04
【ゼロ】
「前回のっ、あらすじ~!」
【勇者】
「ストーリーを押し進めたいリーダー露草の意向に従い、ニューKAZAKOSHIれんじゃー一行は強引にも程があるワープで目的地に向かう。彼女たちを待ち受けているものとは。そしてプレイヤーたちの命運やいかに」
【ゼロ】
「ゴリ押し感がハンパないですね!ところで、某リーダーさんからの伝言があります。『困ったときの常葉さん』だ、そうです」
【勇者】
「※ただし助かるとは限らない」
【ゼロ】
「世知辛い世の中ですよね!」
【謎のおっさんアバター】
「ひどい目にあった……」
【ゼロ】
「違いますよ、ハンマーさん。これから酷い目に会うんです」
【ハンマー】
「なお嫌だっつーの!」
【勇者】
「ドイヒー」
◇◆◇◆◇
常葉氏のドロップキック(謎)を食らい、空を飛ぶ桔梗たち。地上との距離と、周りの景色を追い越す勢いを見て、実に女子高校生らしい悲鳴をあげた少女が一人……もいなかった。
『きゃ――――』
そんな叫び声をあげるJKなんて今どきいねーよ。ってか舌をかむよ。
現在、彼女たちとは別の方向に推進していく露草は思った。
希少価値という言葉ですら生ぬるい。言うなれば、都市伝説か。ありもしない噂話という意味では、毎朝起こしに来てくれる幼馴染み(異性)と同じぐらい、無意味である。
「幼馴染みもいなければ、互いの部屋が見えるくらい近くに家なんか立ってないし、男主人公が見るヒロインの下着姿って需要があるけど、女の方から見て男子の着替えってどう反応すりゃいいんだよ!ホモォなのか!?その年にして既に開眼してるの?悟ってるの?ウホッって言えばいいの?まあ、そんなシチュエーションに出会ったことなんか一度もないんですがね」
長い長い悲鳴である。悲鳴だ。悲鳴です。
悲鳴の主はもちろん我らがKAZAKOSHIれんじゃーのリーダーである、露草だ。驚きのあまり、常々疑問に思っていたある一節が悲鳴となって出てきてしまった……ということらしい。
何が言いたいのかさっぱりだが、突如として懐に現れたカンペには確かにそう書かれていたのだ。
「え、急にどうしたの?」
「なんかこれだけは言っとかなきゃならんような気がして……つい口から出た」
「そうなんだ。けど異性じゃないけど、私にも幼馴染みはいるよ。昔よく一緒に遊んだんだ」
「なるほど……昔一緒に遊んだ間柄を幼馴染みと呼ぶのか。それなら私にもいるかも!異性の幼馴染み!」
喜ぶ露草氏。
その脳裏に浮かぶのはどんな人物か。一人二人……五人。同性の知り合いを含めてそこまで思い浮かべたとき、彼女は目に見えてはっとする。
家近くねえよ。
一番近い知り合いでも一つ道を挟んだ向こう側だ。そもそも露草さんは、小学生になるまで自分の部屋というものを知らぬ子どもであった。つまるところ、例のシチュエーションの発生確率は、零から変動しない。いやむしろ、しようがないと言ったところか。
「まさか、前提から違えていたとでもいうのか!?」
まさかもなにも、それ以外に何があるんだ。おそらく常葉氏がここに居たとしたらそんな風に塩を刷り込んだだろうが、幸か不幸か隣にいたのは飛翔する卵だけで、半笑いで誤魔化されたことにより、露草の傷心は酷くなったのである。
「くっ。子ども部屋さえあればワンチャン……!」
ない。ないのでいい加減にしてくれ。頼む。
☆★☆★☆
露草さんが傷口を癒している頃、JKらしくはないものの、現代女子高校生らしい叫びをあげつつ目的の場所にワープした桔梗さんたちといえば。
さきほどの十字路で見送ったような気がするプレイヤーたちに群がられていた。
「あんたたちもここに来たのか……」
「いや、でも俺は期待してるよ。なんたって最強(笑)を破ったんだし」
「俺たちじゃあの人のこと笑えないんだけどな」
やはりここでもあの双剣士が話題に上る。KAZAKOSHIれんじゃーは――正しくは露草以外は、かつての最強武勇伝を知らない。だから、こう祭り上げられても困ってしまうのだ。
「そんなに四天王は強いの?」
「ウチ、なんか不安になってきた……」
「うちら、戦っても大丈夫なんだよね?」
「初陣なのにね~」
「やばくね、白銀たち最初からハードモードじゃん」
「でも、露草は特に何も言ってなかったし。大丈夫だって!たぶん」
「たぶん……って。不穏だなおい」
思うままに内心を吐露するKAZAKOSHIれんじゃーずに、さすがのプレイヤーたちも気付く。というか、撫子の台詞がヒントになった、というべきか。
「四天王って……ああ、そうか。そうだよな。まずはストーリーを進めなきゃだもんな」
「さすがに早とちりし過ぎたわ……すまん」
「要するに、メアリーさんとケイトさんに会いに来たんだよな」
日常に疲れたサラリーマンみたいな顔した、若い学生プレイヤーたちが一斉に微笑む。慈愛というには少々気色の悪い笑みで、彼らは各々と確かめ合って納得する。彼女たちKAZAKOSHIれんじゃーが、迷える後輩であることに気付いたのだ。
「メアリーさんだかはよく知らないけど、ここにいる【疾風の刃】【戦業主夫】って称号の人を探せばいいって」
「ふ、二つ名で呼ぶだと!?」
「別に良くない?格好いいし」
「え?なんか恥ずくない?」
「涙出てきた」
「なぜそっちを教えたし」
わざわざ二つ名の方しか言わなかった某リーダーの悪意が目に浮かぶ。銀朱は相変わらず肯定派のようで露草氏としては嬉しい限りだが、やはり世間は冷たい。白銀の真っ直ぐな本音にプレイヤーたちも涙目だ。
「だからじゃねーよ!」
「なんだその――ええっと、とりあえず、【疾風の刃】がメアリーさんのことで、【戦業主夫の方】がケイトさんのことだよ」
「なるほど。それで、メアリーさんとケイトさんはどこにいるの?」
「メアリーさんはここを入って左側。ケイトさんは反対側の通路を真っ直ぐ行けば会えるよ」
「で……、強い?」
学生プレイヤーたちは優しい。後輩子羊の疑問に快く答えてくれる。しかし実のところ、メアリーとケイトのバトルフィールドは、そこの建物に入ってすぐの看板にでかでかと書き記されていたりする。少なくともドヤ顔で語れることではない。
慈愛の表現をドヤってるとか言われた男性プレイヤーが涙する横で、本題に入る。攻略方法だ。
「そういうのは、君たちのリーダーが詳しいんじゃ……っていないじゃん!」
「なんか通りで少ないと思った。あと、あの巫女の子もいないんだな」
「あと飛び回る緑の円盤」
常葉氏をUFOみたく表現するのはやめてください。露草氏が傷付きます。
再び露草は傷心の身へと舞い戻る。が、それを知るはずもないプレイヤーたちが、いつもとメンバーのメンツが違うことに気が付く。口調も変わり、年相応の驚きを露にしていた。
「なんかクノイチが増えてる!にんじゃカワイイ!」
「赤銅だよ~。よろしく~」
「キミも騎士を目指すんだね。同じ志を求めるものとして歓迎するよ」
「えっ。ああ、うん、よろしく。白銀だ」
「もしかしてリアルで格闘技とかやってるの?それとは特に関係ないけど、俺を踏んでくれないだろうか」
「うちは黒鉄。後半は……聞かなかったことにしておくね」
常葉氏もKAZAKOSHIれんじゃーのメンバーだとして考えると、がねっちトリオが三人加わって、露草・卵・常葉の三人が現在いないから……プラマイゼロだ。
プレイヤーたちが辛うじて持っている情報――先の決勝戦ではれんじゃーずは七人パーティーだった――をかんがみても、現状七人しかいないKAZAKOSHIれんじゃー(一部)をどう判定できたというのだろうか。いやできない(反語)。今更かよ、とか言っちゃダメよ。
「メアリーさんとケイトさんの強さだけど、ちゃんと対策をすれば問題ないと思うよ」
「例の最強(故)さんみたいな理不尽な強さじゃないからな。そこは安心していい」
「ただ、四天王を名乗るだけあってそこそこ手強いから油断しちゃダメだぞ☆」
「おまえ、それはキモいわ」
「泣いてないぞ☆」
仲間がディスってきても気にしない。そんな鉄の意思が攻略には不可欠なのだ。男の子だから泣かないもんね!
「メアリーさんは物理攻撃しか効かない。無属性の魔法でも全然効かないから注意」
「たぶん属性攻撃は通るけど、毎ターンバリアチェンジされてめんどいから、普通に攻撃した方がいいよ」
「聖属性か光属性の技があったらそれでもいいけど、たぶんフルボッコにした方が早い」
「攻撃も物理攻撃しかしてこないから、体力が高い物理職で行くのが無難じゃないかな。できれば、簡単な回復ができる人がいれば少し楽になるかもだけど」
要するに物理攻撃オンリーで殴れ、と。魔法攻撃は元より効かないので装甲が紙な人は連れていくな、と。露草氏のまさに下手な説明より分かりやすい回答が、即座に帰ってきた。
いいんです。リーダーはぼっちだったので、誰かと一緒にゲームしたことなどないのです。目から塩水など出ておらぬよ。
「ケイトさんは状態異常のエキスパートだ。当然、ケイトさんに状態異常は効かないし、ケイトさんからは俺達が見たこともないような状態異常を飛ばしてくる」
「物理にも魔法にもそれなりに耐性があるから、どっちが効きやすいかとかはないな。ただ、体力はそんな高くないからゴリ押しでもなんとかなる」
「まあ、それも状態異常から守る人がいてこそだけどな。だから……騎士と回復職はいた方がいいぞ」
「相手からのダメージは状態異常による追加ダメージがメインだから、仮に被弾しても大したことはない。ゲーム的に言うと、小ダメージ+状態異常ってとこか」
元々のスキルダメージは少ないものの、追加効果によって、我々の体力を削る。それがケイトの作戦なのだ。
しかし、単純な仕掛けだからといって侮ってはいけない。このゲームの状態異常は蓄積されていく。毎ターンダメージを与える状態異常が、1ターンにいくつも発動する、と考えればその苦行は想像しなくても分かるだろう。なんて面倒な仕様なんだ。
「なんか、大丈夫な気もしてきた」
「油断は禁物でしょ」
「つまり、ボコボコにするばいいと」
「ボコボコにしてやんよ」
「言うと思った(笑)」
「うーん、だったらこのチーム分け間違ってるんじゃ……」
「どこどこ~?」
銀朱がだいぶしわくちゃになったルーズリーフを睨む。そこには、露草がコピー(手書き)してくれた、チーム分けの表が書かれていた。【対『疾風の刃』戦、桔梗・白銀・赤銅】【対『戦業主夫』戦、空・撫子・銀朱・黒鉄】
プレイヤーたちの言う通り、対ケイト戦に騎士が必須と言うならば、ケイト攻略チームには白銀が入っていないとおかしい。さらに言えば、何故かケイトチームに入っている黒鉄は、戦闘は初めてといえど体力・攻撃力・速力の整った物理職のダメージディーラー。対メアリー戦の方が活躍に期待できる。
「確かにへんかも」
「露草に聞いてみる?」
「ってか、ハク子と黒鉄としてどうはなの?」
「うちは特に気にならないけど」
「あたしも。空たちと離ればなれなのはちょっと寂しいけどね」
「なら別に良くね?露草に聞かなくても」
「そのまま行っちゃおうよ。ゴーゴー!」
かくして、露草氏は己の間違いに気付くことなく、物語は静かに進み始めるのだった……。




