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再召喚!  作者: 時永めぐる
序章:召喚って何ですか
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第二の始まりは素朴な疑問から

「ねね、ルルディ。すっごい根本的なこと聞いていーい?」


 その日も、私とルルディは水鏡の術でライブチャットしてたの。

 あの電話の後ね、聖女様ってば数日で水鏡の術とインターネットとくっつけちゃっったのよ。

 そんなわけで、毎日のように他愛もないお喋りをして、今じゃ立派に友達だ。私は聖女様をルルディって呼ぶし、彼女は私をエーカって呼ぶ。八重香(やえか)って発音しにくいんだって。

 PCのモニターの向こうで豪奢なソファーに物憂げにもたれたルルディが、『なぁに?』と気軽な返事をくれた。

 あ、水鏡なのに何で天井じゃなくて、部屋が見渡せるのかと言うとね。ルルディが水盤を覗き込むと首が痛くなって嫌だからと、術で立てかけられる水盤作っちゃったんだよ。なんて言うかもう型破りすぎよね。そんなところで力の無駄遣いすんなって話なんだけど、


『やだ、こんなことで枯渇するような、そーんな程度の力だったら、聖女なんてなれないわよ。甘く見ないでちょうだい。大体ね、エーカとのお喋りは息抜きなの! 息抜き! 大事なストレス解消時間を奪わないでちょうだい」


 ……だそうです。

 繊細可憐だった聖女様は段々図太く……もとい強くおなりです。

 余談ですが、たまにネットスラングらしきものがぽろりと口から零れたりもするんですけど、一体どうしてなんでしょうか? 怖いので聞きたくありません。謎は謎のままでいるのが美しいことだってあるのです。


 最近はね。


『ねぇ、エーカがこっちの世界に定住してくれれば全部丸く収まるんじゃなくて? 私の側近として就職しない? あら、これってかなりいい考えね。どう?』


 なんて言い出すから困る。

 さすがにそれは丁重にお断りしてるけどね。確かにあっちの世界にも知り合いはたくさんできたし、今となっては懐かしいとも思う。けど、家族をおいてはいけないし。ある日突然私が消えたら、お父さんだってお母さんだって、弟だってものすごく心配するに決まってる。


 ――と! 話がだいぶ脱線しちゃったので元に戻しますね?

 私は昔から疑問に思ってた事を、ルルディに尋ねたの。


「ねぇ。私がそっちに召喚された時、確か聖司国は魔族の侵攻を受けて……って話だったじゃない? でも蓋を開けてみたら魔族は友好的だったし、武力侵攻して来てるようには思えなかったんだけど? 過激派の魔族でも一部にいて、そいつらが独断で仕掛けて来てたわけ??」


 何気なーく聞いたわけよ。そしたらね。

 今の今までソファに緩く座ってたルルディがね。いきなりガッ!! と縦型水盤を掴んだのよ。その勢いに、モニターの前の私はビビって危うく椅子ごと転がりそうになった。

 モニターに美女のアップ。スクショ撮りたい。けど、この術中はスクショ撮れないんだよね残念!


『それがね! もう! 大変なの! ちょっと聞いてよ! 酷いのよッ!』


 日ごろの優雅さをかなぐり捨てたその仕草に、水盤が揺れる揺れる。見てるこっちまで酔うわ! うう、気持ち悪い……。


「ちょっと! 落ち着いて! 話、ちゃんと聞くから。ね?」


 宥めて、宥めて聞きだしたことには。

 えーっとね。聖司国に侵攻して来てたのは、魔族じゃありませんでした。あはははは!!――って!! なんなのよそれ!!

 呆れて物も言えないわ。絶句した私をよそに、ルルディは更に色々説明してくれた。

 人間が魔族の強襲と思ってたのは、実はエオニオから湧いて出た妖魔……とでも言えばいいのかな? そいつらの仕業だったらしい。今まで人間と魔族って親交がなかったから、さ。魔族がどんな姿してるのかイマイチ分かって無くて。勘違いしたらしいよ。


「なんでそんな馬鹿馬鹿しい間違い起こすのよ!」

『だって仕方ないじゃないー。こっちの世界ね、五百年ぐらい前に一回滅びかけてるのよ~? 詳しい資料その時なくなっちゃって、分からなかったんだもの』


 滅びかけたって分かったのだって最近なのよ? なんて暢気なことを言うから、私涙目。

 ああ、聖司国よ……! いままでよく存続していたものね。


『ヴァーロのお城にね、聖司国ではもうなくなってしまった古文書も残っていて、おかげで聖司国(こちら)でもエオニオの研究が進んでて、大忙しなのよ~』


 おっとりした口調で言われても実感が湧かないけどね。

 でも、ソヴァロ様(最近は魔王じゃなくてこう呼んでいる)となかなか会えないって、彼女がよく愚痴をこぼしてるから、忙しいのは本当なんだろうな、と察しはつく。


「そうなんだ……。ルルディもソヴァロ様も、神官さんたちも大変だねぇ」

『やだ! エーカったら、そんな他人事みたいなこと言わないで?』


 ルルディの言い方に一抹の不安を覚えた。

 え? 私、当事者じゃないでしょ? どう考えても。


「そ、それはどう言うこと……かな?」

『だってぇ。色々調べてみたんだけど、あなた以上に聖剣アレティと相性が合う人見つからないのよ?』


 だから何なの。


『もしもの時は、よろしくねぇ?』


 いや、だから。それ何なの。


「ちょっとルルディ。もしもの時って何なのよ!」

『あらやだ。もしもの時はもしもの時よ』


 そんな、語尾にハートマークがつきそうなほど軽く言わないで! また召喚されるとか冗談じゃないわよ!!

 抗議しようとしたその時、モニターの向こうで、コンコンというノックの音が響いた。画面の中でルルディが後ろを振り向く。


『あ。このノックの音はヴァーロだわ。――じゃーね、エーカ!』


ブツッ!


……。

…………。


またいきなり切られた。

つーか、ノックの音でソヴァロ様だって分かるのか。うわぁ。ラブラブすぎてお尻がムズムズする!

 やってられないわー。私は投げやりな気分になってパソコンの電源を落としてベッドに潜り込んだ。

 人と魔族和睦して大団円! と思ったけど、やっぱり色々あるのねぇ。まぁそりゃあね。めでたしめでたしで終わるのはおとぎ話だけでさ。何事にも続きってものはあるわけだし、ずっと何も起きない世界なんてないものね。

 大変かもしれないけど、まぁルルディとソヴァロ様がいれば何とかなるだろうな。どうやらあのふたりはどちらも歴代一、二を争う力の持ち主らしいから。


 中途半端に事情を聞いちゃったから、あれこれと疑問が湧いたけど藪蛇は勘弁して欲しい。今日の話は聞かなかったことにしよう。うん。それが一番良い。そんな風に無理矢理思い込んで。いやーな予感を胸の奥に押し込めて。私は眠りに落ちた。


 思えばこれが第二の冒険の始まり……だったのよね。

 

 

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