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第3話 ありえんほどにエイリアン ③

 木立を掻き分けて山の中を進む。緑葉は陽に透け、落葉は地面を鮮やかに縁どっている。

 揺れる木洩れ日からは音さえも聞こえてきそうだ。生命の息吹が満ちた山の中にいると、走って疲労のたまった私の体と心は急速に回復していくのであった。


 ここで、委員長と超絶面白トークでも繰り広げながら山を登ることができればいいのだろうけれど、残念ながら私たちの間に流れるのは沈黙だけなのであった。


 実のところ、私と委員長の間には今までこれといった接点がない。だから私は委員長がどんな人物なのか知らないし、委員長も私をどんな人物なのか知らないだろう。


 こういうときは、どうすればいいんだ? 人間というものは好きなものの話をしたがる生き物だし、オカルト話でも振ってみようか。

 などと考えていると。


(うるう)さんは魔法少女が好きなのね」

 なぜか、委員長の方から私の好きなものの話を振ってきてくれた。私の電波を受信して、思考を呼んだとでもいうのだろうか。さすが委員長。


 というのは冗談。委員長の目線は私のスクールバッグに付いている魔法少女グッズに向いていたので、そこから話を広げようとしてくれただけなのであろう。


「そうだよ。委員長も好き?」

「いいえ。魔法少女を好きなのは小さな女の子か大きな男の子だけじゃないの?」

「大体あってるけど、今時際どい台詞だね」


 なーんだ。委員長も別に魔法少女には興味がないのか。とほほー。

 というか。委員長は魔法少女に興味がないのではなくって、オカルトにしか興味がないといった感じだろうか。

 それはなんだか親しみを覚えるなあ。私も似たような感じだ。


「委員長はオカルト好きで有名だよね」

「そうね。オカルト……とりわけエイリアンには目がないわ」

 委員長の目は、星を散りばめた銀河の如くに光輝いていた。


 その瞬間、私は。

あ、なんだか彼女とは仲良くなれそうかもしれないと、そう思ったのである。


「なにを人の顔を見てにやにやしているの? 気持ち悪いわね。エイリアンに脳ミソ吸われて死んでくれる?」

 やっぱ無理かも。


 しばらく歩いていると、背後で枝が折れるような音がした。反射的に後ろを見ると、随分と後方で人影のようなものが木の後ろに姿を隠したように見えた。


「私たちの他の野次馬かな?」

「さあ。熊かもしれないわ」

「熊?」

 私は、熊が私たち二人のことをこっそりとつけている様子を思い浮かべてみた。

「だったら、エイリアンより怖いかもね」

「それより、閏さん」

「ん?」


 委員長が近くの木の陰に姿を隠し、自分の人差し指を唇にあてた。随分と古典的な動作ではあったが、見た目と雰囲気だけは奥ゆかしい委員長のその所作はどこか様になっていた。


「……あそこに円盤があるわ。ここからはより慎重にいきましょう」

 山道を更に進むと、切り立った斜面に申し訳程度に木材を埋め込んで造られた階段があった。

 それを上った先の少しだけ開けた空間にUFOが離陸しているようだ。私が今いるこの場所からでも、こんもりとしたUFOの上部が見えている。


 しかし、ナン型の円盤はどうやらそれほど大きくはなさそうで、その全容は木によってほとんど隠されてしまっている。

 あれはなんなのだろう? 本当にUFOなのだろうか。それとも、それ以外のなにかなのか。


 私がそんなことを考えている間に、委員長はそそくさと階段を上りやがっていた。この委員長、緊張感というものが皆無である。


 私も慌てて委員長のあとを追う。もしも委員長がエイリアンにやられてしまったら、私がなんとかしなくてはいけない。

 まあ私は、例え二人ともに命の危機が迫ってもそれは仕方のないことだと思っている。

 私は、自分が魔法少女になることができるのなら命くらい安いと思っているし、委員長も、未知との遭遇に危険はつきものだということぐらいは心得ているだろう。

 だからなのか、私たちは二人とも恐れを抱いていなかった。悪く言うなら危機感が欠如しているということになるのだろうが、よく言えば、怖い物知らずだ。


 一気に階段を駆け上がった私たちは、そこでとんでもない光景を目の当たりにすることとなる。


 ナン型UFOの傍に、人影が二つ存在していた。


 一見するとただの人間のように見えるが、それらには顔が存在しなかった。

 一人は、顔のある部分から木の枝が四方八方に生えており、もう一人は顔全体に大小様々な牙が生えていた。二人とも、分厚い灰色の外套のようなものを羽織っており、顔以外は人間のような容姿をしている。


 いや、よく見ると、体も人間のそれとは大きく異なっていた。外套の下では足が何本も蠢いているように見えるし、身長は児童ほどしかなく、どこか不気味だ。


 心臓が嫌な高鳴り方をする。


 一目見てわかった。こいつらは地球で生まれた生命ではないということに。


 やつらは、同時に首を巡らせてこちらを見た。否、彼らに目は存在しないから実際のところ、どこを見ているのかは誰にもわからないのだが、今までに感じたことのない威圧感があったのは事実であった。


 歓喜により頬を持ち上げ、私は生唾を飲み込んだ。

 こいつらなら、私の体を改造してくれるかもしれない。

 私の頭を支配するのは、恐怖よりもその思考だけだ。


「莠コ髢薙r謗縺呎焔髢薙」

「逵√¢縺溘」


 彼らは、なにやら聞き取れない言語で話しているようだ。こちらを気にしている様子はあるが、今のところ敵意は感じない。今すぐに消されるということはないのかもしれない。


 委員長の方を一瞥すると、頬を紅潮させ、目をギラつかせてやつらを観察していた。うん。まあ、君はそうだよね。私も同じ気持ち。少しだけ。


 委員長は彼らの方を向いたまま言う。

「交信を試みてみるわ」


 そうして彼女は、彼らと似たような響きの言葉を語り出した。

「逶溽エ?r邨舌s縺?縺ョ縺ッ遘√□」

 委員長が語り終わったとたん、異形の二人の動きが止まった。しばらくして、頭から牙が生えた方が口を開く。


「縺昴l縺ッ譛ャ蠖薙」

「諠??ア縺ョ蜈ア譛峨?縺輔l縺ヲ縺?↑縺??縺九@繧」

「譛ャ莠コ縺ソ縺溘>縺?縺ェ」

「莠コ闃晏ア?遠縺、縺」


 三人の間でなにやら会話が繰り広げられているようだったが、本当にコミュニケーションが取れているのかは私にはわからない。


 ほどなくして、顔から枝が生えた推定異星人が軽く片手を挙げた。遂に危害を加える気になったのかと心を躍らせかけたが、そんなことはなく。


「繝√Ε繝ウ繝阪Ν蝨ー逅……。ea……。ハローハロー。ああ、これか」


 唐突に、彼の言語が理解できるものとなった。

 ぽりぽりと顎の辺りを掻きながら、枝の宇宙人が続ける。


「少女。無理に我々の言語で話そうとしなくてもいい。こちらからチャンネルを合わせた」


 その瞬間、委員長は目をかっ開いてその場にくずおれた。

「委員長!」


 急いで彼女を助け起こす。やつらになにかをされたのだろうか。しかし、それは杞憂であった。委員長は虚ろな目で頬を赤らめ、甘い吐息を吐いていた。


「……。やっば。エイリアンと、直接意思疎通しちゃったわ……。もう私、普通には戻れない……。み、未知との遭遇、に、乾杯……」

「……ああ、うん。よかったね」


 お前を心配してた私の時間返してくれる?


 枝と牙のエイリアンたちは、再び私の聞き取れない言語でお互いに言葉を交わしてから、やがて枝の方が日本語でこちらに語りかけてきた。


「地球での第一遭遇者は君たちだ。こちらから人間を探す手間が省けたよ」

「ということは、あなたたちは正真正銘のエイリアンってことでいいの?」


 昇天しかけている委員長の代わりに私が問うと、二人の異星人は同時に頷いた。


 急にこちらの言語で話したり、謎の乗り物に乗っていたり。彼らは、なにやら未知なるテクノロジーを有しているようだ。宇宙人の名に偽りはないのだろう。


「だってよ。委員長」

 意識を失いかけている委員長を揺すって目覚めさせる。正気に戻った委員長は、いつものクールな表情を取り戻した。もう遅ぇよ。


「我々は視察のためにこの地を訪れた。そして、視察をするためには人間の体が必要だ。我々の体では、この地で長く生きていけない」

 そう言いながら、枝のエイリアンが私の方を見た気がした。いや、委員長の方か? 奴には目が付いていないからわからない。


 委員長は、枝のエイリアンを見て神妙な顔で頷き、相槌を打っていた。


「地球を案内しろってこと?」

 私はそう言ったあとにすぐ、人間の体が必要ってどういうことだ? と疑問が浮かぶ。


委員長に助けを求めようと彼女の方を見る。

するとそこには。


「……え?」


 ――腹部に風穴の空いた、委員長だったものの姿があった。


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