第18話 親不孝
※まえがき
今回は三人称です。
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12月26日。
その日ユリネとコウダイはクラスのクリスマス会に参加していた。
一日過ぎているが、そんなこと高校生にとってはどうでもいい。要は集まる理由が欲しいだけなのである。
クラスのカーストトップ数名でファミレスに行き、そのあとカラオケ。
ユリネは彼氏ではなくコウダイと先に待ち合わせをして、ファミレスに向かった。
「みんな、おまたせー」
なんて軽く挨拶をする。
全員の視線がふたりを見つめた。
まるで奇妙な珍獣を眺めるような目つきであった。
「おいおいお前ら、どうしたんだよ俺らのことじっと見つめてよー」
「コ、コウダイ、ユリネちゃん……これ、さっきSNSで回ってきたんだけど……」
「?」
ふたりしてスマホの画面を覗き込む。
野外で小汚い男たち犯されているふたりが、映っていた。
「なっ!!」
コウダイは言葉では抵抗しつつ受け入れて、ユリネはテーマパークに来た子供のようにはしゃいでいた。
『わーい、どんどんめちゃくちゃにしてー。私、えっち大好きなのぉ』
ユリネの顔が青ざめていく。
なんだこれは。間違いなく自分だ。
でも、どうして……なんで……。
「Z世代のバカ女子高生、みたいな感じで拡散されてんだけど……」
「ち、ちがっ、こんな……。あっ」
思い出す。
あの日の出来事。
ホームレスたちに犯されたこと。
同時に襲ってくる猛烈な吐き気。
悪寒。
でも思い出せない。
誰に命令されたのか。誰がそこにいたのか。
これは決してアプリの不具合ではない。中途半端に思い出すようにかけられた催眠だった。
コウダイが叫ぶ。
「きょ、脅迫されていたんだ!! 俺の意思じゃねえ!! これは無理やり……」
瞬間、ふたりの思考と肉体が自由を失う。
時間差で、さらなる催眠が発動する。
おもむろに、ユリネとコウダイが下半身を露出した。
「そうでーす!! 私は淫乱クソビッチなんでーす!! セックスしてくれる男大募集中でーす!!」
「俺も俺も!! 俺のこと犯してくれる男、待ってるぜ!!」
店内の時が止まる。
全員、ドン引きしていた。
ほんのり、ふたりの瞳が潤む。
ふたりにはある条件下で発動する催眠がかけられていた。
動画の内容を否定しようとすると、露出したうえで肯定してしまう催眠。
その際、ふたりの意識は完全に醒めている。
(な、なによこれ。私、なんで下脱いでるの!!)
(か、体が自由に動かねえ!! クソ!! 見るな、誰も俺を見るんじゃねえ!!)
永遠に解けることのない催眠。
ふたりの地獄は、まだ入り口に差し掛かっただけ。
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一旦催眠が解除されたあと、ユリネは逃げるように帰宅した。
いったい何がどうなっているのだ。
思い出せない。あのときのこと。あそこにいた人間のこと。
そもそもどうして、自分はあそこに……。
スマホからコウダイに電話をかける。
「コウダイ!! いったい私たちどうなってるの!!」
『うるせぇ!! いまお前に構ってる暇なんかないんだよ!! こ、こんなこと、近藤さんに知られたら、俺は、俺は……』
「ちょっ、さんざん抱かせてあげたじゃない。桑島さんとか宮野くんとか、コウダイの知り合いに頼んでどうにか…………ねえ、聞いてるの? コウダイ」
通話はとっくに切れていた。
あれだけ、あれだけ好き放題させてやったのに。
人に話せないようなプレイもしてやったのに。
ここぞの場面で容赦なく切り捨てやがった。
「そ、そうだ」
また電話をかける。
ユリネの身近な男で最も頼りになる男。
マジメで優しい男。
「ハク!? ちょ、ちょっといいかな」
『ユリネか』
「あのね、なんか私、変なの。なんだかーー」
『そうだ、言い忘れてた。今後はタルトのこと様をつけて敬えよ』
「へ? あ、はい。わかりました。これからはタルト様とお呼びします……あれ? 私、今何を……」
『じゃあな。時間通りに来いよ』
「待ってハク!! ハク!!」
またも一方的に通話が切られた。
「ユリネ」
母親が部屋に入ってくる。
真っ青な顔で、怯えた様子で。
「さ、さっき従兄弟のユウタくんから電話があったんだけど、ユ、ユリネが、いかがわしい動画にでてるって……」
親まで知ってしまった。
なんとかして誤魔化さなくてはならない。
母は女手一つで自分を育ててくれた尊敬すべき人。
何年もほとんど休まず働いてくれた母親を、悲しませてはいけない。
いけないのにーー。
「な、何言ってるのママ。私がそんな……」
否定はトリガーとなる。
「そうなのママー。私、実はね」
ガニ股になって、腰を卑猥に前後させる。
「ママが知らないところで男とセックスしまくってるのー!! 当然避妊なんてしてませーん!! 恨むなら自分の教育が悪かったと反省してくださーい!! ギャハハ!!」
「そ、そんな、ユリネ……」
(ち、違う。違くないけど、口が勝手に!!)
「お、落ち着いてママ。話を聞いて」
否定をすれば体が自由を失う。
ならば、否定しないで説得するしかない。
母が膝から崩れ落ちる。
どんなに仕事が辛くても、決して見せなかった涙をこぼした。
「どうして? どうしてなのユリネ。ママが家にいないから? 寂しい思いをさせたから? ママさえいれば言いって、言ってくれたのに」
「待って、待ってママ落ち着いて」
「誰かに騙されたんでしょ? そうだと言ってユリネ」
「だから私はーーーーあっ、行かなきゃ」
「へ?」
ユリネの瞳から光が消える。
午後14時になると発動する催眠が、あらかじめかけられていた。
「行ってきます、ママ」
「ど、どこに行くの!!」
「セックスしてお金を稼ぐのーっ!! ギャハハハ!!」
「ま、待ちなさいユリネ!! 待って!!」
事前にハクに指定されていたラブホテルへ、ユリネは急いだ。
(あれ、なんで私走ってるの。どこに行くの。誰か、誰か助けて!!)




