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勇者と世話係「あの、ちょっと見られると恥ずかしいんですけど...。」

えっちくはないけど、入浴してます。注意!

私は良い湯加減のピンク色の花びらの浮いたお湯に浸かりながらため息をついた。


見上げればそこそこに広い貴人が使うような真っ白に磨かれた部屋。


(天井、高いなぁ)


私はもはや打つ手もなく、混乱と困惑のしすぎでもはや考えるのをやめた。 


とりあえず、あちらには私を殺そう、という気はハナからないらしい。


「お湯加減いかがですかー?」

「え、あ、うんいいわよー?」


すっかり油断していたが、サフィの声で我に返る。


さっきのパスタ事件はひどいものだった。


思いきって食べたは良いが途中で気持ち悪くなったのだ。

やはり毒が仕込まれていたのか!と思えばそこで大慌てしたのはサフィだった。


『ど、毒味はしたはずなのに!』

『...え?』


気持ちが悪くてそれどころではなく、思いっきり流し台に戻してしまった。

サフィは私の背を撫でて付き合ってくれた。


ひとしきり吐いたあと、これはどういう事だろう、と良く考えればすぐに分かることだった。


...良く噛んでゆっくり食べないと、飢えているときは危険だという話は本当だったと、身をもって知っただけだった、といことだ。

彼女は頭を何度も下げて謝ってくれたが...サフィは悪くないよ、むしろこんな見ず知らずの奴(しかも内心疑ってしまった...)のために毒味とかしてくれてありがとう。


でも、毒味したらしたで教えてほしかったかな。


まぁそれで服とかが汚れて現在入浴中なのだけれど。

...どうしたもんかな。

「ねぇサフィ、」「はい、なんでしょう勇者様。」


すぐに返るその返事に、少しむず痒くなりながら言葉を続ける。


「あの、私、勇者になる予定、ってだけの実質一般兵士だから、そうされると非常に落ち着かないのだけれど...。」

「えっ?」


彼女は非常に不思議そうな顔を向けてくる。

そんな彼女はメイドのごとく私の側に服を着たまま布を持って控えている。


もしかしなくてもその布で私を洗うつもりだろうか?やめていただきたい。


「え、えぇ!?私てっきり勇者様ってジャハルの王家の方かと思ったんですけど、違うんですか!!?」

「生まれの血筋は確かに良い方だけど、勇者ってわかった時点でそんないい生活は送ってないんですけど...。」

「そ、そうなんですか...。」


何故そう思ったのかはさておき、とにかく私は今の状況をどうにかするために声を掛けることにした。


「...とりあえず、そうやってみられると落ち着かないから一緒にはいろう?」

「はい!...はい?」


と、私が言ったところで不思議そうな顔をされてしまった。

...どうしたのかしら。


「...一緒に、入るんですか?」

「だってお湯がもったいないでしょう。

いつもだって他の兵士と芋洗い状態で入ってんのに一人でこんないいお湯もったいないよ。」


...本当は一人ではいるのも見つめられるのも落ち着かないのは内緒ね。


彼女は、少し戸惑いながら、扉の奥に消えると、程なくして脱衣所で服を脱いで現れた。

良かった、こんな広い風呂場を一人で入るのは落ち着かないから。


「その、本当に良いんですか?」

「いいのいいの、普段なんて兵士のおっちゃん達と一緒なんだし」

「へ!?お、男の人と一緒に入るんですか!?」


あぁ、そっか、普通はしないよね、そんなこと。


そう言えば男とはいるのが信じられない、と下町の焼き菓子屋のお嬢さんもいっていたっけ。


「別段やましい事何て何一つないわよ。


何せ、お湯に浸かるのも含めて5分以内で入らないといけないから。

それ以上掛かろうもんなら、兵長に睨まれながら1分オーバー毎に腕立て10回。

他に目移りしようもんなら汗を流した側から汗だくになりかねないもの。」

「ひ、ひえぇ...リィオンの魔術師とは全然違うんですね...」

「なんてね、ホントは女の兵士なんて私しかいないから特別扱いされないだけ。

昔はねもう一人居たんだけどね、農家にお嫁に行っちゃったから。


うちの国の兵士、元々は女子禁制だから女湯なんて兵舎にはないの。

だからって言っていちいち風呂に入りに城下の公衆風呂になんて行ってられないし。」


こんな風にゆっくりお湯に浸かる、なんて滅多にできない。

精々妹に頼まれてこっそり一緒に入った時以来かしら。


「リィオンの魔術師はゆっくりお風呂にはいるの?」

「えと、各部屋についてます。」

「え、部屋に!?贅沢ね、それ!!」


普通兵士にそんなことしないわよ!?と私が驚愕していると、彼女は恥ずかしそうにお湯に足を入れながら答えてくれた。


「...リィオンは魔術を発展させている国ですので、魔術師は大切にされているんです。

ただし、有事の際は真っ先に使い捨てですけれど。」


あぁ、と思う。


普段の対応を良くして魔術師を目指させ、良い具合に人を集めて何かあればそれらを贅沢に使い捨てる。


魔術師は戦いにおいて重要な戦力になる。

兵士が時間を稼ぎつつ、魔術師が大きな魔法を作り上げるかが最近の戦争のポイントになっている程に。


ただし、強い魔法を使えば使うほど精神にかかる負担は計り知れない。

制御もうまくできない新人が戦争で狂人と化した、と言うのは割と良く聞く話だ。


魔術師は実入りが良い。しかし、入れ替わりは驚くほどに早い。

実質、全線で魔法に焼かれる兵士と、どちらが果てるのが早いだろうか。


「...面白いわね、国って」

「そうでしょうか?」


私は白い天井を見上げる。

魔法で燃える炎が湿気でチリチリと揺れて、きらきらと水滴を照らす。

水滴はある程度の大きさまで周りを巻き込んで...光を反しながら床に落ちる。


あの、水滴はきっとひどく冷たいのだろうな、という確信が、私にはあった。


「ねぇ、サフィ、どう思う?」

「何がですか?」


彼女がすべらかな肌を擦りながら言うと、私は縁に体を預けながら天井を仰ぐ。


「私、魔王をたおさなきゃいけないんだけど、今のところ良い策が見つからないのよ。

でも、あいつら、なんか変だわ。まるで私を飼っているかのよう。


...魔王が娯楽で勇者を飼う、なんてあり得るのかしら。」


私はその沈黙の間、天井の光る水滴を見ていた。

あぁ、またいくつもの水滴が落ちている。


「ありえますよ、だって人のなかには犬や猫を飼う人も居ます。

魔王様はドラゴンですからね、人を初めとする多くの生き物を下級生物として見下しています。


人間には彼等の行動原理などわかりませんが、立場で言えば考えられない範囲ではありません。」


なるほど、例えがわかりやすいわね。

そう思って彼女を見れば、彼女はなんとも言えない顔をしていた。


...そうね、私とあなたの差は、ペットと家畜の差。

そう、変わりはしない。扱いがちがうだけで。


「ねぇ、サフィ。もし私がこの城を逃げる時は、あなたも一緒に逃げない?」

「ありがとうございます。でも、私には兄がいるから。」


そう、と私は故意に話を切る。

彼女も私に、話を広げるようなことはしない。


わかったのは、お互い状況は良くないと言うこと。

彼女は、魔王側の人間、と覚えておこう。


まぁ、この事を魔王に報告されたからと言って私は痛くも痒くもない。

...正直、姫は早々殺されたりはしない。

故郷を、何らかの理由で揺する気なんだろう。


王の一人娘を簡単に殺してしまっては、人質としては機能しないから。


私は花びらの浮いた優雅なお風呂から上がる。

その時、ふと、冷たいものが温まった体に落ちてきた。


見上げれば水滴がいくつもいくつも天井に張り付いている。


やっぱり、あれは冷たいんだ。


そう思った。



も、問題あったらどうしよう...。

なにかあれば注意してください、お願いします(;´∀`)

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