雪
季節が一巡する程時が流れ、耳が痛くなるほど冷える、雪の積もる季節となった。相変わらず変わりのない生活を繰り返す毎日。
坑道が凍ってしまい入れなくなったため、しばらくは薪割りや近所の家畜の世話の手伝いをして生計をたてていた。
そんなある日、アンドレ達は全員で街に買い物に出掛けていた。そこで突然見しれぬ大男が話しかけてくる。
「――――、久しぶりじゃねぇか」
聞きなれない名前を呼ぶ声だが確かに老父に話しかけていた。老父は少し驚いた顔をしたあと、返事はせず早歩きになった。
「おいおい、無視とはひどいじゃないの。積もる話をしようぜ。ん、その小さいのは連れか。懲りてないな、またあの時のことを繰り返すつもりか」
不気味な笑みを浮かべながら話す男にアスターは聞き返す。
「あの時……?」
「ま、伝えるわけないよな。かつて自分が引き取っていた孤児を見殺しにしたなんて」
すかさずアンドレは庇う。
「いきなり何なんですか。名前も違うし、人違いですよ」
そう言い老父の方を見ると黙って下を向いていた。
男は地蔵のようになった老父を責め立てる。
「偽名まで使って。相変わらず、ガキには好かれるようだな。俺は昔から、こいつと親友だった。あの事件が起きるまではな。自分で話さないのなら、俺が代わりに教えてやるよ。証拠もある。場所を変えよう、聞きたいならついてこい。それでいいだろ」
アンドレは迷わなかった。
「信じられるかよ、こんな話。行こうぜ、アスター」
「あ、あぁ」
しかし老父はゆっくりと口を開いた。
「全て本当のことだ。好きにするといい」
アンドレはそれでも庇い続ける。老父を、自分自身を正当化しようとした。
「何か理由があったに違いない。だから――」
「……話だけなら聞いてみないか」
アンドレは友の意外な返答に戸惑いながらも返す。
「何でだよ、今までの恩を忘れたのか。実際に俺たちは助けられてきたじゃないか」
「だから話を聞くだけだ。それに人を殺したのは事実だと認めてる。そんな人間を信じろっていうのか。アンドレ、お前はどうする。来るのか、来ないのか」
「俺は……本人から話を聞くことにするよ」
「そうか。……もし明日までに俺が帰ってこなかったら探さないでくれ。その時はきっと、俺はお前とは別の道に進んだということだ。短い間だったけど、楽しかったよ。アンドレ」
去り際のアスターの顔は見えなかったが、引き止めることはできず、ただ昨日までの日常が戻ってはくれないかという淡い希望にすがるしかなかった。
帰り道、アンドレと老父は目を合わせることはなかった。
その日の夜、老父は遂に沈黙を破った。
昔、孤児を雇ったことがあったらしい。深い愛情をもって本当の親のように育てていたという。
しかし、当時の景気が悪化し家の経済状況はどんどん悪くなっていった。
それを気にした孤児はより一層張り切って朝から晩まで働くようになった。
老父は孤児が無理をしていることには途中から気づいていた。
しかし家計はもはやその孤児によって成り立っていたため、やめろとは言えなかった。
そして今のアンドレ達と同じように鉱山作業をしている最中、崩落事故に巻き込まれて帰らぬ人となった。
過労のせいで身体がふらつき、逃げるのが遅れたそうだ。
(思い出してみれば家に来た時、養う条件としてだされた『適切な時間の労働』というのはこの出来事からきていたのか)
話が終わったあと、2人しか居なくなったこの家はしばらく時計の針の音だけを鳴らした。
老父は次の日の夜、アンドレに家を託し、出ていってしまった。
アスターが帰ってくることはなく、どこを探しても居なかった。街にも、森にも、あの丘でも。
アンドレは結局、魔法学校に行くことを決めた。
ここにある守りたかったものはすべて失ってしまったから。
部屋を整理してると棚の引き出しの奥から日記がでてきた。
捲ってみると、それは話にあった孤児のものであった。
ただひたすらにそこに書かれていたのは苦しい日々への愚痴と老父への感謝の言葉だった。
アンドレは再びそれをしまうと家に別れを告げ、魔法学校へ向かった。
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