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第13話 タルトとユリネ

 須郷……コウダイか?

 どうしてコウダイが? 家に来たとき、ということは、まだ詩由がホームレスをする前か。


「何人かの男と一緒に。パパが、若い女に騙されて、えっちなことして、それを脅しに金を奪っていった。それから家族関係が悪くなって、わたしのことも邪険に扱うようになっていった。血の繋がっていない娘なんかに構ってられないって」


 おそらく美人局か。

 たぶん、コウダイは下っ端として取り立てに参加したのだろう。


「頼れる友達はいなかったのか」


「昔は、ユリネちゃんが友達だった。同じ中学で」


 ユリネが?

 あいつはいつもイジメられているタルトを助けていた。

 あんなクズになっちまったが、相談すればたぶん……。


「でも、いまは違う。いまのユリネちゃんは、良い人アピールするために、わたしを助けるだけ。いつも石狩さんを止めるフリ。だって、石狩さんがわたしをイジメなくなったら、善良な人間を演じる機会がなくなるから」


 なるほど。

 俺はユリネの優しくて度胸のあるところが好きだった。

 でもそれすら演技だったんだ。


 あいつは人からどう見られるかを過剰なまでに意識している。

 そのうえ淡麗な顔立ち。そりゃあ女子連中のトップに立つさ。


「わたしにとっては、ユリネちゃんが一番怖い」


「そうか?」


「だって……SNSで……」


 詩由が泣き出す。

 なんだ? SNS? 俺はやってないから知らないぞ。


 代わりにホロンが見せてくれた。

 SNS、というかショート動画専門の動画アプリか。


「これは……」


 段ボールとブルーシートの家にいる、詩由の動画か。

 本人は顔を隠しているが、嫌々撮影されているのか。


「ユリネちゃんは、学校外の友達と私の住処に来ては、動画を撮る」


 そうみたいだな。

 水や液体洗剤をかけられたり、家を破壊されたり、物を盗んだり。

 小賢しいのが加害者連中は一切顔が映らないようにしているところ。


 コメント欄も地獄だ。

 数は少ないが、もっと詩由をイジメるよう煽っている。


 見たいんだ、人が傷つく様を。


「怖い。世界中が私のこと笑っている気がして。それでもパパもママも、助けてくれない」


「だったら変な意地を張らずに誰かに……」


 いや、違う。

 だからこそ頼れないんだ。

 世界から孤立しているような感覚。泣きついた先でも裏切られ、笑われるんじゃないかという恐怖。


 すべてが、敵に思えてくるんだ。







「これもある意味、ハクきゅんのせいかもね」


 ホロンが耳打ちしてきた。


「ハクきゅんという存在がユリネを堕落の道へと誘い、詩由ちゃんまで……」


「どっちかといえばコウダイのせいだろ」


「ふふふ、そうかもね」


 それとユリネ自身の性格の問題だ。


 コウダイと共に家庭を崩壊させ、そのあとも見世物にして嘲笑っている。

 自分が強者だと思いこんでいるクズ女。必ず潰す。

 そしてコウダイもろとも、金儲けのための駒にしてやるよ。


「七法印については、コウダイが喋ったってことしか知らないのか?」


「うん」


 じゃあ、どうしてこいつには催眠がかけられている。

 そもそもどういう催眠なんだ? 俺を騙すために誰かが……。

 考えすぎか。そもそも、俺が詩由と繋がりを持つと誰が予想できた。


 仮に俺を騙すなら、最初から俺やミコを狙うほうが効率的だと思うが。


 あとでホロンにキスでもしてやって、調べさせるか。


「それより、詩由」


「タルトでいい。名字は好きじゃない」


「そうか、じゃあ俺のこともハクでいいぞ。それでタルト、お前、ユリネやコウダイに一泡吹かせたいか?」


「へ?」


「どうなんだ」


 タルトが視線を落とした。

 肩を震わせ、くしゃみをする。

 寒いんじゃないかよ。


「復讐したら、やり返される」


「俺に任せろ、されやしない」


「無理だよ、怖いよ」


 当然の反応か。

 そりゃあ復讐はしたい。一矢報いてやりたい。

 けどそのあとの報復が怖い。


 当たり前の心理だ。


「連絡先を交換しておこう。なにかあれば電話しろ」


「……あなた本当に、わたしと友達になりたいだけ?」


「ん? あぁ」


「そこの人も?」


 ホロンに視線をやる。

 さすがに怪しすぎるか。

 自分をイジめてる女を引き連れているんだもんな。


「ホロン、タルトと仲良くしろよ」


「んー? まぁいいよ。タルトちゃんのキャラは嫌いじゃないし」


 ホロンがタルトに握手を求めた。


「これまでごめんねー。心を入れ替えたからさ、仲直りしよ」


「……」


 実際本当に入れ替えたわけだが。


「都合の良い人」


「あはん♡♡ じゃあ私とは仲良くしなくてもいいからハクきゅんのことは崇拝してね」


「え……」


 余計怪しまれるだろうがこのアホ。










「ただいまー。あれ、兄さん、帰っているんですか?」


 なっ、ミコの声!?

 帰ってきたのか!?

 何故、まだ昼過ぎだろ。授業はどうした。


「知らない靴、お客さんがいる……の……」


 ミコがふたりと顔を合わせた。

 合わせてしまった。

 くそっ、ホロンだけならまだしも、タルトはマズイ。バスタオル一枚だけの女なんだぞこいつは!!


「お、おかえりミコ。ずいぶん早かったな」


「……今日は終業式ですので」


「そ、そっか。俺はまだ先なんだ。俺も早く冬休みに入りたいよ」


「え、この状況を流すつもりですか兄さん」


「…………」


「えっと兄さん、うーんと、まず一つ質問なんですけど、どっちがユリネさんなんですか?」


 ここはホロンにユリネを演じてもらうか。

 まて、ホロンのやつニヤニヤしている。

 あとで見返りを求めてる顔だ。


 ならばタルトか。


 目配せしてみる。

 おーいこっちを向け。なにぼーっとミコを見つめているんだ裸族。


「こ、こっちがユリネだよ」


「はえ? わたし?」


 察しろ合わせろ演じろ!!

 ミコのやつ、じとーっと俺を睨んでる。


「こちらは……。もう一人の方って兄さんの元カノさんでしたよね。確か」


「そだよー。そっかー、一応面識はあるのかー。石狩ホロンだよん♡♡ ミコちゃん」


「私の兄さんをフッて別の男に乗り換えたとか」


「でもでもー、ハクきゅんしか勝たんと思って〜、崇拝することにしたの♡♡」


「崇拝!? ハクきゅん!?」


 もう黙ってろお前は!!


「わたしも、崇拝しろって言われた」


「そっちの人も!? に、兄さん!? え、なんですかこれ……?」


 頼むから全員一度黙ってくれ。

 頭が痛くなってきた。


「ミコ、ホロンは人をおちょくるのが好きなんだ。間に受けない方がいい」


「そ、そうなのですか? いやでもなんでそっちの方、バスタオルだけで……兄さんって、私の知らないところではそういう感じなのですか?」


 どういう感じだ。


「私が受験で大変なときに……」


「やましいことなんかしていない。いろいろあってタルトに風呂を貸してやっただけだ」


「タルト? 名前呼び?」


「本人の希望だ」


「ふーん」


 うわ、信じてないじゃん。


「では私もシャワー浴びるので。……子供ができちゃっただけはやめてくださいね」


「できちゃわないから安心しろ」


 ミコが洗面所へ消えていく。

 さて、こいつら、なんと怒鳴ってやるべきか。


「ハク」


「なんだよ」


「わたし一応仏教を信仰しているから、改宗はできない」


「もういいってそれは……」

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