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再召喚!  作者: 時永めぐる
第一章:深い森の妖魔
19/92

幕間劇:二人の近衛騎士団長(上)

タイトルを幕間劇としましたが、本編と繋がっております


 街の南の外れ、正確に言えば街の外に作られた真新しい建物の陰に、不審人物が二人ほど潜んでいた。

 伝説の勇者が視察に来ると言うことでいつも以上に活気づいているうえ、警備も厳重になっているそこに不審人物が二人も潜んでいられたのは、ひとえに顔見知りであったからに他ならない。

 顔見知りと言うより、警備につく者、その施設に一時的な居を構えている者にとっては雲の上の人物である。

 通りかかる者は二人を不思議そうに眺めたり、または見てはいけないものを見たかのような顔をしてそそくさと去っていく。

 一番哀れなのが、その時、その場の見張りに立っていた哨兵だろう。何と例えようもないほど困惑し切った顔で、しきりに素知らぬふりをしようと努力している。

 それも無理はない。

 近衛騎士団の団長と言えば、一介の兵士にとっては手の届かないほど遠い存在だ。

 よりにもよってその騎士団長が、魔導国の騎士団長と押し合いへし合いしつつ表の様子を伺っているのだから。

 魔導国を『魔界』と呼んでいたのは記憶に新しい。どころか幼いころから沁みついた慣習はそうそう捨てきれるものではない。

 魔界に住む魔族は恐ろしい――そう刷り込まれて育った彼にとって、魔導国の騎士団長など災厄と同義でしかない。

 憧れの団長と災厄が何やら小突きあってるのを見た彼の心情は如何ばかりだったのか。次の兵士と交代した後、その足で薬師のもとに赴き、頭痛薬を求めたのも仕方ないことだろう。



 と、そんな一兵士の心情も知らぬまま、当の本人たちはいがみ合っていた。


「何故、貴殿はこんなところにおるのだ!」

「セラス殿こそ、仕事は良いのか?」

「ふん! 仕事をさぼってばかりの貴殿には言われたくないわ」

「さぼってんじゃねえよ。俺は優秀だからな。机に齧りついてる必要がねえんだよ」


 暗に無能と罵られたセラスはぎりっと歯ぎしりしつつ、アハディスを睨みあげた。その射殺さんばかりの視線を真っ向から受け止めてる彼は平静そのものである。と言うよりわざと彼女を煽っているのか薄ら笑いさえ口の端に浮かべている。

 無言で見つめ合……もとい睨み合ううち、表のざわめきがにわかに大きくなり、ほぼ二人同時に我に返ったようだ。

 表では、ディナートと護衛を二人引き連れたヤエカが、子供たちに別れを告げていた。小さな少女が進み出て、彼女と何かを話している。

 その後ろで騎士三人がだんだんと苦りきった顔になっていく。


「あー……。嬢ちゃ……じゃなかった、ヤエカ殿は何かやらかしたらしいな」

「のようだな」


 ぼりぼりと頭をかくアハディスの横で、セラスが小さなため息をついた。


「おおかた、『逃げ遅れた家族を助けて』『分かった。絶対助ける』なんてぇやりとりでもあったんだろうさ」

「うむ」


 裏声を交えつつ話すアハディスに向かって、少々呆れたような視線を投げつつ、セラスは腕を組みながら唸った。

 二人のいる場所まで声は届いてこないが、恐らくアハディスの下手な芝居と変わらないやり取りが


「あの方は戦のない世界から来られた方だ。絶望を知らずに育たれた……それは幸せなことなのだがな」

「ああ」


 彼の短い(いら)えには様々な思いが込められている。それを正確に感じたセラスは、同意するように小さく笑う。


「ディナート達も何も言わなかったみたいだな」

「ああ。まぁ何も起こらなければ、それに越したことはない。わざわざヤエカ殿に告げて落ち込ませることもない。――そういう判断なのだろう」

「では、最悪の事態が起きたら? 心構えもなくそんな事態に遭遇したら、ヤエカ殿は傷つくのではないか?」

「その時はその時だ。あの子は潰れたりはせん。どれだけ悲しんだってちゃんと立ち上がるさ。私の妹分だからな」


 自信満々に言い切るセラスを横目で見て、アハディスが小さく鼻を鳴らした。


「ずいぶんと厳しい姉貴だな」

「優しいのと、甘やかすのは違うだろうが」


 馬鹿か、と言わんばかりの冷たい視線をアハディスに向ける。

 向けられた本人は気を悪くするどころか、にやりと男臭い笑みを浮かべている。


「ああ、そうだ。貴殿には借りがあったんだった。――昨日は妹がずいぶんと世話になった。姉としてはたっぷりと礼をせねばなるまい」


 アハディスに向かって、セラスが好戦的な笑みを浮かべながら剣を抜き放った。切っ先がちょうど彼の鼻の先で制止するより、早くアハディスは刃の届ぬ距離まで飛び退いた。


「ちょ! 待てって。昨日のはよ、俺だって俺なりに良いと思う方法を、だな! って話聞けよ!!」


 慌てながらも彼は剣を抜く気配すら見せない。それが癇に障ったのか、セラスの眉がさらに吊り上がった。


「アハディス殿、剣を抜け」

「だ、だからどうしてそうなるんだよ!」

「貴殿には言いたいこともたまっていたしな。ちょうど良い機会だろう?」

「何の良い機会だよ! 落ち着けって!」


 煮え切らないアハディスに向かって、セラスが物騒に笑いかけた。普段は堅物で通っている彼女だが、元来好戦的な性格を理性でねじ伏せているきらいがある。


どうだ、貴殿が勝てばこの前の酒場での大宴会の費用と、その後の乱闘による損害の修復にかかる費用すべてを私が全て肩代わりしよう。私が勝てば……そうだな、私の言う事をひとつ聞いていただこうか」

 


 

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