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パラサイト魔法少女うるうるーVSエイリアン  作者: 雨谷夏木


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第21話 魔法少女ルーちゃんの日常。と、その崩壊。 ①

 春の風が髪先を掠めていく。首に巻いた包帯の先がたなびき揺れていた。

 河原には爛漫と花々が咲き誇り、草木の爽やかな香りが私の行先を示してくれる。


 いつもと変わらない登校中の風景。

 空には雲も飛行機も、謎の飛行物体もいない。


 今日は念のため、博士からもらったコンタクトを付けてきた。これで、デルデド星人の迷彩機能を突破することができる。

 目を凝らして空を仰ぐが、どこにも怪しげな物体は見当たらない。


「クソ女。お前は俺たちと戦う気満々のようだが、戦わないことに越したことはない。奇跡が起こって、俺たちの軍勢はなんとかなったとしても、ブリギオル自らが攻めてきたら、今のお前では……いや。地球上の誰も、そしてどんな兵器でも、恐らく敵わんぞ」

 包帯越しに、ゲトガーがくぐもった声で言った。


「ブリギオル?」

「俺たちの星の、王みたいな存在だ。それでいて、俺たちの星の中でダントツに強い」

「ふぅん」

「まあ、そいつがくるのは星の最終手段だと思うから大丈夫だとは思うが、一応伝えておいた」


 私は、ゲトガーの言葉に頷いて相槌を返した。


「で。ここからは現実的な話をする。俺は今まで合理的な生き方をしてきた。お前とは違ってな」

「はいはい」

「だから、ブリギオル抜きにしても。お前らが言うところのデルデドの軍勢と戦うよりも、盟約を破棄した方が、いくらか現実的なわけだ。それだと、殺せばいい存在がたった二匹だからな」


 盟約を破棄するには、盟約者二人……つまり、盟約を結んだ地球の人間とデルデド星人の二人が承諾して、盟約を破棄してもらう必要がある。


 それか。

 ……二人を殺して、強制的に盟約を破棄するか。


「でも」

「あぁ?」

「盟約を破棄しちゃうと、私が完全な魔法少女になれない。だって、エイリアンが全員帰っちゃうんでしょ?」

「……はぁ」

 ゲトガーは呆れたように息を吐いた。


「俺たちの軍勢が攻めてきたら、適当に食らえばいい。そうして力を強めながら、盟約者を探して、盟約を破棄させる。デルデド星人全員を殺すのは、現実的じゃないぞ」

「ゲトガーは」

 ここで、ふと湧いた疑問をゲトガーに投げてみることにした。


「自分の同胞が私に殺されるかもしれないけど、嫌じゃないの?」

「別に」

 ゲトガーは即答して、続けた。


「仲間が死ぬだけで俺が助かるのなら、俺にとってそれは(いと)わない犠牲だ。俺は、合理的な生き物だ」

「ふぅん」


 なんだこいつ? 本当にデルデド星人なの? 情も仁義もなにもないじゃん。

 ゲトガーが言う。

「誰か、盟約者だと思うやつの候補はいるのか?」


 人間の盟約者のこともデルデド星人の盟約者のことも、どちらもゲトガーは知らないらしい。彼が嘘をついていなければ、だけれど。


 ……でも。博士が言っていた、デルデド星人の習性である義理堅く情に厚いという点を踏まえると、あながちゲトガーは嘘をついていないのではないかとも思ってしまう。

 いや、さきほどの発言しかり、ゲトガーが義理堅く情に厚いとは到底思えないし思ったこともないけど。


 ……あの二人のこと、あまり信用しすぎるなよ。

 ゲトガーが言った言葉が、頭の中でリフレインされる。


 それなら、私は誰を信用すればいい?

 ……。いや、悩むまでもない。

 私は、私のことを信用すればいい。


「いるよ。盟約者の候補」

 私は少し時間をおいてから、ゲトガーの問いに答えた。私の視界には、目前に迫った校舎が映りこんでいる。

「というか私、知り合いその子しかいない」


(――まあ、だろうな。こんなやつに知り合いが何人もいてたまるか。誰も関わりたくないだろ、こんなやつに)


「だから別に、盟約者の候補でもなんでもないんだけれど」

「友達ってやつか? そいつは」


 ゲトガーの言葉が、私の心の表面をざらりと撫でていく。

「私に、友達はいないよ」


「……そうか」

(――俺もだ)


 ゲトガーの声には、一抹の寂しさのようなものが隠れていたように思えた。

 風を浴び、前髪を手で押さえながら私は、ゲトガーが元いた銀河の果ての星に思いを馳せた。


「盟約がなくなったら、ゲトガーも星に帰っちゃうの?」

「帰れねぇよ。馬鹿。お前のせいで」

「ふぅん」


 ……。

 あれ。どうして私は、少しだけ安心しているのだろう。それはきっと、ゲトガーがいないと、私は魔法少女になることができないから。


「まあ、お前から体の主導権取り返したら、お前の体ごと星に帰ってやるよ」

「ふふ。頑張ってね」

「余裕ぶりやがって。クソが」


 もしも盟約がなくなったとしても、私はしばらくゲトガーと一緒にいられるみたいだ。


 校舎の中に入る。他の生徒たちは、私から距離を取りたがる。

 なにをされるかわからない、変なやつだと思われているからだろう。別に、そちらからなにかをしないと、私からはなにもしないというのに。


 委員長のことは、朝のホームルームで担任から伝えられた。

 委員長は別のクラスの生徒だが、この調子だと、全てのクラスにそれぞれの担任から情報が回っていそうだ。


 死亡ではなく、失踪ということになっているらしい。ということはつまり。春木博士はまだルドヴィグが乗っ取った委員長の体を警察に受け渡していないのか。

 大丈夫かな……? あの博士。


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