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第8話 ありえんほどにエイリアン ⑧

 ――。


 ぱちくり、と。


 目を開くとそこには、珍獣でも見るかのような目で突っ立っているネオ委員長の姿があった。


「……ん」


(――馬鹿、な)

「ん?」


 お?


(――俺は、肉体の主導権を完全に娘に奪い返されてしまったようだ……)

「ちょ。脳内に直接話しかけるのやめてよ。キンキンする。耳」


 どうやら私は、肉体の主導権を奪い返すことに成功したようだ。


 私は、再びゲトガーに操られてしまわないように、脳を掻き回しながら委員長もとい、ルドヴィグに向き直った。ぐちゅぐちゅと、いい音がする。これが骨伝導ってやつ? 知らんけど。


 ルドヴィグは、私の首の辺りを見て。

「そんな、 寄生紋(パロテクト)が……首に……? どうしてだ……?」

「え。なに?」


 遅れて私も自分の首を見る。しかし、自分の目で首を見ることは不可能だった。

 だから私は、右手で脳を弄りながら左手でスマホを取り出し、その場で自撮りをしてみた。いえい。


 するとそこには、首の辺りに牙の模様が映った私の姿が存在していた。

 サメの歯のようなギザギザのそれは、私の首をぐるっと一周しているようだった。初めはただの牙の模様かと思ったが、触ってみるとそれは本物の牙のようだ。


「触るな小娘! 指を食いちぎるぞ!」


 途端、私の首の牙が大きく口を開け、言葉を発した。ゲトガーの声だ。


「……ぷ。ふふ。どうやら寄生には失敗したようだね。ゲトガー」


 ぐちぐちと、脳を刺しながら笑う私。あ、もう脳を壊す必要はないのかな?


「……この、イカれ女が!」

「あ、よく言われすぎてもう飽きてるからさ。次からは違う語彙でヨロシク」

「死ね!」


 ひとまず、私は脳からボールペンを抜き取った。ぬちりと、血と脳と肉が付いた赤い糸が軌跡を描く。


 それにしても。さっきルドヴィグのやつ、パロテクトとか言ったか?


 恐らくそれは、寄生の証明なのだろう。こいつらエイリアンが人間に寄生をすることに成功すると、委員長みたいに頭のどこかにわかりやすく模様や物体が出現するんだろうな。


 しかし、ゲトガーは私の寄生に失敗し、脳を支配できなかった。だから、パロテクトが首に出現した。というところだろうか。


 やべ。今の私めっちゃ冴えてね? 脳を半分くらい溢してるからかな? ……って、なんで脳がない方が冴えるんだよ! 失礼な!


「ゲトガー。頭の再生よろしく」

「誰がするか」

「私が死ぬと、君も死ぬんでしょ? 君たちはたぶん。他の星では、その星の生き物に寄生しないと長く生きていけないんだよね? だから、必死に私の体を治そうとしてくれたんだよね? 私の前でぺらぺらと話しすぎたね」


 私は、ゲトガーとルドヴィグの会話と行動から、ある程度こいつらの生態に当たりを付けた。


 こいつらは、地球探索のために私たちの体を奪おうとした。そして私は、殺してしまっては寄生できないことと、脳を傷つければ寄生できないことを知った。

 だから私は、意識を失う前に脳を傷つけて意識を保ち、ゲトガーから体の主導権を取り返すことに成功したのだ。


「ほら。はやく治す」

「……」

「死にたくなければ治せ。エイリアン」

「……ちッ」


 ゲトガーは、側頭部の傷を治してくれた。話したり傷を治したり、ゲトガーはある程度は自分の意思で動けるようだ。


 その場で伸びをし、全身の主導権が戻っていることを確認してから、言う。


「ねえ。ゲトガー。お願いがあるんだけど」

 私は、ルドヴィグそっちのけで話を進めた。

「俺に話しかけるな……ぃ痛たたたたた!」

 私は、自分の首を全力で殴った。ゲトガーの牙が折れる勢いで殴った。

「ふーん。やっぱここ弱いんだ?」

「おま、え、も……! 痛いはずだろ! なんなんだよコイツは!?」


 ゲトガーが噛みついてこようとしたが、構わずに殴った。殴った。殴殴殴殴殴――。


「わ、わかった! 願いを聞くからやめろサイコ女!」

「ん。じゃあ、よろしく」

「クソが」


 私は、自分の首を殴るのをやめた。


 爽やかな風が吹く。血なまぐさい匂いが、どこかへと飛び、消える。

 空を仰ぎ、胸を張る。


 鮮やかな快晴が、祝福でもするかのように私のことを見守っていた。

 私は、自分の首にいるエイリアンに向かって言った。


「ねぇ、ゲトガー。私を、魔法少女にしてよ」


「……」


 今日一番の静寂が、森の中を満たした。



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