亡国の魂の歌フォルクローレ
南米民族音楽フォルクローレと出会ったのは、旅の途中のソルトレイクシティ。草原を吹きぬける風のごときケーナのしらべ、風になびくポンチョのようなチャランゴの響き、地の底から響いてくるボンゴのリズム。見知らぬ異国の音楽が、むしょうになつかしい。アンデス高原民族衣装の奏者が演奏をやめるまで、釘づけになっていた。
帰国後、カルチャーセンターのケーナ教室に通い、ボリビアのダンスを学び、南米に飛んで現地の生演奏を聴いても、あれほど心揺さぶられる瞬間はない。
「どうしてか?」と自問してみる。「歌に秘めた遠い故郷への憧憬に心打たれたのではないか」と思いあたった。
それがきっかけで、スペイン語を学びたい気持ちが生じた。できれば、南米のスペイン語圏で……。なぜか、本家スペインを訪れたいと思ったことはない。
失われた故郷―-みずからの言葉を失い、国を失い、それを奪い去った侵略者らの言葉で歌うインカの末裔。心までは奪われていないと主張するかのように、亡国の魂を歌い上げる。
「国破れて山河あり」の言葉どおり、まぶたの裏にはなつかしいアンデス高原の憧憬が消えないのだろう。