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プロローグ?~やっぱり好みは人それぞれ~

それは、よくあるファンタジーな世界での出来事。

そこには、人が居て、ドラゴンが居て、

動物が居て、モンスターが居て、


そして、自分で立ち上がった魔王と運命に選ばれた勇者が存在している、


そんな、よくある世界のお話。

聖エドワルド歴×××年ーーー

世界はまさに魔王の魔の手に怯えていた。


どこからともなく現れた奴らは、世界に宣戦布告し、その軍勢の一部を国々に見せつけた。

かの軍勢は人ならざる者達、モンスターと呼ばれる化け物達が中心となり、それらを幾つかのドラゴンが支配していた。


人々はそのおぞましい姿に怯え、愚者はありもしない逃げ場を求めて走り、賢者は彼らを討伐する無謀な計画を考えた。


しかし、賢者が答えを見つける前に、そのニュースは彼らの耳に飛び込んだ。


どうも、世界中に北の大陸、スノーランドが闇に包まれたという。


スノーランドは他の大陸の国とは孤立していたがために他の国々は助けに入る事も出来ず、ただ、その知らせを受けるにとどまり、突然の出来事に人々は恐怖におののいた。


わずかに残された人々の希望は、伝承の歌にて“世界が闇に包まれしとき、人々を救う”と言われる存在。

その存在を、人々は誰ともなくこう呼んだ。


勇者、と。



そんななか、魔王の魔の手は東の大陸を統べるアジエス国の帝都ジャハルにまで、伸ばされようとしていた…。



ーーーーーーーーイーストランド 帝都ジャハルの城



ジャハルの王、リチャードは午後の謁見をすませ、次の執務に移ろうとしていた。

しかし、やはりアジエス王の顔は優れない。


「お父様、大丈夫ですか?」


そう、鈴の鳴るような声で言ったのはリチャードの娘、エリザベス。

その美しい薄い金の髪を揺らしながら、心配そうに父王を見上げる。


王の目は、可愛らしい娘のために細められ、優しく…しかし、そんな中にもどこか疲れが含まれた、そんな声色が響く。

「あぁ、おまえが心配することなど無い。…勇者が、きっと助けてくれる。」


勇者、と、エリザベスは呟いて、心配そうな顔を上げようとしたそのとき、謁見の間は、一瞬にして激しい轟音に包まれた。


何事か、と見開かれたアクアマリンの王の瞳に移ったのは、美しい水の精霊王を象ったステンドグラスが粉々に砕け、そこより突如としてなだれ込むモンスター達の姿だった。

それらは獣の様に兵士達に食らいつき、しかし、どこか統率の取れた動きをしていた。

魔物に襲われた人々は目を回し、次々と倒れていく。


揺れる城の一郭は、唐突に戦場と化し、弱虫は悲鳴をあげて逃げ回り、強者は剣を抜いて立ち向かうそんな中、嗄れた、威厳のある声が謁見の間に鳴った。


その言葉ならざる声により、この騒がしい戦場を一瞬にして静かになり、兵士達は不自然に時を止める。


モンスター達が跪いて作られた道に、数分前まで水の精霊の形をしていた色とりどりのガラスを踏みにじりながらそれは歩いてくる。


思わず縋るように白い手が父の袖を掴み、怯えたその娘を王は抱きしめ、その恐ろしい存在を勇敢に睨みつけた。


「ーー魔王。」


立派な髭の、口元がそう呟いた。


「これはこれはアジエス王。そんなに怯えていかがした?あぁ、ここにおる人間共は殺してはおらぬよ。」


人間の其れよりは大きいその蜥蜴のような口に、鰐よりも太く鋭い牙が言葉を紡ぐ度に見え隠れする。


その、おおよそ人の言葉を流ちょうに話すのには違和感のある顔をしたその人間ドラゴンの真意を掴みかね、王は眉根を寄せる。


ただ、侵略をしにきたならばここにいる者達を皆殺しにすればいい。

そうすれば王を失った国は混乱し、あっという間にこの国は魔王の物になるだろうに、彼はそうしない。


その違和感に、口を開こうとするも王の唇は動かない。

いつの間に魔術を、と王は動かぬ体に焦りを感じる。


ならば腕の中の宝の温もりだけ、それだけは、と腕を動かそうと必死になる。


「アジエス王、俺が手に入れたるは枯れた土地。しかし、豊かなるこの土地を人間共より奪い去ったとて、我らが豊かに暮らせるは一時のみよ。」


魔王が赤い絨毯を踏みしめて階段を登る。


「だから、この土地を耕す者ごと、俺はこの大陸を支配しようと思う。」



その光る爬虫類の目が、姫をとらえる。

王は動かない体をもどかしく思いながら、それでも姫を守ろうと必死に腕に力を入れようとしていた。


ただ、姫はその腕の中、震えるばかり…。


その様子に魔王は顔を細めて言う。


「…姫よ、オマエは逃げないのか?俺が恐ろしいのだろう?」

「あ…う…。」


声は出る辺り魔術はかけられていないのだが、姫は逃げたくとも正に蛇に睨まれた蛙のごとく動けない。

ふるえるばかりの姫に、魔王は溜息をつきながら、腕を伸ばすーーー


と、その時、魔王の耳に何かが壊れるような音が聞こえる。


魔王がそちらを見やれば、彼の魔術を力任せにやぶり、近くの魔物を切りつけながら何かが魔王と姫達の間に転がり込んだ。


「姫様に手を出すなっっ!!!」


それがそう甲高い声で叫んだとたん、姫は喜びにその頬をほころばせる。

「勇者!」

その顔は勇者、と呼ばれた者への絶対の信頼が見て取れた。


とたん、勇者は弾かれたように切りかかる。

迷いのない、洗練された剣筋に魔王は目を見張った。

相手を殺すことに迷いのないその剣はみごとだったが、しかし実践が足りないのだろう、少し重さに欠けていた。


それでもギラリと光る薄水色の瞳は真っ直ぐに魔王を睨みつけ、魔王がとっさに繰り出した鋭い爪は空を切り、いかにも身軽に勇者は飛び上がる。

まるで曲芸のような動きをするそれに、魔王は応戦する。


繰り出された剣を魔王は避け、勇者に素早く詰め寄れば軽い炎の爆発が魔王を弾く。

ダメージこそほぼないものの、距離を取らせるには十分な不意打ち。

それを一瞬でこなしたのか、と王は勇者に感心する。

しかしそれもつかの間、魔王は勇者が反撃をする前に、ぐるんと大きく回転してあけた距離ごと強力な長い尾を勇者に叩き込んだ。


勇者は軽々と吹き飛び、二、三回大理石の床にバウンドして壁の方へ。


まともにぶつかっては、肋あたりを数本折っても不思議ではない…と思いきや、勇者は咄嗟に激突する前に体制を立て直していたらしい、壁に着陸してそのまま蹴り、魔王に立ち向かう。

しかし、やはり先のダメージが大きいのか、はじめよりスピードが落ちていた。


魔王はニヤリと笑いながら爪で、勇者の剣を受ける。

わずか数十秒の拮抗ではあったが、魔王は勇者の顔をその時初めてしっかりと見て、若干驚いた顔をした。


そう、手加減しているとは言え、これだけの時間、この魔王と応戦し続けていたのはまだ少女の面影を残した娘だったのだ。

薄い、外にふんわりと跳ねた金髪。薄水色の目はしっかりと睨みつけられていたが、それでも整っている。肌は荒れてはいるものの、手入れをすればさぞ透き通るように白いだろうに、それでもこの娘は剣をとって戦うのだ。


「(なかなか、どうして、)」


魔王は、一瞬目を瞬いて、笑みを深めた。


その後も二人は撃ち合いをするも、なんだか大人が子供を相手する様にも似たあまりに差のありすぎる戦いとなっていた。

勇者は自分の力の無さに焦りを感じ、魔王は更に余裕を見せ始める。


ふと、魔王は右わき腹に僅かな隙をみせた。

「くらえぇっ!!!」

その隙を勇者は見逃さずに、切りつけようと懐に飛び込む。

遊ばれていることに焦っていた勇者は、そのチャンスに冷静な判断を見失った。


それが罠である事に気づいたのは、彼女が魔王の大きな左手に捕らえられた時だった。

勇者の足は宙に浮き、あがけどその手は勇者を掴んだまま離れない。


「ぐっ…!!」

「勇者…!!!」


悲痛な悲鳴を上げ、あんなにも怯え一歩も動こうとしなかった姫が駆け寄るが、魔王は冷めた目で姫を睨んだ。

そのあまりに冷たい、恐ろしい目に姫は短い悲鳴を上げ、立ちすくむ。


と、左手で捕まれた勇者が苦しそうに声を絞り出す。

「ひ…ひめに…手を、だすな……!!」


それでも諦めずに足掻く姿に、魔王は再び楽しそうに笑みを浮かべる。

このままでは、勇者が握りつぶされてしまう!そう思った姫は甲高い声で半ば叫ぶように言った。


「もうやめて!私はどうなってもいいの!その人を…この世界の希望を…勇者を離して!!」

姫は祈るように魔王の前に跪き、勇者の命を乞うた。


魔王は一瞬考えるそぶりを見せて…左手に捕まえた勇者を顔の高さまで持ち上げて目を合わせた。


勇者の身体から急に力が抜けて、だらり、と魔王の手に身を任せる。

姫は驚いて勇者、と叫んだが、魔王は全くその様子を気にかけずに首で後ろを見やり魔物に指示する。


「おい、そこのヒポグリフ。」

『なんでしょう、魔王様。』

「そこの姫を連れて行け。勇者は、俺が連れていく。」


その言葉に、魔物達は一瞬どよめくも、しかし、見せしめにでもするのだろうと思ったのだろう、指示を受けたヒポグリフは鷲の翼を広げて、姫をくわえて空を駆けていく。


それから魔王は、アジエス国の王に、そこに居合わせた人間達に言い放つ。

「自らの命が、そして、姫が大切ならば、我らの奴隷として物を作り、田畑を耕し、それらを納めよ。…そうだな、後で使者を送ろう。その指示に従え。

万が一従わねば、見せしめとして姫を殺し、この国ごと灰にしてくれる。


…見ておらぬと思ってサボるなよ。魔物の目は遠くまで見えるのだからな。」


そういい残して、魔王は魔物達と共にステンドグラスのあった場所から大きな光の翼を広げて飛び去っていく。…その手に勇者を捕まえたまま。


後に残されたのは、魔法がとけて、姫と勇者を奪われて絶望に染めた王と、兵士達だった。




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