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美醜改め、美女と醜女

 「それは“ルィ”と発音します。」

お手伝いさん、もといカリナさんはにこっと笑った。上品で優雅な、まるで貴族のような雰囲気を纏った彼女は、たいへん美しい。

「ル……ルィー? む、難しいな。噛みそう……。」

そしてしかめっ面で辞書の文字群と対決してる私は、一体どんなふうに見えているんだろう。



 しょうがないのでお手伝いさんを探そう、と思いたち、部屋のドアを開けたら腰を抜かしそうになったのはかれこれ15分くらい前。なぜなら、ドアのすぐ外でお手伝いさんが控えていたからだ。ありえない。こんなにも仕事熱心な人がいるもんだなと感心してしまった。

 そんな吃驚仰天してさぞかし間抜けな姿を晒しているだろう私を見て、お手伝いさんは綺麗すぎて眩しいくらいの笑顔で言った。

「何かご用でしょうか? 私にお手伝いできましたら、なんなりとどうぞ。」

もちろん言葉は通じないんだけど、この一言で(たとえ仕事だろうと)彼女はとってもいい人なんだと私は思った。


 昨晩も朝食時にも会ったけど、その時はまだ周りを見るほどの余裕があまりなかったから、「美人だなあ」と思う程度だったんだけど、お手伝いのお姉さんはめったに見れないほどの美人だった。ハリウッド女優にだってなかなかこんな人はいないんじゃないかと思う。こんな人と並んだら、そりゃ私はブサイクだ。(だからってシェードはヒドすぎるけど!)



 言葉が通じないなりに頑張って、なんとか彼女に教師をしてもらうことになった。快く引き受けてくれて本当に嬉しい。

「私、この屋敷で働いているカリナと申します。」

0円営業スマイルなのにお釣りまでくれるみたいに、彼女は頭を下げた。そんなことをされたらこちらが縮まってしまう。

「あっ、あの……私のこと、そんな大仰に扱わなくても……。」

私は両手を振って制した。彼女は目を丸くしている。どうやら、このジェスチャーはわからないみたいだ。


 そうだ、こういうときこそ辞書の出番じゃん!

 ……私は頭の回転が遅い。そういえば、仕事覚えるのもなかなか苦労したっけ……。


 私はとりあえず辞書をめくった。そこには都合よく、

「名前、年齢、貧乏人」

の訳が書いてあった。最後は何か意図的なものを感じる。これ書いた人、貧乏だったのかな……。

 とりあえず私は、お試しテストのつもりでその単語を読んでみた。まだ発音はダメダメだけど、辞書に書いてあるフリガナだけで頑張ってみようと思った。

「えーと、“名前は、リサコです……?”うーん、これで合ってるのかな……。」

「カリナ」は下の名前っぽかったから(とりあえずなんとなく自己紹介してるのはわかった)、私も名前だけ言ってみた。辞書から少しだけ顔を上げてカリナさんをちらっと見ると、少し驚いたようにしていた。おお、脈アリかな!

「すばらしいです、リサコ様!」

彼女は瞳をきらきらさせて、拍手をした。いくらなんでも大げさだと思うんだけど、立ち上がってまでみせた。きょ、恐縮です……。

「よ、よかったですか? よーし、続けるぞー。ええと、数字はなんて言うんだっけな。あった、“24歳で、び……びりんにん?”ひゃっ、違った。“び、貧乏人……です。”こんな感じ? ちょっと間違えたけど……。」

私はもう一度カリナさんを見る。


 感動して泣いてた。


 やっぱり彼女は、心の美しさまで完璧なんだろう。

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