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再召喚!  作者: 時永めぐる
第三章:月を宿す乙女
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真相は偶然と必然の合間

『八重香! ──そうか。もう聖都に戻ってたのか』


 納得したように頷いている。けど。違うでしょ、それ! どうしてこの状況をそうあっさりと受け入れてるんですか、お母さん!!


「お母さん、ルルディ、ねぇこれはいったいどういう事なの?」


 半ば呆然としながら、私は二人を交互に見た。


「私から説明してもよろしいでしょうか?」

『ああ』


 ルルディは母に確認を取ると、私のほうに向きなおった。


「エーカ、貴女のお母様はね。この国の──先代聖女なの」

「嘘……なに、それ……」


 嘘でしょう? そんな気持ちを込めて母を見たけれど、


『そういう事だ』


 返ってきたのはそんな肯定の言葉だった。


「ごめんね、エーカ。急にこんなこと言われても、信じられないわよね」


 困ったような顔のルルディをよそに、私は頭の中に次々湧いてくる疑問を整理するのに必死だ。

 どうして? なぜ? 


「えー……っと。じゃあ、お母さんはもともとこっちの人だった、ってこと?」

『そうだ』

「じゃあ、なんでお母さんはそっちにいるの?」

『話せば長いことなんだがな、まぁかいつまんで言えば事故だ』

「事故!?」


 どんな事故が起きたら違う世界まで吹っ飛ぶの! 馬に蹴られたの? 塔から落ちたの? なにしたの!


『そ。ルルディに位を譲って隠居したら暇になったんだよ。で、私はルルディがよく話してくれたエオニオを見に行くことを思いついた。魔の森なんて面白いじゃないか? で、ちょっとだけ、ほんのちょーーっとだけ森を探索しようと思ったら、うっかり落っこちたんだよね』


 どこによ? そもそも魔の森が面白いってどういう発想? 我が母ながら思考回路が不思議すぎる。頭痛がしてきそうな予感に見舞われつつ先を促した。


「どこに落ちたの?」

『次元の狭間。あんなとこに穴が開いてるなんて思わないだろう、普通!』


 いや、あんなとこってどんなとこか分かんないんで何とも言えないけど。


「そんな穴開いてたんだったら気配で気が付くもんじゃないの?」


 仮にも聖女やってた人間でしょ? そんな穴が開いてたらおかしいと思うでしょ。思わないの!?


『急に開いたんだから仕方ないだろう! 細かいこといちいち気にするな!』

「前から思ってたけど、お母さん大雑把すぎ」

『そう言う八重香は細かすぎ。 ──話が脱線したから戻すよ。とにかくそういうわけで狭間に落ちた。で、そのまま落ちるのも癪なんで色々と足掻いたわけ。あちこちに別の世界の気配を感じたからね、どこかに滑り込めないかと思ってさ。で、運よくこの世界に飛び込めた。力がほぼ使えなくなっていたのは残念だけど、それ以外はなかなか良い環境で良かったよ。日本語を覚えるのにちょっとばかり苦労したけどね』


 なんて、あっけらかんと言うけれど。これはそんなに軽い話なんだろうか?


「こっちにすぐ帰ろうとは思わなかったの?」

『帰ろうとしたさ。が、出来なかった。今言ったろう? 力がほとんど使えなくなっていたんだ。そもそも、この世界に来たのは偶然で、そっちの世界との位置関係も分からない。だから帰還用の陣を構築することも出来ない。私に出来ることは誰かが迎えに来てくれることを待つだけだったんだ』

「こちらではまさか先代様がそんなことになっていようとは誰も気が付かなかったの。エリカ様が落ちた穴はそのあとすぐ塞がってしまったらしくて、捜索隊がエオニオに到着した時には何もなかった。国中を捜索したけれど見つからなくて、五年後亡くなったものと見なし捜索を打ち切ったの。ごめんね。もっとよく探していれば……」


 ルルディはそこまで言うと俯いて、唇を噛んだ。ルルディの事だから精いっぱい探してくれたはず。落っこちたのは母の不注意だし、ルルディに落ち度はない。だからそんなに後悔しなくてもいいのに。

 

『ルルディ、君は出来るだけのことをしてくれた。気に病むな。こっちで生涯の伴侶も見つけられたし、可愛い子供二人にも恵まれた。私は幸せだ』


 母の言葉にもルルディは項垂れたまま。

 慰めにはならないかもしれないけど、いてもたってもいられなくて、ルルディの肩をなだめるようにそっと叩いた。


「ありがと、エーカ」


 彼女の肩に乗せた手に、彼女の手が重なった。

 二人は聖女同士だと言う。どう言い表したらいいか変わらないけど、腑に落ちる部分もある。二人はどことなく雰囲気が似ている。

 母は昔から少し変わったところのある人だった。もともとそういう性格なんだろうと思っていたけれど、習慣も言葉も何もかも違う場所で育っていきなり異界に飛び込んだのなら、変わっていても仕方ない。私もこっちに呼ばれて戸惑ってばっかりだもん。と、ここまで考えて奇妙なことに気が付いた。

 ここの世界の人たちは、私と違う言葉を話している。なのに意思の疎通は充分出来ている。今までは、異世界から飛んできた人間にはその世界に適応できるように自動翻訳機能が備わってるんだろう、なんて漠然と思ってた。

 でも、母は「日本語を覚えるのに苦労した」と言ってなかった? それってもしかして……


「ねぇ、お母さん。私、こっちに来てから言葉で困った事なんてほどんどないんだけど?」

『ああ、それか。うん。君が生まれてすぐ、私の記憶の中から引き出したそっちの言語情報を、埋め込んでおいた。いつか君が私と同じような事故に遭わないとも限らないだろう? 落ちた先が私の故郷かも知れないだろう? なら出来るだけのことをしておきたかったんだ』

「そんなこと、出来るんだ……」


 なら、こっちの言語の他に、英語とかの情報も入れて欲しかったよ。そうしたら英語の授業であんなに苦労しなくて済んだのに! なんて呑気な事を考えてしまうのは、自己防衛本能かもしれない。もう頭の中は崩壊しそうにパンパンだ。


『まぁ、ね。ただし、いろんな制約があるからあまり実用には向かない術だけどね。術の対象者が無垢であること、つまり自我が育ちきっていない状態であり、なおかつ術者と血がつながっている事が条件だ』

「つまり、自分の子、それも赤ちゃんにしかかけられないと」

『そう言うことだ! あ、あと術者自身が話せる言語に限定される。だから、英語を植え付けるなんて芸当は無理だぞ。私は英語を喋れないからな!』


 ちょっと性格が変でもやっぱり母親は母親だね。娘の考えてる事なんて御見通しですか!


「あのね、エーカ」


 ルルディに呼ばれて、私は母との会話を切り上げた。


「私、貴女の様子を見に西の砦に行ったことあったでしょう?」


 迷うような言い方がルルディらしくない。


「あの時、私は貴女に失った視力を補う術をかけようと思って行ったの。貴女ほどの力の持ち主なら力を視力に変えることが出来るし、力の消耗に疲弊することもない。あ、普通の人ならそんなことは出来ないのよ、力を使い果たして命を削ってしまうから」

「そんなことが出来るの!? え、じゃあ左目見えるようになるの!?」


 視力が戻る! 諦めていたところにいきなり希望が見えて、体が震えた。

 なのに、ルルディは目を逸らして浮かない顔で首を横に振った。


「どう、して?」

「左の眼球に、貴女の力の一部を自動的に集めるため器を作らなければならないのね。そのためには貴女の意識に触れなければならない。すでに誰かが意識に術をかけている場合、重ねて違う術をかけるには相当な危険を伴うの」

「つまり、私の意識の中には母の術が埋まっているから、術をかけられないってこと?」

「ええ。それに気づいたから、私は術をかけることを断念してここに戻ってきたの。それにね、貴女にかけられた術のパターンが、エリカ様のものと酷似してることに気づいたから、だから、もしかして貴女の周り──あちらの世界にエリカ様がいるんじゃないかと考えて、何度か水鏡の術を応用して探っていたの」


 ああ、だからルルディは急いで帰って行ったんだ。随分慌ただしいなぁとは思ったけど、そう言うことだったんだね。あの時はちょっと不思議に思ったものの、仕事が忙しんだろうと気にも止めなかったけど。


「そして、私の母……というか、先代聖女を発見した、と。そういう事だったんだね」

「ええ。初めてエリカ様と連絡が取れたのは、ちょうど貴女が西都にいる頃。一度水鏡で連絡を入れたでしょう? あの時、エリカ様のおっしゃっていた事と、貴女の話に齟齬がないか確認させて貰ったのよ」

「私の家族構成を聞いたのって、そういう理由!?」

「エリカ様が嘘をおっしゃるとは思わなかったけど、念のため、ね」


 一つの疑問が解消されると、二つの疑問が湧いてくる。そんな会話が続いて、段々と感覚が麻痺してくる。もう何を聞いても驚かないぞ。多分。

 物凄く根本的な疑問が湧いた。


「じゃあ、私が勇者に選ばれたのって、こっちの人の血を引いてる、から?」

『それもあるかもしれない。でも、それ以上に八重香が私と父さんの子であることが、要因だったのかもしれない。こっちの世界──地球に住む人間の多くはひどく強い力を潜在的に持っているんだ』


 この制御不能なほど有り余ってる力は、二人の力がきっちり遺伝してしまったから、と言うこと?


『こっちの世界で力がほぼ使えないのは、世界による自己防衛かもしれないな。とんでもない力の保有者が山のようにいて、それを自由に使えてたら、世界が崩壊しかねないからね』


 母はのんびりした口調でそんな考察を口にするけど、全然耳に入ってこなかった。

 「あ、そーゆーことだったの」で終わらせられるほど単純で軽い事じゃないけど、言わなきゃいけないことなんて思い浮かばない。

  二人の雰囲気から察する限り、私がいない間にる程度の情報交換も終わっているみたいだ。

 今日は今までの事を私に伝えるために水鏡を使ったようだし、なら少しぐらい親子の時間を貰っても大丈夫なはず。


「ねぇ、ルルディ。母と二人で話したいんだけど、少しだけ時間貰っていいかな?」

「ええ。そうね。じゃ少し席を外すわ。終わったら声をかけてね」


 ルルディは、セラスさんと神官長さんを従えて部屋を出て行った。


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