破章
さて、俺は人間の醜悪さをもってして世界のゆがみを示したな?
では、他のゆがみの根拠となるものを示していこう。
それは、『真実』が存在し得ないということだ。
何を言っているのか分からないだろう?
それでいい。
哀れで愚昧で陳腐な君らはそれで良い。
君らは耳を塞ぎ、目を塞ぎ、与えられる物だけに飛びつく。
それが正しいものか、過ちかも認識しようとせずに。
話を少し変えようか。
この世界は、君らの一人称で動いている。
人の世界に誰も干渉しようとしないし、しようともしない。
だからこそ、自分の世界しか判断材料がないのだ。
人の世界は到底覗けるわけもないし、理解できるわけもない。
人の世界には、その人の感情、思考、知識、その他諸々が詰め込まれているのだから。
少し覗いただけで、その人の全てが理解できるわけもない。
それほどに、人とは複雑なのだ。
それと同時に、単純でもある。
人のことを理解できないからこそ、目の前に吊るされた『事実』に飛びつく。
そうして得た事実を、宝物の如く自分自身の深く深くへとしまいこむ。
それが偽かも、真かも吟味せずに。
これが一番顕著なのは、最近だ。
周りで得た情報を高々と振り上げ、ふんぞり返って周りにさらにそれを伝播する。
それのなんと醜悪なことか。
さらにそれは公式の場でも増えつつある。
ジャーナリストだ。
さて、連日連夜で報道されている情報。
あれらを真実だと言い切れる情報は何処にある。
情報を真実だといい切れる情報だ。
これに関しては、事件などはそりゃ真実な情報が鮮度を保って送り届けられる。
だが、各国の情勢などはどうだ?
政治家の動きは?
世界の様子は?
一般人がどうこう言える問題じゃないな。確かにそうだ。
所詮人は自分の知りえる範囲の事柄しか知り得ない。
それが、己の世界なのだから。
人の世界と己の世界で、真実が異なっているのは多いことであろう。
真実はいつも一つなのは、目に見える物理的な事件のみだ。
だからこそ、真実とはかくも薄っぺらいものなのである。
精神的なもの、体感できない物に関しては、真実を真実と言い切るには情報が足りず、偽と言い切るにも自分自身の猜疑が邪魔をする。
故に、人は楽な方に流れる。
情報の丸のみである。
それは最早盲目的であり、自分という世界に殉ずる思考である。
故に、真実は埋もれる。
己自身で、得るべき物をせっせと埋めているのだ。
滑稽なこと、この上ない。
――世界で一番の狂人「草薙 仁」著『堕落』より抜粋