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05

【ゼロ】

「ぜんかい までの

 あらすじ」


【勇者】

「ぷれいやー って

 すごくね ?」


【ゼロ】

「さすが さいぜんせん 

 くわしい ですね」


【ハンマー】

「やめてあげて!」


【ゼロ】

「今回はこのままケイト&メアリー戦ですよ」


【ハンマー】

「一年前から変化もなくずっと最前線だなんて言わないであげて!」


【勇者】

「……えー」




◇◆◇◆◇




 チームメンバーの確認が終わり、気合い十分で城内に突入したKAZAKOSHIれんじゃーず一行。彼女たちをまず妨害したのは、でかい看板だった。


「これ……なに?」

「看板じゃね?」

「確かにそうだけど、そうじゃなくてさ」

「左がメアリー、右がケイトって書いてあるねー」

「親切な人が書いてくれたんじゃない?」

「いや、罠だろ……常識的に考えて」

「トラップか……。なんかラストっぽい感じでいいね!」


 空の疑問に、現実的な答えを返す黒鉄。思わず突っ込む白銀のあとで、撫子が看板を読み上げる。善意を信じて赤銅が意見するが、桔梗はそれを信じ切れない。そして、総括的に銀朱はそんな結論に至ったのだ。


「とりあえず、さっきの人たちの言ってたこととは違わないみたいだね」

「そうだね~。この先の通路を真っ直ぐで着くって言ってたし」

「看板に偽りなし!」

「とりま、これが本物だとして、こっちにも行ってみたくない?」


 自分達の持っている情報と照らし合わせて、間違いではないことを確認する。しかしだ。その情報というのも人から貰ったもの、いわば伝聞だ。自ら確かめてこそ全ては身に付くのだ。労力が惜しいか。否、行動原理を変えてしまうときめきに、肉体的疲労など関係ない!


「だいたいいいもんが落ちてるよな、こういうの」

「落ちてるっていうか……。ここ、魔王城なんでしょ?持ってっちゃだめじゃ」

「違うよ、空。魔王城だから持ってっていいの!」

「えー。強盗じゃん」

「順路としては間違ってるよ。絶対」

「間違ってるから良いものが取れる。ってこと?」

「うーん、それでいいんじゃない?」


 それ単なる先回りじゃね?

 露草氏がいたら、こんな風に言ったかもしれない。しかし彼女にしても、寄り道することを咎めなかったろうし、訂正したいのは単語そのものだったから、やはり結末は変わらない。


「お宝、お宝!」


 わくわくと胸を高めらせる七割れんじゃーず。それを意図せぬ形で遮った影がいた。魔王城第二の刺客……【???】さんだ。


【???】

「おや。こっちには何もないぞ」


 【???】さんは白々しくも、順路で行きなさいと言う。だが、我々れんじゃーずは騙されない。何もないというのならば、なぜ彼がその方向から出て来たのか、説明して頂かねば。納得できるまでしっかりと。

 ねっちょり近付く現代女子高生に恐れをなしたか、【???】さんは少し顔をしかめた。


【???】

「宝箱はないよ。あとはちょっとした部屋があるだけ」


 ちょっとした部屋だと?

 やはりあるではないか、と。JKはにんまりする。そんな曖昧な言い方をすることこそが、自白である。是非ともそこに行かせて貰わねばならなかった。


「そのちょっとした部屋に入りたいんですけど」


 いい笑顔を崩さない銀朱。一部の仲間がやや引き始めているのを差し引いても、この空間を支配しているのは彼女だった。

 その様子に押されたか、名も知らない男性は案外あっさりと道を譲った。説得を諦めたのかもしれない。


「おっ、これは!……あだーっ」


 一人だけ突っ込んでいった銀朱が、しばらくして悲鳴を上げた。その場で彼女を待っていた仲間たちが、慌てて入り口をくぐっていく。それを見届けてから、謎の部屋からやってきたプレイヤーも、頭痛に苛まれながら後を追うのだった。




 銀朱は焦っていた。

 疎まれる思春期の魂。誰もが揃って生温い目を向けるこの現状。ただ唯一互いに理解しあえるかもしれない、とあるリーダーが最大の敵と共にパーティーを離れている今こそ、中二病だとか揶揄されるおのが魂を、認めさせなければならなかったのだ。

 激情に動かされ、飛び出した彼女を迎えたのは、高い高い壁。それは、文字通りの意味で銀朱を受け止めた。


「絵だ、これ!」


 音とか痛みとかで、すっかり目が覚めた銀朱が座り込む。王座に続く壮大な通路みたいな壁の絵を前にして、すっかり意気消沈してしまった。

 そこに入ってきたのが、六割れんじゃーずと、謎のプレイヤーであった。説明を求めプレイヤーの方を向くと、彼は意外にも口を開く。


【???】

「フラグが立ってないからその先には行けないんだ」


 主に身体面での痛みで涙が止まらない銀朱。すかさず赤銅が駆け寄って、回復丸を作り出した。忍者の回復スキル、調合だ。


「は?フラグ?」

「フラグてあのフラグ?」

「死亡フラグとかで言う、旗的な意味でのフラグ?」

謎「そう。フラグ管理が出来てないとゲームが正常に進まない、っていわれるそのフラグ」


 フラグがゲシュタルト崩壊しそうな中で、謎のプレイヤーは答える。


「やるべきことをやってないってこと?」

謎「そうだ」

「じゃあやるべきことって?」

「何をすればフラグが開放されるの?」

謎「……。見たところ、ここに来るのは初めてのようだな?」

「え?うん」

謎「なら、ここに来た用事を果たすといい。そうすれば、いずれ……遠くない未来に、ここは開くだろう」

「なに?預言者かなにかなの?」

謎「純然たる事実だ。あるいは公式の攻略方法と言うべきか。どちらにせよ、今はその壁の向こう側に行くことはできない」


 謎氏はそう締めくくった。おおむね、説明はうまくいったと思う。具体例を一切出さず、それでいて思慮を促す回答。さらに、それなりに中二病感……げふんげふん、重要人物感を出せたのも評価できる。男性は無言で自画自賛した。

 一方、『壁の向こう側』とか言う妙な表現のおかげで、勘違いしてしまった少女もいた。誰とは言わないが、壁に魔法攻撃を放っている。


「ならば、こじ開けるまでさ!」

謎「おい、なにをして……」

「『ブレイズ』!『ジェロブレード』!『サンダーボルト』!『アクアキャノン』!」

謎「やめて壊さないで!壊れないけどやめて!」

「『ゲイル』!『メテオストライク』!『エナジーアーク』!『ダークマター』!」

謎「闇属性まで!? ってかいい加減にしろ!」


 銀朱さんは殴られて気を失った。




◇◆◇◆◇




 おてんばな大魔術師の脳天をぽこんとやったあとで、七割KAZAKOSHIれんじゃーずは魔王城の玄関まで戻ってきた。大きな看板が聳え立つ、通路の初期位置だ。


謎『お宝なら左右の通路の先にあるはずだ』


 空中に謎氏の発言が表示された。コミュ障のためのチャット機能だ。

 唐突にロールプレイングをし始めた謎氏に、れんじゃーずの怪訝な視線が刺さる。


「えっなにそれ」

「かっけー」

「さっきみたいに普通に喋ればいいのに」

「括弧付けになんか意味でもあったりして」

「(笑)みたいに?」

「むしろスイーツ()じゃね?」

「なにそれどういう意味?」


 すっかり誤解された謎氏。弁解に走る。しかしながら、うっかり設定を忘れて普通に話しかけてしまったなんて言えない。

 最近はありのままをさらけ出すのが世間的にも流行っていた。知り合いのロールプレイング仲間でもそうだったから、つい油断していたのだ。

 『これ』はもともと、謎氏の役割的には必須なスキルだった。しかし今や、彼のもとにやって来る者はだいたい常連で、仮面を付けて正体を隠す必要も、毎回緊迫感あふれるシーンを提供する必要もない。

 謎氏にとって彼女たちは初対面だったが、つまり常連ではないということだ――丁度いい区切りだとさえ思った。元は他人に押し付けられた、この悪しき習慣を捨て去るのに。そして彼は、適当に誤魔化すことにしたのである。


謎『咽の調子が悪いので』

「絶対嘘だろ」

「さっきうちらの魔法使いに怒鳴ってたじゃん」

「そうだよ。銀朱にはよくて、私たちじゃ駄目な理由でもあるの?」

謎「……特にないです。はい」

「やっぱり!」

「だよねー。急に言い出すから何かと思った」

「で、スイーツ()ってどんな意味なの?」

謎「あんまりいい意味じゃないから覚えなくてよろしい」


 純粋さは希少価値である。好奇心故にその芽を摘んでしまうのはよろしくない。なんとか守りたい。


「あれだよ、頭がお花畑?的な人のことだよ」

「小文字のひらがなとか使ってしゃべる人とか」

「中二病とはまた違う意味でイタイ感じ」

「えっ」


 そんな謎氏のささやかな試みは、現代女子高生の速攻補足によってバラバラに砕け散った。謎氏は泣かなかったよ。えらいね。

 しょんぼりしながら帰っていく謎のプレイヤーを見送って、七割KAZAKOSHIれんじゃーずは改めて向き合う。銀朱もなんとか復帰した。


「この先に……ケなんとかさんが……!」

「名前覚えてやれよw」

「ひどい(笑)」

「なんとか=イト」

「こっちはメアリーさんか」

「あたしたちはこっちだね」

「ちょっと緊張してきた……かも」


 否、いつも通りの銀朱であった。

 先程謎のプレイヤーとの別れがあったばかりだが、七割れんじゃーずもここで一旦解散だ。三割れんじゃーず(メアリー攻略班)四割れんじゃーず(ケイト攻略班)に分離する。



「またあとでね、桔梗」

「あいよ。またあとでな」

「白銀、がんばって!」

「お、おう。黒鉄と赤銅も気を付けて」

「ありがとー!」

「みんな、元気でね~」

「よっしゃあ、行くぞー!」


 かくして二つのパーティがここに生まれ、それぞれ動き出した……。

 一方、そのころリーダーこと露草たちはというと、ダンジョンの一角で休憩中だった。ちょっと広いダンジョンにはセーフティルームという、モンスターの沸かない安全地帯があるのだ。卵と露草はそこでお喋りしていた。それはこの先に待ち受けるバトルの攻略法だったり、単独行動をしている常葉氏のことだったり、反重力式ドロップキックで魔王城に飛ばされた仲間たちのことだったりした。


「もうみんなは戦ってるのかな?」

「どうだろう……。誰も私のコールに出ないし、もしかしたらそうかもしれない」

「怪我しませんように」

「大丈夫だよ。プレイヤーとして一強を誇る桔梗と、ジョブ的に強い銀朱がいるから、負けない」


 あの二人もそう強いボスじゃないし、一応回復役はそれぞれのパーティにいるしね、心配する必要ないよ。

 そう続けた露草に、卵は苦笑する。相も変わらず認識がずれている。そうじゃなくて、と言いたくなった。


「露草は何度も死んでるけど、それって痛くないの?」


 カットされたバトロワとか、それ以前の冒険での即死っぷりを見て、卵は言った。急に怖くなったのかもしれない。不謹慎な話、露草はいくら死んでも自分が蘇生すればいいが、自分の番が来たら……、と怯えているのかもしれなかった。


「痛覚は切ってあるから痛くないよ。バトル終了時に死んでても、ペナルティはレベルが一つ下がるだけだし。私は高レベじゃないから、レベル上げすればすぐ元通りだよ」


 やっぱり、そうだ。卵は確信する。露草の発言のほとんどは、娯楽的なものである、と。

 この世界が架空のもので、さらにはプレイヤーと呼ばれる登場人物が楽しむための場所である、ということは卵にも分かっていた。しかし、それは頭の中だけだ。

 本来彼女たちがいるべき次元軸では、その技術そのものが架空の存在だ。実現するために研究されているとはいえ、やはり一般人の彼女たちには到底現実足りえない。つまるところ、彼女にとってはリアルで存在しないものだった。

 あり得ない世界に連れてこられて、魔法におおはしゃぎする親友や、剣を振り回して騒ぐ友人を見た。けど、目の前で友達が、自分以外のみんなが倒れるのを見た――モンスターではなく実体化した人間(プレイヤー)によって。だから、娯楽だから安心していいよ、なんて言葉を信じられない。


「死んだ、って言うよりHPがゼロになったっていう現象だから、ちょっと動けなくなるだけだよ。頑張れば……幽体離脱ごっこもできるかも」


 でも、それを伝えることはできなかった。卵は曖昧な笑みを浮かべたまま、心配しないで、と言外に滲ませる露草をぼんやりと見ていた。

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