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第19話 信仰と不審

※まえがき

前回の話の一日前になります。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 12月25日。

 ユリネとコウダイを使って撮影した翌日。

 例の動画は『まだ』拡散させていない。


 販売方法は漠然としか決まっていないが、とりあえず数日中に拡散するのはモザイクなしのサンプル。

 本編はディープウェブで売買可能にするってところか。

 相川の別の部下、もしくは同業者とコンタクトを取り、催眠で操って傘下に加えよう。


「さて、タルト。お前にクリスマスプレゼントだ」


 この日、俺はタルトを俺の家の隣、つまり相川が使っていた部屋に招いていた。

 すでにやつの私物は処理してある。


「プレゼント?」


「この家をくれてやる。ここで暮らせ」


「え」


「お前の住処、ぶっ壊されただろ。ホームレスたちもビビって散り散りになっちまったし」


 例の件、ホームレスたちの記憶はもちろん操作してある。

 ユリネやコウダイが来て暴れたこと、撮影したことは忘れさせている。

 警察が来てあの高架下から追い出された、ということにしてある。


 もし動画が広まって、場所を特定できても、ホームレスたちから足がつくことはない。

 彼らにはモザイクをかけるし、尋問したって何も覚えていないのだから。


「大家には話をつけてある。今日からここがお前の家だ。自由に使え、家賃はいらないが、節約はしろよ」


「な、なんで……」


 困惑しているな。

 そりゃそうか。


「俺とお前はもう友達だ。それ以上の理由がいるか?」


 というのは建前。

 こいつにはまだ謎が多い。

 何故催眠が効かないのか。近藤とはどういう関係なのか。

 できるだけ近くにおいておきたい。


 タルトは視線を逸らすと、もじもじしはじめた。


「ハクには、感謝してる。でも、ほ、施しは……いらない」


 プライドが高いな、本当に。


「わかってる。だから一つ条件がある」


「?」


「毎日じゃないが、これから週に一度は一緒に晩飯を食って映画でも観よう」


「そ、それが条件?」


「物事の価値は人によって変わる。俺にとってお前と食事をするのは、部屋を与えるに値するということさ。タルト」


「…………ありがとう。でも、こんなに立派な家じゃなくても」


 立派ではないだろ。

 2DKではあるがボロいアパートだぞ。


「あぁ、それともう一つ」


 大人しくしていたホロンを見やる。


「お前もここに住め」


「ん? いーよ。今の家にいる両親は、石狩ホロンの親であって私の親じゃないし」


 どうせならこいつも近くにいた方がいい。

 仮にタルトに何かあっても、ホロンと一緒ならどうにかなるだろう。


「でもでも〜、私からも一つ条件」


「今度はなんだ」


「今日ハクきゅんの晩ごはん、カレーでしょ? そのとき使ったスプーンを洗わずに私にちょうだい!!」


「キッ……」


「あぁ〜、推しに気持ち悪がられることで得られる栄養素が全身を駆け巡るぅ〜♡♡」


 当然ドン引きしているのは俺だけじゃない。

 まぁタルトの場合、理由は別にあるだろうが。


「石狩さんと、同居……」


「よろしくねぇ、タルトちゃん」


「ぬぅ……」


 悪いがそのへんは我慢してほしい。


「ところで、ハク。撮った動画、どうするの」


 さて、タルトにどこまで語るか。

 近藤と繋がっているかもしれないこいつに。

 すべて話すのはリスクか? いや、今更だろ。


 タルトはすでに見ている。知っている。

 俺がアプリを使ったことも、ホロンと契約関係にあることも。

 だが催眠が効かないタルトの記憶は消せない。


 ならば、いっそ……。


「アレは、売る」


「売る?」


「金にする。妹のためにな。これからも動画を撮り続ける。ユリネがダメなら別の女や男を使って。安心しろ、お前は出演させない」


「妹のために……」


「引いたか?」


「ちょっと。でも、応援したい」


「ほう」


「ハクが安心してわたしとご飯を食べながら映画を観るために」


「ふっ」


 こいつもこいつでぶっ飛んでいるな。

 完全に信用できないのはホロンとて同じ。

 なら、眉唾でも引き入れてみるか。

 どのみち、人手は足りていないんだ。

 ホロンと違って、無条件で手を貸してくれるヤツがほしい。


「助かる。あと、このアパートはペット禁止なんだ。悪いがメカゴジラは……」


「平気。あれ以来、メカゴジラは人間を怖がって、わたしにも懐かなくなったから」


「……そっか」


「だから、ユリネちゃんやコウダイをもっと苦しめることに、罪悪感は、ない」


 あいつら以外なら?

 なんて聞くのは野暮だな。


「わかった。じゃあこれからは俺がメカゴジラの代わりになるよ」


「え」


「寂しくなったら、側にいてやる」


「……」


 タルトが頬を赤くした。

 わかりやすいやつだ。

 少々クサイセリフだったが、これで高感度が上がるならやすいものだ。


「ハクは、不思議」


「そうか?」


「普通じゃない。あなたは……何者なの?」


「俺は…………神だよ」


「神?」


「あぁ、この世界をひっくり返す、叛逆の神さ」


「神……」


 ほんの少し、タルトの瞳が煌めいた気がした。


「さて、明日は二回目の撮影だ。段取りを決めておこう。……と、その前に、ネットで何本かAVを購入してあるから、参考がてら鑑賞しよう。良い作品にしないと売れないからな」


「ハク、マジメ……」


「そこがハクきゅんのいいところなのん♡♡」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 AV鑑賞会と今後の予定を決めたあと、俺は一つ隣の自分の家へ戻った。

 母さんがリビングで本を読んでいる。

 時間があれば読書か昼寝をしろ、と命令してあるからだ。

 多少は人間らしい生活をさせないとミコが心配するだろ。


 肝心のミコは……自室で勉強中か。


「はぁ、少し疲れたな」


 キッチンで水道水を飲む。

 一息つきながら、改めて物思いにふける。


 母さんモドキを従順な肉人形にした。

 相川を殺して、ユリネとコウダイすら、支配下においた。

 あの日、俺の誕生日に絶望をプレゼントしてくれた連中全員に制裁できた。


 でもこれはまだ、はじまりに過ぎない。

 まだ、やるべきことがたくさんあるんだ。


「兄さん」


 ミコがキッチンに現れた。


「どうした、ミコ」


「帰ってきたなら一言声をかけてほしいです」


「あぁ、すまん」


 ミコがぐっと距離を詰めてきた。

 俺の手を握ってくる。

 小さくて、か弱い手。


 じっと、ミコが見つめてくる。

 ちょっぴり怯えた、弱々しい眼で。


「兄さん、最近変です」


「そんなことないさ」


「手が温かい。手が温かい人は心が冷たい、なんて迷信があります。そんなもの信じてないんですけど、ないんですけど……」


「心配するな、彼女との喧嘩でギクシャクしているだけだから」


「母さんと、なにかあったんですか?」


 さすがに、違和感を覚えるよな。

 いくら人間らしく振る舞うよう指示したって、元の母さんとは明らかに違う。


「冬は気が滅入る時期だからな。ミコは受験のことだけ考えていれば良い。大丈夫、きっともうすぐ、楽になる」


「……母さんみたいなこといいますね」


 は?

 一緒にするなよ。あんなのと。


「ご、ごめんなさい。部屋に戻りますね」


「あ、あぁ」


「兄さん」


 躊躇いがちに、ミコが口を開いた。


「どこにも行かないでくださいね」


「行かないよ。お前が自立しない限りは」


「……」


 ミコ、お前は知らなくていい。

 気づかなくていいんだ。

 ただ健やかに、笑顔でいてくれたら。


 そのためだったら、俺はーー。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

一章終わりですね。

すこ〜し間を開けてから二章を開始していく予定です。

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