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第16話 終焉の日③

※今回はユリネの一人称です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 男に飢えていた。

 と表現するのはやや語弊がある。


 私は一人っ子で、親と呼べる存在は母さんしか知らない。

 小さい頃に離婚したらしい。


 父親というものを、私は知らない。


 だから友達の家に行ったり、授業参観で知らない大人の男性と会うとギョッとした。

 成人男性だからじゃない。『父親』だからだ。

 誰だって、知らないものには警戒する。



 でもそれは裏を返せば、知らないから興味がわく。


 中学の頃、私には詩由ちゃんという友達がいた。

 普通の家庭、頭の良い兄を持つそこそこ可愛い女の子。

 ある日その子に、私が片親であることを嘲笑われた。


 本人にその気はなかったんだろうけど、関係ない。

 あいつは私を嘲笑った。




 だから知りたくなった。

 父親を。男を。


 高校生になってすぐ、私は運命的な出会いを果たした。

 真月ハク。同じバイト先の男の子。

 イケメンで真面目で、どことなく闇を感じる男子。

 妹がいるみたいで、だからかな、年上みたいに私を接してくれて、守ってくれる。


 好き。


 何としても私のものにしたくなった。

 だから……。


「詩由ちゃん、石狩さんにイジメられても私が守ってあげるよ。安心して」


「あっ……うぅ……」


 私を嘲笑った女を利用した。

 イジメられっ子に手を差し伸べる天使。

 女子からの人望も、ハクからの好感度も、みるみる上がった。


 罪悪感はあった。

 このときにはホームレスにまで落ちぶれていた詩由を、ちゃんと助けてやろうかと迷ったりもした。


 でも、あのときの嘲笑を思い出すと、どうにも……。




 念願叶って、私は真月ハクの彼女になった。

 幸せだった。私を特別扱いしてくれる、カッコいい王子様。

 恋愛のドキドキも、不安も、はじめて体験した。


 でも、物足りない。

 もっと知りたい。男を。


 ハクは性的なことには鈍感というか、真面目すぎるというか。

 そういう意味でいうと、ハクの友達のコウダイは……。


 そんなとき、私は彼に出会った。

 彼は、友達の彼氏の友人だった。


「はは、一人っ子でシングルマザーなんだ。通りでしっかりしていると思ったよ」


「そ、そうですか?」


「彼氏はどんな人なの? 教えてよ。……あぁ、俺? 俺はね、みんなからはコンドウって呼ばれてる」






 慣れている男は本当に上手い。

 こちらの心理を完全に把握して、話術と仕草で流れるように裸にする。


 彼氏でもない男とシタ。

 私のなかで、これまで培った倫理観や道徳心が、ひっくり返したパズルのように崩れ落ちた。


 最高だった。母さんを恨んだ。

 こんな素晴らしい生き物を私から遠ざけたなんて。


 他の男ともシタ。

 みんなそれぞれ、違いがあった。


 やがて、コウダイのセフレになった。

 激しくて乱暴で、自分勝手なセックスしかできないけど、だからこそバカになれた。


 酒を飲んだ。

 タバコも吸った。

 ぶっちゃけクスリにも興味がある。


 それから同じ中学の連中と詩由の小屋を荒らすのが趣味になってきた。

 あのときの復讐、みたいな?

 罪悪感なんかないよ。だってこいつカスだもん。


 変わっていく。

 私の人生が、心が。


 でもね、ハク。

 私はちゃんとハクが好きなままだよ。


 男に尽くすのも最高だけど、男に尽くされるのも好き。

 とくにハクみたいな真面目でカッコいい男に、人生がぐちゃぐちゃになってまで尽くされたら幸福で死んじゃう。


 コウダイの浮気バラシに付き合ってやったのも、それが理由。

 もっと幸せになりたい。もっと男で悦びを得たい。






「だからね詩由ちゃん、詩由ちゃんもハクを裏切ってほしいの」


 私の友達が小汚い小屋を燃やす。

 コウダイやその知り合いが、ホームレスをボコってる。


「や、やめてください……」


「私ね、浮気賛成派なの。別にハクが他の女に腰振ってもいいの。でもね、最終的にはハクの精神をぶっ壊してほしい。ハクをね、洗脳したいの。惨めに私のために尽くすことが唯一の快楽だって、教育してやりたいの」


 泣いている。

 詩由が泣いてる。


 落ちぶれたな、こいつも。


 でもね、お前じゃない。

 私と共に堕ちてほしいのは、お前じゃない。


「おいユリネ、見ろよこいつ」


 コウダイが黒猫の首根っこを掴んで戻ってきた。


「メカゴジラ!!」


 詩由が叫ぶ。

 変な名前だ。


「詩由さんよぉ、俺はちょうどお前みたいな、消えても誰も困らない女を捜してたんだよ。近藤さんに献上すれば、俺も組織でデカい顔できるからな。なぁ〜に、クスリ漬けにして何本かAV撮ったあと、永遠の海外旅行に出てもらうだけだ」


「か、返してください!!」


「心配すんなよ、ブスなら一年もたねえが、お前は割といい顔しているから、そこそこ長生きできるぜ」


「やめてください、お願いします。みんなを、そのネコを……」


 たかがホームレスやネコ如きで大げさな。


「じゃあ選択しろよ。てめぇが地獄に落ちるか、いますぐこのクソネコをぶっ殺すか!! カカカ、殺す前にネコにじっくり言い聞かせてやるよ。お前は主人に見捨てられたんだぞってなあ!!」


「…………連れてって」


「はぁ?」


「わたしをどこにでもいいから、連れてって!!」


「ケケ、いいぜ。楽しみだな〜、こいつのキメセク動画をハクの野郎に見せつけるの。おい詩由、ハクよりもセックスとおクスリが好き〜って言わせてやるからセリフの練習しとけよ」


「くっ……」


 ふふ、私も楽しみになってきた。

 ハクの眼の前で、コウダイに抱かれたら、どんな顔するんだろう。

 せっかくだから詩由や妹も混ぜてあげよう。ハク、きっと泣き出しちゃうかも。


 早くみたいな、ハクの泣き顔。


「しかし詩由さんよ、ひとつ勘違いしてるぜ?」


「へ?」


「最初からお前に選択権なんかねぇんだよ。お前は拉致る。ネコは殺す」


「やっ!!」


「火で炙ったあと川で溺死させてやるよぉ!!」

















「もう暗いんだから火の扱いには気をつけろよ、コウダイ」


 声がした。

 ここにいるはずのない男の声。

 真月ハクの声。


「悪いタルト、遅れた」


「な、なんで……」


「あ〜、実はとある女にお前を監視させててな。まぁいいや。……さて、こうなっちまったら予定は前倒しだな」


 コウダイが、不良共が彼を見る。

 彼も私たちを見渡す。

 私には冷めた視線を送るくせに、詩由には慈しむような眼差しを向ける。


「ユリネ、コウダイ。いよいよお前ら潰すわ。いま、ここで」

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