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今日から私は

 「ああそうだ。お前にいい物をやる。」

シェードは何か鞄みたいなものの中を漁りだした。どうやら私に何かくれるらしい。もしかして……お土産!?

「ほらよ。」

そう言って渡されたのは――またしても分厚い本だった。まさか……

「じ、辞書ぉ!?」

素っ頓狂な私の悲鳴に、シェードはうざったそうに耳を塞いでこちらを睨みつける。そうだった。コイツが私にお土産をくれるくらい優しかったら、私もこんな大変な思いはしなかったはずだ。くそう、忘れてた!

「ちょうど帰り道に別荘があったからな。置きっぱなしになってたヤツを持ってきてやった。喜べ。」

何かシェードが言っているが、聞こえない。まさか辞書2巻目があるなんて……しかも、今度のは1巻と比べて1.5倍(当社比)の分厚さだ。まだまだこれ以上私に勉強させようっていうの……。

「――おい、聞いてんのか。ったく、この俺を無視するとは……」

シェードがまたぶつぶつ文句を言っているらしかったけど、私は放心状態。絶望に打ちひしがれていた。無理だ。この国で生きるのは。

 そんな私の様子を見て、呆れたシェードは溜息をついて

「聞けっつの。」

ばちん、と私にデコピンをお見舞いした。一気に現実に引き戻される。(本当に暴力的だな!)

「まあ、多分俺の話は通じないだろうが一応話しておいてやる。」

涙目でシェードを睨む私に、コイツはいつになく真剣そうに、でも面倒くさそうに語りだした。もちろん意味はわからない。一週間で言葉が覚えられたら苦労はないのに……。


 「それを書いたのはユージロー=オークマだ。この国の伝説の戦士とされてる。アルフェン軍がここまで強くなったのはそいつのおかげだろうな……。」

ゆーじろーおーくま? ええとつまり、オオクマユウジロウさん? なんか日本人的響きだ……。シェードの言ってることは3分の1もわからなかったけど、その名前らしき言葉ははっきりと聞き取れた。

「オークマはお前と同じように“観客世界”からび出されたらしい。……ま、いわゆる成功例だな。」

オークマは成功……? どういうことかな。ああもう、誰か通訳してー!

「俺がお前をここに喚び出した目的は……」

シェードはそこだけゆっくり、はっきり喋った。ジェスチャーも交えて。私にも意味がわかるようにしてくれているのかもしれない。私はきっと重要なことを言うのだと思って、耳を澄ませた。

「俺には不可能がないことを証明するためだ。」

……はあ? 何言っちゃってんのこの人。(「俺に不可能はない」ってとこだけなんとかわかった。)

「俺にもオークマのような人間を喚べる……そう確信していたし、その証明もするつもりだった。準備は完璧だったし、失敗するはずがなかった。」

シェードはまた私には聞き取れないような速度で話し出した。

「だが、この俺がお前のようなブサイクを喚んじまったんだよ。どういうわけか失敗してな。」

ものすごく忌々しそうなシェード。たぶん、なんとなくだけど私はちっとも悪くないと思う。私がこんなところに来てしまったのはまず間違いなくシェードのせいだ(と思う)。けどコイツは何か私に不満がありげだ。いや、不満なのは私の方だっつーの!


 「……おいブサイク。お前、名前は?」

シェードが唐突に私の名前を聞いてきた。ああ、そういえば名前言ってなかったんだっけ。そうだよな、言おうと思ってもいつもブサイク呼ばわりで……そうじゃん、それより前にブサイクってあだ名は何よ!? なんて、慣れて若干気付くのが遅れた私が情けない。

「リサコだよ。音無理沙子。」

もう口答えしても無駄だとわかってるので、私は大人しく名前を言った。

「ああ? リサコだ? ……長いな、リサで十分だ。」

たった一文字じゃん!! 心の中でツッコミチョップする。


 「――リサ。お前は今日から俺の奴隷になれ。」

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