第17話 終焉の日④
場所が悪いよな。
郊外のさらに外れの高架下。
なのに意外と電車の往来が多い。
声を出しても、あまり気づかれないか。
「けっ、なにしに来たんだよ負け犬」
コウダイが吠えている。
ホームレスたちは……多数がビビって何人か倒れているな。
死んじゃいないだろうけど。
タルトもまだ無事。
今回ばかりはホロン様々だな。
仕方ない、あとで好きに体を触らせてやるか。
コウダイの周りの男たちが寄ってきた。
こいつらも七法印? 若いし、ただの不良っぽいが。
「ちょうどいいぜ、お前の眼の前で詩由を犯してやるよ!!」
不良どもが俺との間合い2mまで迫った。
まずはこのザコを蹴散らすか。
「お前ら!! そいつの足の骨を折っちまえ!!」
コウダイに従っているあたり、ただの烏合か。
ワハシュを起動し、画面を見せる。
【そこの川に飛び込んで海まで泳いでろ、鮭みたいにな】
男たちが服を来たまま冬の川に入水していく。
コウダイもユリネも、なにが起こったのかまるで理解できていないようだった。
「な、なにをしやがった、ハク……」
「コウダイ……。最後に一つだけ質問しておきたい。いまのお前に」
「は? は?」
「中一のとき、ふたりで全国目指そうぜって約束、あれは本心だったのか?」
「やく……そく……?」
「どうなんだよ」
「ほ、本心なわけねぇだろ!! 俺にとってサッカーは女にモテるためにやってただけに過ぎねえんだからよ!!」
そうか。
よかったよ、こっちの決心がブレそうになくて。
ここに来る前、少し実験をしてきた。
その成果を、披露してやる。
「コウダイ」
「う、うるせえんだよ負け犬!! 俺が直接ぶっ殺してやる!!」
拳を握って走ってくる。
スマホの画面を見せつけて、口を開く。
ようやく、ついに……。
【意思を残して、跪け】
コウダイが滑るように膝をついた。
「なっ、なんだ!? 体が勝手に!!」
そう、勝手に動いた。
催眠アプリを使うと、相手は意思すら失い従順なロボットになる。
だが、意思だけを残して肉体だけを操ることも可能だったのだ。
こっちの方がいいだろ? 罰を与えるならさ。
「次、ユリネ」
ユリネが身構えた。
「ハク、そ、それなに?」
「これ? あぁ、人の意思を奪って操るアプリさ。今からこれでお前の人生を終わらせる」
「は? 操る? 何言ってんの?」
「信じなくてもいいぜ。どっちみちお前はもう詰んでるんだから」
「…………」
ん、ユリネが逃げ出した。
アプリの真偽はともかく、マズイ状況であると察したのだろう。
あいつの友達であろう女子どもにワハシュを見せて、捕まえるよう命じる。
「ちょっ、離せ!! 離して!!」
「ほらな、こんなふうに、俺の命令に従うだけの人形になる」
「……そ、そんなに私が憎い? そうだよね、浮気したんだもんね!! だってハク、ぜんぜん男って感じしないんだもん!! イケメンだけどさ、ちんぽないんじゃないのってぐらいさぁ!!」
「じゃあ今後は金儲けのために俺専属のAV女優になってもらう」
「へ?」
「手始めに、そのへんのホームレスたちに抱かせてやるか。もちろん、避妊しないで」
「ま、待ってよ、さすがの私も相手を選ぶよ。びょ、病気になっちゃうよ」
おや、ようやくホロンがやってきたか。
トイレが我慢できないとかいってコンビニ探していたが。
「いやー、失敬失敬。で、ハクきゅん、いまどういう状況?」
「こういう状況だ」
「ふーん。それよりハクきゅん、タルトちゃんのピンチ教えてあげたんだから、見返りに私の指、めっちゃ舐めて!!」
「……あとでな」
「いーまー!!」
ちっ、めんどくさいやつだ。
ホロンの手を強引に掴み、指を舐めてやる。
何秒か咥えて、ぺっと吐き出す。
「うひー♡♡ もう二度と手を洗わにゃい♡♡」
ユリネが驚愕に目を見開いている。
そりゃそうか。
「な、なんで石狩ホロンが……」
「こいつは俺の協力者だ」
「え? な、なんで!? だってそいつもハクを裏切った女じゃん!!」
「どうでもいいだろ、お前には」
「どうして、どうしてそいつに奉仕して、私にはしないの!? ハクはただ一心不乱に私にだけ尽くしていればいいのに!! 人生のすべてを私に!!」
そうして欲しいなら浮気なんぞするなよ。
あぁそうか、まさかこいつ。
「俺に父親役をやってほしかったのか。どんなに落ちぶれた娘でも愛するような、娘想いの父親に」
「…………」
「コウダイらには父親の『男』の部分を、俺には親としての愛を求めていたわけか。俺の尊厳を踏みにじるのも、愛を試しているんだろうな」
「だ、だったらなに!? そっちだって片親じゃん!! コウダイから聞いたよ、ハクのママも借金抱えていろんな男とセックスしてるって。子供は親の愛を受けて育つって言うならさ、私たちは未完成の子供なんだよ。ハートが片っぽないんだよ。なら別の人で補うしかないじゃん!!」
「お前さ、なに他人のせいにしてんの?」
「え……」
「お前がクズなのも、浮気したのも、尻軽なのも、単純にお前の人間性が終わってるからだぞ。環境のせいじゃない」
ユリネの相好がみるみる赤くなっていく。
醜いほどの怒気を宿し、俺を睨む。
「知ったふうな口聞いてんじゃねえよインポ野郎!! どうせ粗チンの種ナシなんだろカスが!! お前なんかどうせ誰からも愛されないんだよ!! だって男として終わってんだもんな!!」
さて、もう一つ実験の成果をお見せしよう。
ワハシュの紫色の画面をユリネに向ける。
「ま、待て、待って!!」
【意思はそのままに思考と肉体は俺の指示通り動くビッチになれ】
ユリネの目の色が変わる。
「はい!! なんなりとお申し付けくださ〜い!! どんなおっさんだろうとデブだろうと浮浪者だろうと動物だろうと、誰とでもセックスしちゃいまーす!! えへへ!!」
まさにビッチにふさわしい言動。
でも、頭のなかにある意識はユリネのままだ。
さっきは意思だけ残して肉体だけを操ったが、今度は思考や言語まで操作した。
つまり、今後ユリネは自分の意思に反したセリフを吐き、行動するわけだ。
続いてホームレスたちにも催眠をかける。
男ばかりでちょうどいい。
「じゃあユリネ、こいつらとセックスしろ」
「はーい!! ホームレスのみなさ〜ん!! 現役女子高生ユリネちゃんをバンバンに犯しちゃって妊娠させてくださ〜い!! 責任なんて取らなくても大丈夫です。だって私、クソビッチだから!!」
「お、いいなそれ。待て、動画回す。このままAV撮影に入るから、さっきのもう一回頼むわ」
スマホのカメラを向ける。
うーん、暗い。女性のホームレスたちに懐中電灯を用意するよう命令する。
よかった、各々持っていたみたいだ。
「お前も照らすか? タルト」
「へ……」
「見たくないか? ユリネたちの人生が終わる様」
呆けたまま、タルトが頷く。
放っておいていたけど、状況についていけているのだろうか。
「わたしが、撮りたい」
「いいだろう。……あとホームレスたち、悪いがコウダイも犯してくれ」
コウダイが青ざめる。
「や、やめろハク!! 悪かった、俺が悪かった!! 謝るから許してくれ!!」
「撮影した動画は編集して裏AVとして販売する。が、一部は切り取ってネットに拡散してやろう。安心しろ、ホームレスたちにはモザイク入れる」
「勘弁してくれ!! な? お、俺たち友達だっただろ? 何でもするから!!」
「本当なら、ちゃんとしたキレイなホテルで撮影してやるつもりだったのだが、仕方がないよな」
「ハク……」
「ここで起きたことは記憶に残らない。俺と話したことも、ワハシュのことも、すべて忘れる。残るのは、結果だけだ」
「やだーーーっ!!!! 助けてくれーーーーっ!!!!」
撮影を開始する。
はたしていくらになるのだろうか。
せめてこいつらだけで100万は稼ぎたいが。
後ろからホロンが抱きついてきた。
「ついにやったねハクきゅん♡♡ ハクきゅんが幸せになるためのとても大きな一歩だよ」
「一応、感謝しておく。お前のおかげだ」
「んんんんんんっっっっ♡♡♡♡ ハクきゅん好き。大好き」
「いい加減離れろ」
「ねぇ、ハクきゅん」
「あ?」
「実はね、どのヒロインにも寝取られ回避ルートが存在するの。まぁ二周目特典だから今は関係ないんだけど」
「二周目?」
「そこではね、タルトちゃんがユリネちゃんの誤解を解いて、仲直りして、ふたりでハクきゅんと仲良くイチャイチャするの」
「で?」
「そんだけ。そういう未来もあったかもね、っていう話し」
「あっそ」
ユリネを犯させる。
自分の名前や友人、教師の悪口を喋らせながら、笑顔を浮かべさせる。
自分の手で自分の人生を終わらせ続ける。
それをじっと撮影するタルトの頬は、美しく歪んでいた。




