第39話 魔法少女ルーちゃんと宇宙間最終小戦争 ⑧
そうこうしているうちにエレベーターは地上に到着した。
場所は山あいの、寂れた道路に面した電話ボックスの中であった。
辺りには街灯もなく、電話ボックスの鈍い光だけが怪しく道路を舐めている。
『あー。聞こえますかぁ? 皆さん』
博士から至急された謎のイヤホンから、彼女の声が届く。博士はこのイヤホンを、私たち三人に支給してくれたのだ。
『そろそろ肉眼でも見える頃かと思いますが、三隻の巨大宇宙船がこちらに向かっています。彼らは、閏さんの中に眠るブリギオルの残滓を目指してこちらに向かっているようですねぇ』
「ねぇ、ゲトガー。そんなことできるの?」
「俺とルドヴィグ以外はブリギオルを崇拝していたからな。それぐらいはしてくるだろう。相変わらず気持ちの悪い集団だ」
『彼らの目的は、第一に、ブリギオルを討った閏さんの殺害でしょう。第二は、地球の侵略。ですから、優先順位を考えると他の人間を殺すようなことはないとは思いますが、寄生をしてパワーアップを狙ってくるなら話は別です。そのところ、ゲトガーくんはどう思いますかぁ?』
「そうだな」
ゲトガーは数瞬思案してから。
「実を言うと、デルデドの半数はもう別の生き物に寄生している状態だ。あとの残りは寄生をしていない素の状態だから、人里を襲う可能性があるのは、素のやつらだろう」
『なるほど』
「ただ、やつらもまだ悪目立ちはしたくないはず。地球侵略時には嫌でも目立つことになるから、そのときまでは鳴りを潜めると思う。だから、あえて今目立つというリスクを冒すことはしないはずだ。目立つのは、邪魔だてする俺たちを殺してからでいい」
私は目を凝らして、星のない夜を見つめる。
「……きたよ」
私の呟きで、椎名さんと委員長が一斉に顔を上げた。
闇夜の雲に紛れて、なにかが顔を出す。
それは、ゲトガーたちが乗ってきた飛行船とは比べものにならない規模の鉄の塊であった。それが三つも並んで、空の彼方から私たちを睥睨している。
一つは、ピラミッド型。ピラミッドを二つ重ねたような不思議な形をしている。
一つは球型。これは思わず賞賛したくなるほどに美しい真円で、装飾はどこにも存在していない。
一つは螺旋型。絶えず下方がぐるぐると渦を巻いていて、上部に設置されている小さな球部分からはサイケデリックな光が不規則に放たれ夜の雲の中を照らしていた。
三つとも、翼や噴出孔はどこにも見当たらないが、どういう原理か空に浮かんでいた。
三隻の宇宙船は、街の明かりからは遠ざかり、全てがこちらに向かっているように見えた。
「どうやら、人間は襲わず先に俺たちを始末するらしい。今、この山一帯に迷彩を施してやがる」
「ふぅん。ラッキーってこと?」
「正直、どっちでも変わらん。人間を襲っても襲わなくても、やつらの半分は寄生済みなんだ。つまり、ルーと小娘二号を殺したときの俺とルドヴィグよりも強いやつが半分以上もいるってことだ。で、残りは地球にやってきたときの俺たちと大体力は同じだな」
「ふぅん」
……さらっと言ってるけど、それって結構やばいんじゃないの?
「なにか、突出して厄介なやつはいるの?」
「いる」
ゲトガーがすぐに返答して、続ける。
「ララガガルド。ブリギオルの右腕だ。あいつが一番ブリギオルを崇拝していた。病的にな。恐らく、今回の指揮もやつが取っていることだろう」
『きたようですね。では、通信を切りますねぇ。僕もモニターで戦況は見守っていますが、なにかあれば、そちらから連絡をください。では、幸運を祈ります』
そう言って、博士は通信を切った。
「三隻か……。一人一隻でいいかな?」
背中から刀を抜刀する椎名さん。電話ボックスの光が、彼女が持つ刃でぬらめき光った。
「まあ、そうなるだろうが……。いけんのか? シイナの姉ちゃん」
「いけるかどうかはわからないが、いくしかないんだよ、ゲトガー君。私も、閏さんと同じように、死ねないからね」
「どうしてですか?」
私の問いに椎名さんは、邪気なく笑う。
「そりゃあ、博士に私のことを好きになってもらうまでは死ねないからだよ」
私は思わず、隣にいる委員長と顔を見合わせてしまった。
今、なんらかのフラグが立ったような気もするが、まあ、気のせいだろう。
「あなたと博士は、どういった関係なの?」
委員長の純粋な問いに、椎名さんは口に手を当てくすりと笑んだ。
「ただの研究者と助手の関係だよ。でも、いつかは私を博士の恋人にしてほしいと思っているんだ。大それた目標だと思うかい?」
「……いいえ。私も、全人類エイリアン化計画だなんて大仰な夢を抱いているもの」
委員長は、恥ずかしさを誤魔化すかのように強く後ろ頭を掻いた。
そうか。私たちは全員、それぞれに別の目標や夢があるんだ。
なんとなく、二人との距離が縮まったような気がした。
そしてなんとなく、二人には死んでほしくないと、そう思ったのだ。
そんな、死ねない三人の元に。
……宇宙一、死の匂いを内包した飛行物体が来訪した。
ピラミッド型は、先端を崖に向かって斜めに刺し、着地。
球型は山々と木々を押しつぶしながら着地。
螺旋型はうねる先端を道路に突き刺しながら着地。
それぞれがそれぞれの方法で、しかし、お互いがそれほど離れずに、地球への襲来を成功させた。
しばらくすると、螺旋型の飛行物体の中から、何者かが現れた。
見た目は人型のブリギオルに近いが、異様に手足が長く、顔面からは多量の針が生えている。ブリギオルと、地球にやってきた時のゲトガーたち、そのちょうど中間のような見た目をしていた。
針のエイリアンは螺旋階段をゆっくりと降りながら、こちらに向かってくる。道路の真ん中で足を止め、エイリアンは恭しく私たち三人に頭を下げた。
「私はブリギオル様の側近の、ララガガルドと申します」
ララガガルド……。先ほどゲトガーが厄介だと言っていたエイリアンが、こいつか。
「私は、私たちは、ブリギオル様の仇を討たなくてはなりません」
やつには顔がないが、彼が纏う雰囲気と声音から、ララガガルドが泣いているということは想像に難くなかった。
「そこで、私はあなた方地球人に問います。……この中に」
ララガガルドが私たち三人を一瞥し、右腕を前に出し手の平を開け夜に向けた。
「――この中に、魔法少女はいますか?」
その言葉で、私の中になにか熱い感情が灯った。
私の体の中の、ゲトガーの……エイリアンの成分が、体の先まで染み渡っていく。私の髪先が、ぶわりと広がり瞳孔が開いた。
私は今、エイリアンに。敵に。
魔法少女だと認識されている。
つまり私は、もう。
正真正銘の魔法少女じゃないか……ッ!
「ゲトガー。いける?」
私は、右手首をゲトガーがいる首に向ける。
「いつでも」
ゲトガーが、私の手首を噛み、自分の中に血を取り込んでいく。
「――変身」
「――変身」




