとかは、万全の状態で挑みたいプレイヤーには持ってこいだと思う。

 けれど、それにしたってこれらの設備はあまりに過度であるし、もしも『疾風の刃』がそんな強さを持つのなら、無言を貫く露草や玄関口にいたプレイヤーたちの話が合わないのだ。


「ここでの他のボスを知らないからねー」

「メアリー『さん』って呼ばれてたし、なにかあるでしょ」

「あー、そうだったね」


 実際のところ、さん付けに理由はない。といっても過言ではない。四天王戦を担当する人たちが人型で、元プレイヤーだったこと――それがごく普通のプレイヤーたちの琴線に触れ、知らず知らずのうちに尊敬の念が実体化した……のだとか。その割にはカエルとか前座の人とかには呼び捨てなのだが……、むろん三割れんじゃーずは知るよしもない。だから、こう思うしかなかった。


「露草からの指示はないし、たぶん黒鉄と赤銅がいてもちゃんと戦える相手だってのは間違いないと思う」

「うん」

「そして、呼び捨てはよくないよね」

「じゃ、私たちも念のためメアリーさんって呼ぶか」

「そうだね、そうしよう」


 長いものに巻かれたのである。




 重そうな扉に手をかけて、銀朱は三人を見た。空と撫子はいつも通り仲良しで、当然のごとく白銀は緊張しているようだった。


「白銀、大丈夫?」

「たぶん」

「……じゃあ、このあとの作戦をおさらいするよ」


 無理もない。ここにたどり着くまでの廊下で、沢山のほこりと戦ってきたのだ。そりゃあ精神も疲弊する。ちなみに、ほこりとは状態異常攻撃を得意とする雑魚モンスターだ。 HPは150とかなり控えめだが、防御が高いためなかなか倒せない。当然これは、この先に待つケイトさんの戦闘スタイルを示唆していて、こんなもので手こずっているようならボスは無理だぞ、というプレッシャーを来訪者に与えるためだ。その一方で、ほこりたちを倒すと手に入るのがなんでもなおし――正確には戦闘不能と例外を除くすべての状態異常を治す『ガセ薬』――なのだから、実はボスへの挑戦を推奨されていて……。つまるところ、ここの設置者なりの歓迎なのだろう。随分と手荒いが。


「まず白銀は『挑発』を使って敵の攻撃を引き付ける」

「おう」

「撫子は白銀のステータスアップと回復。余裕があったらみんなに『ラッキースター』をかけてほしい」

「分かったよ~」

「空と私は攻撃に専念する、と。万一、白銀になにかあったら真っ先に撫子を守ろうね」

「任せて!ハニーは私が守るよ!」

「よし。それじゃ準備オッケー?」

「「「おー!」」」


 ノリノリで元気のよい返事を受けて、銀朱は意気揚々と扉を開く。妖しい装飾の禍々しい扉は以外にも軽く、キィと音を立てて内側に開いた。恐る恐る入室する三人。足りない一人は、自身の想定とは異なるドアの重さにすっ転んでいたが、それは些細なことだ。

 扉やここまでの廊下の攻撃的な様子からうって変わって、内装はシンプルだった。どこかの公民館とか、椅子と机さえあれば会議室といっても差し支えがないほどである。壁の白木がいっそ優しさを醸し出している。

 倒れていた一人がなに食わぬ顔で探索にはいる。その時だ。すっかり困っていたれんじゃーずに声が掛かったのは。


「珍しいお客さんね。全員オンナのコ?久しぶりだわ。本当にいつぶりかしら」

「え゛ぇ!?」

「誰?」

「どこにいるんだろ……?」

「これが、この人がケイトさん?」


 動揺のあまり、とっさにおっさんみたいな声を出した子がいますね。まあ、露草氏には及びませんが、よくあることです。(謎のリーダーアピール)


「そうよ。よくご存知ね。僕こそが魔王を守るための一角、『戦業主夫』こと、ケイト・バッファー=フォース。気軽にケイトさんって呼んでね」


 部屋中に響くようだった声はどんどんはっきりしてきて、その相手がこちらに近づいていることを知らせる。そして、とうとう声は現実となり、長い名乗りとともに彼は現れた。どこから出てくるんだ、と身構えていた四割れんじゃーずを嘲笑うかのように、真正面の壁からドアを開けて。


「は?ええーと……はい?」

「そこから!?」

「てかなにその普通のドア!世界観とか口上とかと合ってないよ!?」

「すごーい」


 それこそ会議室のそれみたいなドアノブ付きドアを閉めるケイトさん。完全に閉まると、またまっさらな白い壁に戻った。何気にハイテクさが窺える。


「ロマンチックな登場の仕方はいくらでもあるけど、僕の信条に合わないから。ごめんなさいね、こんな夢のない始まり方で」


 ドラマチックなロマンとは、紙吹雪とかマグマとかはたまた本物の吹雪から現れたりだとか、奇をてらって上からとか下からやって来ることを言うのかもしれない。とりあえず四割れんじゃーずの度肝は抜けたので、まあまあロマンを感じる出来だろう。75点!


「てかまたドア消えてるし!なにあれ、マジック?魔法なの魔法的なにかなの?」

「銀朱、落ち着いて」

「てか、魔法使いなのは銀朱だよね?」

「ハッ!確かにそうだね」

「もう大丈夫かな?」


 しかし、まだまだれんじゃーずの驚きは続く。ようやく銀朱の発作が収まり、冷静になってケイト氏に向き合ったのだが……。さっきから感じていた違和感がそこにはあった。


「オカマだ、これwww」

「笑わない方がいいんじゃね?失礼だろ」

「ごつーい」

「……罰ゲームみたい」


 バリバリの女口調の割には低い声。視界には、メイド服を着た青年。手には箒。モップじゃなくて良かったか。メイド服がいわゆるコスプレのではなく、『旧式』家政婦としての丈が長いものだったから、いろいろ助かったと思う。それもこれも、彼の主夫という仕事への本気っぷりを教えてくれたが。


「あらあら。僕は好きで着てるんだよ。女装はあまり好きじゃないけど、これは気に入ってるの。知り合いにも好評なんだから」

「どんな知り合いだ」

「ただの同僚さ。さあお嬢さん方、僕のことがまだ知りたいなら掛かっておいで」

「別に知りたくないけど、四天王は倒さないとね。白銀、撫子、戦闘準備!」

「へえ。僕のこと、四天王だって知ってるんだ。これは面白い。僕も君たちを知りたくなったよ」


 空気が変わったような気がした。初めてのボス戦である白銀はもちろん、幾人かの強敵をのしてきた他の三人も認識を改める。流石四天王――実力はただ立ってるだけでも感じるものだ。


「少し本気で行くよ。生き残れるかしら。塗炭の苦しみを知るがいい、『ディザスター』!」




□■□■□




 ちょうどその頃、露草と卵もようやくボス部屋前に辿り着いていた。前回の不穏な空気から一変、二人の雰囲気は明るい。


「なんだかんだ大丈夫だったみたいだね」

「何が?」

「ここのモンスター、ちょっとアレだったから」

「そういえば、ここお化け屋敷なんだっけ。忘れてた」


 正式名称はネタバレになってしまうので伏せるが、現状ではただのモンスター屋敷といって差し支えない状況だ。出発前はあんなに渋っていた卵も、同じように感じてくれたらしい。いまやモンスターを可愛がる始末だ。


「ていうか、露草が怖がり過ぎなんじゃない?説明と実物がこんなに違うし」

「いやあ、私も行ったことなくてさ。人から聞いた話だったんだよ」

「随分怖がりな人が行ったのかな?」

「ところがどっこい、見る人によってグラフィックも変わったりするんですな」

「え?じゃあ、露草と今わたしが見てるのも違うの?」


 露草がニヤリと笑う。わざとらしく指を揺らして言った。


「チッチッチッ。卵と私は同じです。違うのは卵と銀朱。あるいは銀朱と桔梗です。さーてなんだ?」

「んーと。……髪の毛の長さ?」

「確かに、それもあるな。じゃなくて、正解は描写難易度と呼ばれるものです」


 言いたくてたまらなかった用語である。忘れないうちに書き留められてよかった。露草はほっとする。


「なにそれ?」


 当然、聞いたこともないものなので卵は聞くしかない。露草氏はにっこりした。


「卵、ステータス画面を開いて、アイテムとか装備とか並んでる列の、一番下を見て」

「『ステータス』。アイテム、装備、アイテム、あ、あった。この設定っていうボタン?」

「そうそう。それを押すと戦闘難易度(ゲームモード)とか総プレイ時間とか、フレンドの承認とか仲間認定(フレンドリーファイヤ)とか見えるでしょ?」

「おー、色々あるね」

「上級者ともなればこれを見てるだけで一日過ごせるとか。私のことじゃないよ」

「え?」


 今の流れで『私です』って言うと思った奴www

 私です。


「あ、あった。わたしはEASYかあ。簡単モードってこと?描写が?」

「どっちかっていうとやさしい、かな?描写については子ども向けになるらしい。出血しなかったり、プレイヤーの部位破壊が起きなかったり、全体的にファンシー☆な感じに仕上がるみたい」

「いま☆って言った?」

「え?」

「いま☆って言った?」


 拳を握りつつ腕を振り上げて言わないでほしい。露草氏は本格的にビビった。モンスターより、ホラーチックな背景より、隣にいる仲間が怖い。伏兵であった。


「む、謀反じゃ!」

「なんだ、気のせいだったかー」


 友の無邪気な振る舞いも今は恐ろしい。二度と☆なんて使うものか、と露草は思った。今の状態でさっきの話を進めようにも字数が足りないし、なによりこの空気だ。再び穏やかでない感じの雰囲気に露草氏はおののくのであった。

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