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02


【常葉】

「前回までのあらすじー」


【露草】

「バトルトーナメントで見事優勝したKAZAKOSHIれんじゃー一行。その後の打ち上げで仲間が三人増え、れんじゃーずの一員は十人となった。仲間との親睦を更に深め、彼女たちはとうとうストーリーに触れることになる……」


【常葉】

「ストーリーって、触れてなかったの? ここまで引っ張っておいて?」


【露草】

「言うな。そもそもストーリーに関するクエストが少なすぎるから、これから触れるほどあるのか心配です」


【白銀】

「どういうことなんだよ……」


【露草】

「あ、補足しとくね。『ハク子=ハク美=しっちゃん=白銀』、『クロガネ=黒鉄』、『アカガネさん=赤銅』になります。簡単に言うとあだ名だけど、今後は漢字表記に統一する予定」


【白銀】

「うちの分、多くね? てか、もっと別の表現があったんじゃ……ハク美て」


【露草】

「ホワイツチャイルドじゃ不味いかと思って、苦心の策なのです!」


【常葉】

「それとなく音が似てるしむしろ良かったんじゃね?」


【白銀】

「……ノーコメントで」


【露草】

「母音が一緒だったのか。ぼいんぼ……ごめんなさい」


【常葉】

「常葉さんダヨー」




◇◆◇◆◇




「え、どゆこと?」


 開口一番、疑問を呈したのは空だ。露草さんの発言が解せなかったのだろうか。

 代わりといってはなんだが、露草さん自身も困惑していた。こちらは直前の常葉氏の発言が原因だったが。


「えーとですね、せっかくパーティーもみんな集まったので、そろそろメインクエストを進めようかと思いまして」

「メインクエストって?」

「今までやってたのがサブクエストだったってことか?」

「ていうか、あたしたち何にもしてないよ? 進めるもなにも始まってない気がするんだけど……」


 不安そうな顔をのぞかせるのは、白銀・桔梗・黒鉄の三人だ。桔梗はある程度の理解があるようだが、新メンバーのがねっちトリオはそうはいかないだろう。 何しろ、たいした説明もせず先日この世界に来たばかりなのだから。その説明も、『級友を助けてほしい』という大変誤解を招きそうなものである。必要なものを削ぎ落としすぎだった。


「おおっ、いよいよ冒険の始まりって感じだね!」

「え、そうなの?」

「まだ始まってなかったのかー」

「楽しみだね、頑張ろう!」

「おーっ!」

「台詞がない」


 あとは意欲十分な面子が三人、どちらでもないのが二人と一匹というところか。

 常葉氏が露草氏の疑惑に応えるも、当然のことながら露草氏は渾身のスルーだ。まじすまん。


「メインクエストというのはですね、クリアすることでプレイヤーがこの世界の登場人物になれる、ストーリーモードのことを差します」

「え?」

「どういうこと?」

「もしかして私たち登場してなかったの?」

「相変わらず分かりにくい説明するな……」

「もっと具体的に」

「例をあげてみて」

「うーん、分からん」

「えーと、ストーリーモードって?」

「理解が遠ざかっているようだ」


 これだけ『?』が並び、桔梗と常葉に分かりにくいとはっきり指摘され、銀朱と卵に分かりやすい説明の仕方を教えられれば、さすがの露草とて屈さざるを得ない。

 むむむ、と唸って露草は考える。確かに常葉は露草の計画を知っているが、説明を代行する気はないらしい。それに、わざわざもう一度、銀朱たちがチャンスを与えてくれたのだ。それを無為にする訳にはいかなかった。


「うーん、例えば、かあ。ええっと私たちでいうと、四天王や魔王を倒した、そのあとの世界を形成する権利が与えられるって感じでしょうか」

「つまり、ウチら勇者ってこと?」

「後半わけわかめだけど、なんとなく分かった」

「割と王道なんだね。いや、それがいいんだけど」

「とりあえず、四天王とかそういうのを倒せばいいんだ」

「で、実際なにするの?」

「やっぱ敵を倒すの?」

「それともすっ飛ばして魔王から?」

「それが終わると、私たちどうなっちゃうんだろう?」


 それは具体例というより、むしろ実例でしかなかったが、仲間たちはそこを軽やかに察する。露草と自分達は、これからそれを成し遂げるのだと。

 そして露草は卵の発言に、嬉しそうに顔を歪めて、懐から何かを取り出した。そのシルエットはガマグチ。そう、立派なお財布だった。


「ご名答、卵。私たちはこれから点在する四天王を倒しに行くのです!」

「お、おー!」

「おー!」

「で、そのサイフは?」

「倒すにはお金がいるとか?」

「有料型四天王ってこと?」


 桔梗がガマ口サイフを指差して言った。空・銀朱もそれを注視してそれぞれの意見を述べる。しかしそれとこれとの間には、なんの関連性もない。要ははったりなのだ。

 四天王が課金でしか遊べないとか、どんなクソゲーだろうか。露草さんですら罵るのだから、一般の人は尚更怒りを抱くことだろう。なお、露草の精神力が一般人の耐久より劣っているのは言うまでもないことだ。


「私のお財布です」

「ええと、そうじゃなくて……」

「ちょっと覗いていい?」

「え゛っ、ちょっと白銀、さすがに……」


 彼女のガマ口サイフは、ゲーム内の所持金を具現化したものだ。本来は露草のプライバシーに相当するものだろうが、彼女は笑って気にしない。そんな見栄を張れるほど、お財布の中身は充実してないからだ。

 慌てる黒鉄をよそに、白銀はガマ口部分をひねってお財布を開いた。お財布はゲーム上のグラフィクに過ぎないので、その中に紙幣や硬貨は見当たらない。ただほの暗い空間に、四の倍数がデジタル数字になって浮いているだけだ。白銀は呆然と二桁の数字を口にする。


「よんじゅう……はち円?」

「これって……たぶん、少ないんだよね?」

「デリシャスロッド、四個しか買えないよ?」


 まだこちらに来て日の浅いがねっちトリオは、不安そうに露草を見た。励ます意識もあるのだろうか、う○い棒ならまだ買えるよ、と赤銅が言った。それは実に現代日本人らしい応答の仕方だった。

 一方、先に呼ばれていた五人はそう心安くはいかない。彼女は初期に言っていた(はず)なのだ。今後はゲーム内でお金に困ることはないからどんどん使え、と。

 露草はこの世界を、自分達よりかはいくらか理解している。そんな彼女がした失敗。所持金カンストからしょっぱいお小遣いレベルへと下降したその理由、聞かない訳がない。


「いったいどうしたの!?」

「流石に少すぎ……なに買ったの~?」

「うんにゃ、特に何も。ただ宿泊費とかがどうしてもかさんでね……いつの間にか軽くなってた」

「だから奢りだったの?」

「言ってくれたら出したのに!」

「ホントだよ。さすがの私だってそこまで外道じゃない」

「いやいや、いいのいいの。私の管理が甘かっただけなんだし、一応解決策もあるから大丈夫」


 そういうと、露草は自身の胸をぽんと叩いた。なんとも情けない音だが、これ以上強くしようものなら露草氏がむせてしまう。それは駄目だ。彼女に自虐趣味はない。


「えっ? 前話で唐突に自分をけなし始めたことは自虐行為には入らないんですか!」

「前話とか言うな。……私に振り返るべき過去などないのだ」

「未来しかないとすると、自虐趣味でないとする証拠が呈示できないから、必然的にソッチの趣味がある可能性がなんたらかんたら」

「うっせー! とにかくわしゃあドMじゃないつっとるだろーが!」


 やけになっている。一人称や方言に注意を向けられないくらいには、図星だったようだ。それもこれも、煽り耐性のない露草が悪いので仕方がない。


「地の文まで私を馬鹿にしおって……!」


 あ、一人称戻った。ついでに言っておこう。煽った常葉さんも悪い。


「いやだなぁ露草さん。地の文だから手が出せないだろうとか思ってるんだろ? 残念だったな」


 なん……だと……!




☆★☆★☆




 長い長い談話を宿――昨夜の打ち上げ会場のことなのだが――で終えた彼女たちは、カフェイクル郊外の十字路に立っていた。

 この先には、ラストダンジョンを始めとする様々な場所へのテレポーターがある。そのためだろうか、早朝にもかかわらず何人かのプレイヤーがKAZAKOSHIれんじゃーとすれ違っていく。昨日の活躍を聞いたのだろう、握手を求めたり手を振ったりする人もいた。


「なんか、有名人になったみたい……」

「みたいじゃなくて、ホントに有名人なんじゃね?」

「あの二人組、確かに強かったもんねー」

「なんか人間離れしてて怖くなかった?」

「ほんとそれ! 露草と同じ双剣士だって言ってたのに、全然違うし」


 二つ名『蒼の狩人』の評価は散々だ。予備知識のない彼女たちでさえこうなのだから、彼らに投票したプレイヤーなんかはもう、言うまでもないことだろう。そう、誰も彼に勝ったことはなかったのだ。

 あと、強いていうなら双剣士として邪道なのは露草氏の方である。持ち前の素早さで敵を翻弄し、手数の多さで敵に反撃の隙を与えない。『蒼の狩人』の戦い方は双剣士として実に正統派だ。今ではそれも無意味と化しているが。戦略なんてなかったんや。


「勝ったていうか、封印しただけじゃね?」

「戦闘不能にしたんだから、勝ちでいいっしょ」


 ポケ〇ンのシステムと同様の現象だ。死んだ訳ではないのに愛しい人を助けられない。その無力感に苛まれながら死んで行け!と、常葉さんはよほど言い放ってやろうかと考えていたようだが、空気を読んで自粛した。けして、卵が睨んでいたからではないし、露草氏が死んでいる間に既に言い放っていた訳でもない。

 一方、『氷の魔術師』こと凍花さんの印象というと、こちらはバラバラだった。


「可愛かったね~」

「ねっ。女の子みたいだった」

「『みたい』って……。また男の娘かよ……」

「あの双剣士(?)の人の猫さん、可愛かったね!」

「二人でパーティー組んでるのかな? 胸熱!」


 空と撫子は相も変わらずそっちの趣味で盛り上がっている。桔梗はそんな二人に呆れつつ、騙されたことに気づいたようだ。銀朱は素直に、ファンタジーゲームの片鱗を見て感動している。卵は、いつも通りです。はい。


「そんなにいう?」

「もー、嘘だと思ってるでしょ、白銀」

「そりゃ嘘だと思うでしょ」

「ホントだよー?」

「えーっ、ならちょっと見てみたかったかも……」

「あ、証拠ならあるよ。確か銀朱が写真撮ってた」

「ばれてしまったのなら仕方がない。じゃーん、こんな人たちでした~」

「えっ、それいつの間に……」


 銀朱が写真を掲げる。スクリーンショットではなく、アイテムのカメラを使って撮ったらしい。画質はとても良くて、二人の顔がよく見える。なるほど、これはいい証拠だった。

 だがしかし。そこにはもう一つ、決定的な証拠が存在していた。


「私の見間違えかもしれないんだけどさ、左端に何か映ってるよね?」

「えっ、あー。これはねー、あの、いやその……」

「何が映ってるの?」

「幽霊とか!」

「お化けとか!」

「私の足とか!」


 辺りが一斉に静まる。やがてみんなの理解が及ぶころ、彼女たちはもう一度写真を覗き込み、そして納得した。この写真がいつ取られたものか、を。

 モノホンの双剣士と氷の魔術師をど真ん中に映したその写真には、同時にある事件の証拠も隠されていたのだ。左端に映る横向きの露草の足。これは、彼女がこの時倒れていたという証に他ならない。


「私が死んでたときにのんびり写真を撮っていたのかー!」

「だ、だって暇だったんだもーん」

「しかもこれ、『蒼の狩人』封印後じゃなくて、その前になんかよく分からんけど死んでたときじゃないかー!」

「それは、露草が転んだからじゃない?」

「そっか、転んだから死んだのか……じゃなくて、ピンチだったよね!? なんで余裕そうなの!?」

「意外とそうでもなかったよ? 攻撃は桔梗がなんとかしてくれたし」

「いぇーい」

「ど、どうやって……」

「えーとね、魔術師さんが飛ばしてくる魔法を銃でズドドって」


 卵の説明は要領を得なかったし、露草の理解力は残念だった。しかし、一つ分かったことがある。

 露草さんが事故死したときの直接的原因は『転倒』である。けれども、そもそも転んだだけで死んでしまうほど体力が減っていたのは、例の魔術師の魔法を受け止めたからだった。それは必要経費だと、今の今まで信じていたのに。なんて残酷な現実だろうか。彼女は知ってしまったのだ。


「別に身体で受け止めなくてもいいじゃん!」

「うん、そうだねー」

「むしろなんで立ち向かってくんだろ、って思ってた」

「言ってよ! 分かってたなら言ってよォー!」


 露草氏の慟哭が空を貫く。きっと今日は一日いい天気だろう。

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