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勇者の戸惑い「意味が分からない、コイツホントに意味が分からない。」

勇者です。魔王が、パスタを持って何故かベッドの脇の椅子に座っています。

しかも、パスタはパスタでも本格的なパスタではなく、ナポリタンです。

ご丁寧にソーセージのスライスが入った、一般的なお母さんの作りそうな家庭的なナポリタンです。

いや、私のお母様は料理どころか家事を一切しませんが、とにかく魔王が持っている物が爆発的に家庭的です。


王様、私はどうしたらいいのでしょうか。

どう反応していいのでしょうか。

なんか、こう、怒る気にもなれないってこう言うことを言うんだなぁ。


「勇者よ、」

「なんだ。」


少し、戸惑うようにナポリタンを両手に持ち、少し遠慮気味にこちらに差し出してくる。

なんだ、その初めて彼氏に料理作った生娘みたいな反応。


「食え。」

「いらん。」


そんな蜥蜴面で上目使いされてもなぁ…。

大体、敵から支給された食べ物なんて毒でも入ってるかも知れないんだから食べられないよ。…だから、そんな上目使いで控えめに差し出されても、受け取らないし、食べないってば!!


「こら、勇者。なに後ずさりしておるのだ。この魔王たる俺が手作りしたのだ、食え。」

「だからいら…ぇぇええええ!!?手づくりぃぃいい!!!?」


勇者です。どうしましょう、魔王が奇策にでています。どうして魔王が手作りなんてするの!?

いや、これは恐らく此方を混乱させて、このナポリタンを食べさせる為の作戦だと思う。じゃないと話が通らない。

その線で考えると、ほぼ確実にこのナポリタンは毒入りだ。


食べたら最悪、死ぬ。


「そうだ。この俺がオマエのために作ったのだ。食え。」

「…。」


何故これで魔王本人が出てくる必要があるのかはわからないが、私はここでナポリタンを食べるわけにはいかない。


なぜなら、ここに魔王が居る以上、きっと姫様もこの城のどこかにいるはずだ。

私は生きて、彼女を助け、一緒に脱出する。


今の状態では私は魔王を倒すだけの実力がない。

ならば、一旦引いて体制を立て直す必要があるのだし…。


「……」


しかし、姫様のこともある。あまり相手を怒らせてしまうのもいけない。

下手を打って危なくなるのは自分だけではないのだから。


「…オマエは眠りっぱなしだったのだぞ?まずは何かを腹に入れた方がいい。…言っておくが逃げられんぞ?その足の鎖は俺の魔法で魔力を封じる仕様になっている。そこそこ長いから、この部屋の中なら不自由はしない。」

「……。あんた何が目的なんだ?姫様はどうしたんだ。大体、毒が入っているかもしれない食いもんなんか食える訳ないだろ。」


私は目の前の人間ドラゴンに我慢しきれずに言ってしまう。

あー下手すると姫様が危ないのは分かってるけど…でも行動が不可解すぎる!


本当はきっと、殺す気なんてないんだと思う。だって、殺すならきっとこんな七面倒なことはしないし、魔力を封じるなんて今現在出来てるし。

大体、私は姫ではなく勇者だ。姫ならアジエス国を脅す人質になるが、まだ活躍もしていない、いち兵士とあんまり変わらない私なんて生かしておいて役に立てる方法なんてあとは一つ。


洗脳して手駒にする…とか。

そんな価値を私に見出したのかは定かではないけれど、一応この世界で光の魔法を操れる希少な使い手だし。

大体、こんな扱いする理由はそれくらいしか思い浮かばない。


…薬は専門じゃないから細かいことは分からないけれど、この食事にそう言った相手の自由を奪う薬が入っていて、弱ったところを操るとか……非効率な気がする。

だいたい、私は彼の魔術を経験済みなわけで、あれだけの魔力があるなら薬を使わずとも…うん、なんか空しくなってきたからやめよう。


私が先に質問したにも関わらず、うんうん悩んでいるのを後目に、魔王は口を開いた。


「姫は無事だぞ。オマエが心配することは何もない。アイツは適当に部屋にぶち込んで捕らえておいた人間に世話をさせている。…大事な人質だからな。いざというときに使えなければ意味がない。そしてコレには毒なんて入っていない。入れる意味がない。俺はオマエを殺すことが目的ではないからな。」


きっぱりと答えてくれる辺り、コイツは案外優しい奴なんじゃないかと思ってしまうが私は頭を振って考え直す。

じゃあなんの為にこんな事をするんだ。


「殺さなければ、何が目的なんだ?」


きっぱりと聞けば、魔王の目がおよいだ。

なんだその悪戯がバレそうになってる子供みたいな反応は。


「……オマエを支配する?こと、か?いや、うん。大きく捕らえるとそうなんだが、まだ、その、も、もう少しまってくれ!」


なんだその反応は。意味が分からないよ。


まぁとにかく、やっぱりこいつは私を利用するつもりなんだ!

ますますこの料理を食べるわけにはいかない。


私は黙りを決めて、ベッドに横になる。

勿論魔王には背を向けて。


おいこら、とか、こっちを向けとかうるさいけれど、出過ぎた真似さえしなければきっと殺されはしないはず。

私はとりあえず、逃げ出す機会を伺うことにした。

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