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第15話 終焉の日②

「あれぇ? ハク、浮気?」


 背後からユリネに声をかけられた。

 どうしてこいつがここに……。

 いや、おかしくはない。今は夕方、そして今日はこいつ、バイトの日だ。

 珍しくシフト通りにバイトするってのか。


「もしかしてと思ったら、ハクと……え、なんで詩由ちゃんがいるの?」


 詩由が俺の後ろに隠れる。


「そっかー、ハクが浮気かぁ。なんかショック」


「違う。だとしてもお前に言われたくない」


「はは、そうだね。別にいいよ、ハクが浮気していても。男を磨いてくれたほうが、もっと好きになれるもん」


 こいつ、意外とホロンと気が合うんじゃないか?


「でもさー。女は選んだ方がいいよ」


 詩由が俺の裾を引っ張る。

 緊張しているのか。恐怖しているのか。


「詩由ちゃん、お前はさー、踏み台にされる側であって踏み台にする側じゃないの」


 深く、暗く、重たい声で、俺の後ろにいる少女に語りかける。


「私の浮気を知って、ハクを慰めて手に入れようとしてる? 身の程知らずだね」


「ユリネちゃん……中学までは、普通に友達してくれたのに」


「はぁ? 言っとくけど先に喧嘩売ってきたのそっちだからね。私が片親だってことを笑ったあのときから、私にとってあんたは……」


「笑ったつもりはなかったのに」


 こりゃ水掛け論になるな。


「お前は永遠に私のおもちゃ。そして私を引き立てるための道具。これからも石狩ホロンにイジメられててよ。私生徒会長になって内申点稼ぎたいからさ、たくさんあんたを助けないと」


「…………」


「返事は?」


「…………」


「こいつ……」


 ユリネが拳を握った。

 マズいな。

 反射的にユリネの腕を掴む。


「それはダメだろ」


「ははっ、ハクそういう無駄に正義感強いとこ、かっこよくて好きだよ」


「そうかい」


「本当なのに。前にも言ったじゃん。体はコウダイのものだけど、心は今でもハクが好きだって」


 ユリネが俺に抱きついてきた。

 俺を裏切ったクズからの優しい抱擁。

 これほど鳥肌が立つとはね。


「ハクだって、私が忘れられないんでしょ? 相思相愛なんだよ。ハクは寝取られマゾとしてこれからも私に尽くすの。私で脳みそぐちゃぐちゃにされるの。そして私とコウダイの子供を育てるの。あぁ〜、イケメンを手懐けて人生ぶっ壊すのたまんない」


 俺の周りにはこんなのしかいないのか。


「だから、余計な泥棒猫が入ってくるとクソ萎えるな〜。バイト行く気失せちゃう」


「ちゃんと行けよ。店長、そろそろキレるぞ」


「くくく、そうだね。ばいばい」


 ユリネがバイト先へ向かう。

 あいつ、まだ俺に好かれていると思い込んで調子に乗っているな。

 処刑日の土曜まであと1日。せいぜい良い気になってろクソビッチ。


「ほら、行こうぜタルト」








 タルトの住まいは土手の高架下にあった。

 いくつかの段ボールハウスの中に、住処があった。

 どうやら浮浪者たちの集合住宅地らしい。


 こんなところに若い女の子一人で大丈夫なのかよと心配になるが、みんなヨボヨボのおじいちゃんおばあちゃんばかりで、優しくしてくれるのだとか。


 タルトの家は二畳ほどの広さがあった。

 カセットコンロに太陽光を利用した小さな発電機。

 おいおい、野良猫も飼っているのか。


「これが家族」


「名前は?」


「メガゴジラ。雄の三毛猫。我が家の守護神」


 そう紹介してくれたタルトの顔には、安らぎが宿っていた。

 いくらにおっても、ホームレスでも、ネコはタルトをイジメないし差別しない。

 そりゃあタルトの精神を支える守護神であろう。


「ホロンはもう安心していいけどよ、ユリネからなにかされたら、言ってくれよ。できるだけのことはする」


「……ありがとう」


「つっても、もうじきーー」


「?」


「なんでもない。前にも言ったが、ガチで恨んでるなら俺がやってやるから。ユリネへの復讐」


 メカゴジラに手を差し伸べる。

 ザラザラの舌で俺の指を舐めてきた。

 人懐っこいやつだ。背中を撫でてやろう。


「やっぱり、ハクの妹はわたしや石狩さんに嫉妬していたと思う」


「どうかなー」


「してた。わたしなら、する」


「ははっ、遠回しな告白か?」


「ぬぅ……」


 おいおい、顔を赤らめるな。

 変に意識しちゃうだろうが。

 お前はどうだか知らないが、少なくとも俺はタルトのことよく知らんのだから、距離間に困る。


「サッカー、もうできないの?」


「は? なんで俺がサッカーやってたの知ってんだよ。中学違うだろ?」


「ハクの中学、土手で練習してた」


 土手沿いにある学校だったからな。


「犬の散歩コースで、よく見てた」


 だからって、よくもまぁ俺のこと覚えていたな。

 割とサッカーじゃ有名な学校だったし、自慢じゃないがフォワードで点取り屋だったから、目立っていたかもしれないが。


「か、か、かっこよかった、と、思う」


「悪いがサッカーはもうできない。お前が憧れた真月ハクは、もういない」


 瞬間、どこからか悪寒がした。

 周囲を見渡す。


 ユリネがいたような気がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※ここから三人称です。




 ハクが帰ったあと、タルトは他のホームレスたちと共に空き缶を潰していた。

 おおよそ1kg分を業者に渡せば、200円は手に入る。

 普通、浮浪者たちは自分の利益だけを独占したがるが、この高架下のルールは共生・協力。

 男も女も年齢も過去も関係なく、みんなで助け合い平等に利益を得ることを心情としている。


 なので案外、行き場を失った30代や40代も多い。


「タルトちゃん、さっきの男の子、彼氏かい?」


 仲の良いおばあさんが話しかけてきた。


「あ、いや……」


「なかなか美男子じゃないか。寂しいねえ、結婚したらタルトちゃん、いなくなっちゃう」


「そ、そんな……違う……」


 と否定しつつも、まんざらでもないタルトであった。

 中学時代はただ見ているだけの存在。

 同じ高校に入学していた奇跡は起これど、それだけ。

 それだけのはずだったのに……。


 タルトの指をメカゴジラが舐める。


 育ての親から見捨てられて、意地でも独りで生きていくと決めてから、女であることは捨てたつもりだった。

 なのにいま、タルトは喉から手が出るほどに鏡が欲しくなっていた。


 意外とどこにも落ちていない。

 ここの住人は誰も持っていない。


 もう少し、ほんの少しだけでいいから、ハクに気に入られたい。

 ホロンやユリネのような美女になれたなら……。


「お、おいまた来たぞ!!」


 おじいさんが遠くを指差す。

 近づいてくる。よその高校の連中と、


「また会ったねー、詩由ちゃん。結局バイトサボっちゃった」


「ユ、ユリネちゃん……」


 だけじゃない。

 いつもより数が多い。

 普段はユリネと同じ中学の女子だけだったのに、今日は男子が多い。


「ハクのやつ、こんな不潔な女に手を出しているのかよ」


「コウダイが浮気のことバラすから、頭おかしくなっちゃんだよ」


「カカカ、なら友達として、病原菌は排除してやらないとな」


 ホームレスたちはたじろぐばかりで、なにもできない。

 警察に通報する手段など持っていない。

 逃げる体力もない。


 叫んだらおそらく、真っ先にやられる。


「俺はよぉ、ハクに生まれたことを後悔してほしいんだよなぁ。人間として、男として俺に完全に負けていることを認めさせて、屈服させてえんだよ。俺とユリネの……いや、俺とミコちゃんの子供をあいつに育てさせるのが最終的な目標な」


 一歩、一歩タルトに接近する。


「そのためにも、あいつの心の拠り所はぶっ壊さねえと」

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