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第12話 タルトちゃんに接近

「あいつ……」


 ボサボサ髪の子。確か名前はーー。


「詩由タルトちゃんだね。近藤に接近するのに最も適したヒロイン」


 アプリがあればいくらでも近藤へと繋がるルートを作れそうだが。

 一応、話しかけてみるか。


 立ち上がり、詩由に近づく。

 こっちを向いた。前髪で瞳が隠れている。


「よお」


「…………」


「詩由さん、だよね。俺は2組の真月まがつ


「な、なんですか」


 どことなく震えた声。

 俺に怯えているというよりは……俺の後ろにいるホロンにか。

 そうだよな、以前のホロンはこの子をイジメていたわけだし。


 さて、催眠をかけて情報を引き出すか。


「ん?」


 詩由が食べている弁当を一瞥する。

 手作り弁当。しかもだいぶ凝ってる。

 飲み物は水筒。たぶん水出しのお茶。


 用意してくれる親がいるのか? なのにどうして体が不潔なんだ。


「風呂入らないのか? 制服をクリーニングに出したりさ」


「……お風呂、ない」


 ないってなんだ。

 風呂がない家なんか、ないだろ。

 水道が止められている? それともーー。


「まぁいい」


 ハワシュを起動する。


【七法印って知ってるか? 近藤という名前に聞き覚えは? 正直に答えろ】


「…………」


「おい、知っているのか知らないのか答えてくれ」


「なんですか、その紫色の画面。ゲーム?」


「なっ!?」


 効いていない?

 前髪で目が隠れているからか? いやその程度じゃ防げないはず。

 ならば何故?


 相川のときのようにこのスマホに触れているわけじゃないのに……。


「ちっ」


 強引に接近し、髪をかきあげる。

 丸くてキレイな瞳。ちゃんと裸眼だ。


 じゃあ、なんでーー。

 こいつ、何者だ。


「あ、あの……」


「す、すまん。忘れてくれ」


 ホロンを見やる。

 この女、ニヤニヤしてやがる。理由を知っているな。


 どうする。原因はなんだ。知らないままこの場を去るわけにはいかない。


「その、なんだ、これはゲームの画面でさ。君もやっているって誤解しちゃったんだ。フレンド増やしたくてさ、つい」


「は、はぁ……」


 この女には秘密がある。

 それを確かめないと。

 なんでもいい、会話を続けてヒントを得たい。


「お風呂がないってどういうこと? 家にないの?」


 躊躇いがちに、詩由が答える。


「家が、ないから」


「は?」


「橋の下に、ブルーシートと段ボールで作った小屋があって、そこに住んでる。キッチンみたいなものはあるし、電気もあるけど、お風呂はない」


 ホームレスなのか?

 どっかから電気を盗んで暮らしている? もしくはホームセンターで買った発電機でも使っているのか。


「家がないって、なんで……」


「私は実の娘じゃないから」


「…………」


「奴隷みたいに扱われるくらいなら、一人で生きる。でも、寂しくない。兄さんがお金とか食べ物とか持ってきてくれるから。お風呂や洗濯だって、たまにできる」


 実の子じゃない。

 奴隷みたいに扱われたくない。


 母さんモドキのことを思い出す。

 あいつは俺を、金を生む奴隷のように扱った。

 この子も、俺と同じーー。


「お兄さんとふたりで暮らすとか」


「足を引っ張りたくない。兄さんは、大事な大学受験の時期だから。それに、過度な施しは、逆に傷つく。私はーー弱くない」


 なるほど、意外とプライドが高いんだ。

 だからホームレスになってまで一人で生き抜こうとしている。

 児相だとか親戚に助けを求めちゃいないんだろう。


 でも、いまのエピソードでこいつが催眠に掛からない理由が判明したわけじゃない。


「せっかくだ、俺の家に来いよ」


「え」


「シャワー浴びてけ。洗濯もしてやる」


「いらない。施しは……」


「施しじゃない。アプローチだ」


「へ?」


 ここで少し頬を赤らめる感じてっと。


「素顔を見て、もったいないと思った。一目惚れってわけじゃないけど、なにかしてあげたいと思ったんだ。それで、少しでも仲良くなれたら、嬉しい」


「……」


「別に恋人になりたいとかじゃない。いや、どうなのかな。実は彼女に浮気されてさ、友達や親からも裏切られ、クラスメートからも侮蔑されてる。孤独なんだ。だから、こんなホロンとメシ食ってる。……ほしいんだ、新しい友達が」


「……」


「大丈夫。なにもしない。てか家に母さんいるし」


 詩由は視線を落とすと、


「うん」


 と頷いた。

 なるほど、どうやら俺は本当にモテるらしい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 いま、俺の家で詩由がシャワーを浴びている。

 昼に抜け出して帰宅しているから、もちろん妹はまだいない。

 母さんはいるが、寝室で待機するよう命じておいた。


「で、ホロン。どういうことだ。なんで催眠が効かないやつがいる」


「教えて欲しいなら〜」


「ちっ、ていうか、このアプリを開発したのは誰だ」


「中田っていう隣のクラスの男子」


「あいつか。そういえばパソコンに詳しいとか抜かしていたな。じゃあ中田を連れてきて洗脳させてすべてをーー」


「あっ……」


「なんだ」


「ごっめ〜ん。アプリ奪うとき、中田くんからアプリの記憶消しちゃった」


 このバカ女が……。

 いつか絶対ぶん殴って泣かせてやる。

 まさか、見返り目当てでアプリについて知っている人間を排除したのか?


「うーん、じゃあ今回ばかりはタダで教えてあげる。中田くんからいろいろ聞いてるから」


 なんだ、そういうわけじゃないのか。


「催眠アプリ『ワハシュ』の効果が切れるには、いくつか条件がある。命令を完遂するか、そのスマホに触ってしまうか」


「そもそも効かない理由は?」


「催眠は速いものがちなんだよ。つまり詩由タルトちゃんは」


「すでに催眠をかけられている?」


「そういうことになるね」


「なら犯人はお前しかいないだろう」


「わかんないよ〜? ただのオタクである中田くんが催眠アプリなんて作れちゃう世の中なんだもん」


 お願いだからお前のせいであってほしいよ。

 俺たち以外にも催眠アプリを所持しているなんてゾッとする。

 ホロンが曰く、詩由は近藤と繋がりがある。

 まさか近藤が催眠アプリを持っているなんてことは、やめてほしい。


「まさか詩由に嫉妬して、俺への嫌がらせで」


「違うよ〜ん。私はハクきゅんに神になってほしいんだもん。ハクきゅんを好きになってくれる人が増えるのは嬉しい」


「あっそ」


 洗面所の扉が空いた。

 あっ、ドライヤー貸してやらないとな……って。


「うわっ!! なんでお前裸なんだよ!!」


 詩由がチラリと俺を見る。

 一応手で貧相な胸や局部は隠しているが、全裸。

 容赦なく全裸。肌色一辺倒。


 ちゃんと着替えの服は用意してやったはずだろ。


 詩由がもじもじと恥ずかしそうに振る舞う。


「あんまり、見ないでほしい」


「なら着ろよ!!」


「お風呂上がりは裸。こっちのが効率がいい。湯冷めするの遅いから、汗で服が湿って風邪を引く」


「冬のクソ寒い時期によくもまぁ。……とりあえずタオルを巻いといてくれ」


 バスタオルをもう一枚用意してやる。

 プライドが高いうえに天然らしい、この女。

 こんなのと仲良くしろって? 勘弁してくれ。


「サッパリした」


「そう」


「サッパリついでに、教える」


「なにを?」


「七法印ってやつ。聞いたことある」


「……」


「須郷くんが家に来たとき、その名前を口にした」



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