第8話 予期せぬ失敗
日が暮れる頃、ミコが帰ってくる前に俺と母さんモドキは、相川の運転する車に乗り込んだ。トランクには、細かくなった相川の部下たちが箱に入って収められている。
ミコにはバイトのあと彼女の家に泊まると告げている。
母さんモドキも、友人と朝まで遊ぶことにしてある。
ミコを一人にするのは心苦しいが、仕方ない。
一応、ホロンにはもしものときのために、相川の家で待機するよう命じてある。
「じゃあ行こうか、相川」
「わかりました」
催眠状態の相川がエンジンをかけて出発する。
これから、死体を埋めるために山に向かう。
真冬の山だが、幸いにもまだ雪は降っていない。地面が固くなっているだろうけど、まぁ掘るのは俺じゃないし、構わんだろう。
寒さで遺体が朽ちるのが遅くなってしまうだろうけど、掘り返すような獣もいないだろうし、たぶん大丈夫。
「さて相川、借金の件はどうなった」
「言われたとおりにしました。俺の隠し口座から金を引き出し、返済に当てました。あちらには、『親戚が助け舟として金を送ってきたので情婦の話はなくなった』と伝えてあります」
「向こうの反応は?」
「了承するだけです。もとより、他にも同じ立場の人間はいますし、あの人は他のビジネスにも忙しいですから、いちいち執着したりしません」
いっそあえて母さんモドキだけでも送り込んであの人とやらの正体を暴けばよかったか。
ないな、まだアプリの検証が済んでいないんだ。無茶はできない。
「じゃあ次、母さんに質問する。というか、実験だな」
母さんモドキを使って、いくつかアプリを効果を検証してみた。
①催眠をかけるには画面を直に見せて口頭で命令を聞かせる必要がある。ガラス越し程度なら問題ないが、サングラスでは無効になる。
②催眠の効果時間は、まだ不明。命令を完遂するか、もう一度画面を見せると解除される。
③催眠中の記憶は残らない。命令で記憶を消した場合、解除したあとも記憶は戻らない。
④同じ人間に何度も催眠をかけることは、可能。
⑤同時に操れる人数は、まだ不明。
たぶん、まだ俺の知らない制約があるだろう。
アプリのことからホロンから聞き出すのが一番手っ取り早いのだろうが、
『一個教えるごとにエッチ一回!!』
とか言い出すから、自分で調べるしかない。
あいつめ、こっちの足元見て要求が過激になってきているな。
検証の際、もちろん『あの人』について情報も引き出している。
「それで相川、その『近藤』ってやつが犯罪グループ七法印のボスなんだな」
「はい。ですが、おそらく偽名です。写真はありません。呼び出すこともできません」
虚ろな瞳で相川が答える。
七法印という組織名、仏教用語の四法印から取ったらしい。
あと三つ、何を足したんだか。どうでもいいが。
「母さんは会ったことあるんだろ?」
「金髪の、若い子でした。ハク様と、大差ないと思います。身長は、高め。……それと」
「それと?」
「以前一度だけ、シャツと、ズボンだけでしたが、制服を着ていました。ハク様の学校の制服のズボンに似ていたかと思います」
学校の生徒?
ズボンだけじゃ確定できないか。
とはいえ、学校か……。
どのみちコウダイにはアプリを使う予定だし、あいつからもいろいろ聞き出すか。
そういえば、髪がボサボサの子と仲良くなっておけとかホロンが言っていたな。
「それで、母さん。近藤とやらは父さんを騙して借金を背負わせたんだよな?」
「はい。痴漢の冤罪から助ける、という話が大きくなって、5000万円の借金を負わせました。どうしようもないので、保険金で解決しました」
つまり、俺がいま貧乏なのも、そいつのせいなのだ。
警察に通報するか? ダメだ、証拠がない。
それに、昨晩俺の周りで人が死んだのだ。あんまり目立つ真似はできない。
「そろそろ着くな」
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掘る。
掘らせる。
シャベルを持たせて穴を掘らせる。
ちなみに、山の麓に何故かサラリーマンがいたので、ついでに催眠をかけて掘らせることにした。
こんな深夜に一人でなんのようなんだか。そういえば近くに大きな橋があったな。
命は大切にしてほしい。
死体は一箇所に埋めるのではなく、複数個に分けて埋める。
ついでに流したりもする。川があるからな。
「よし、じゃあ土をかけろ。一応場所を撮影しておくか。相川、俺が撮影するから、お前はこのスマホのライトで辺りを照らせ」
「わかりました」
相川にスマホを渡す。
催眠アプリが入っている方だ。
「……え」
「どうした相川」
「な、なんだここは!?」
「は?」
「暗い!! こ、ここは、山!? だって俺はあの家に……」
なんだ、こいつ。
まさか、催眠が解除された!?
バカな。俺はこいつに『しばらく奴隷でいろ』と指示してある。些細な命令の完遂で解除されないようにだ。
なのに、なぜ? 効果時間?
もしくは……催眠アプリのスマホに触れているから?
「くそっ!! 動くな、相川!! 動けば殺す。まずはそれを地面におけ」
「な、なんだクソガキ!! 俺を脅しているのか」
相川の視線が掘っていた穴へ向けられる。
覗いて、目撃してしまう。残骸を。
「ひぃぃ!! た、助けて!!」
相川が走り出した。
あのスマホを持ったまま。
マズい、マズいマズいマズい!!
まだなにもはじまっちゃいない。なにも残せていないのに、こんなところで!!
現在地を忘れぬようサラリーマンを残し、俺は母さんを引き連れ、相川を追いかけた。




