第18話 勇者軍と大魔王の闘い
勇者たちに動揺は見られなかった。
私が動き出すのを待っていたのかもしれない。先頭の五人が駆け出すのと同時に、私は強烈な魔力を感じ取った。
目前に巨大な竜巻が現れる。私は聖剣を抜き、竜巻を斬り裂いた。
視界がひらけると、砲弾と銃弾が私を出迎えた。勇者たちは消え、後方の帝国軍が一斉射したのだ。
私は黒龍を六匹ばかり放った。闇の大魔術で、弾と軍勢ごと蹴散らそうとしたのだ。
この試みは失敗した。
砲弾と銃弾は消し飛んだが、上空から光の龍が降ってきて黒龍に喰らいついた。さらに風、火、水、地の大魔術を連発されたものだから、私の大魔術は相殺された。
衝撃で大気が揺れ、大地が揺れ、少し遅れて轟音が鳴り渡った。
衝撃の余波で、砂塵とともに帝国兵と砲台が天高く舞い上がり、遠く彼方に吹き飛んでいった。
上空から、岩石と水刃が超音速で襲ってきた。全方向から包囲するように攻撃が来る。私は自分を取り囲むように竜巻を起こした。
風の上級魔術。
風圧で弾き、真上から来るものだけを刃で引き裂く。
風がやむと同時に、ふたたび魔術攻撃が来た。面倒になって、私は移動してかわした。前に出つつ、斬撃を上空に飛ばす。勇者たちは竜巻と爆炎を放って相殺した。
私が飛ぼうとした瞬間、背後から二人、正面からも二人、敵が来た。
剣、槍、斧、拳――さらに上空から石つぶてが飛ぶ。味方を巻き込まないよう、牽制で下級魔術を使っている。
前に踏み込もうとした途端、地面から石槍が飛び出た。
私は地の魔術を使って石槍を砕く。背後に闇の大魔術を放ちながら、正面に突進した。紙一重でかわしながら、槍使いの腹に蹴りを叩き込んで大きな風穴を開け、剣を横に薙いでもうひとりの首を斬った。
狙いすましたように矢が飛んでくる。
私は上体を倒して、流星のような一撃をかわした。今度こそ飛行する。大地から足が離れる。よけた矢が地面に着弾して大爆発を起こした。
私は爆風を背に空を駆けた。
無数の矢が、流星群のように曲射弾道で襲いかかる。私は黒龍を放って矢を消滅させた。斬撃を放って手近な勇者を始末しつつ、私は弓使いの位置を探った。
一〇〇キロ以上離れた場所から連射していた。
私は地の上級魔術を使い、遠く彼方の地面に無数の槍を突き出した。弓使いが串刺しにされたのを確認してから、さらに空中で刃を振るい、斬撃で空中にいる勇者たちをひとりひとり確実に落としていく。
斬り裂かれた遺体が空中を舞い、血しぶきが霧のように飛んだ。
水の刃が、風の刃が襲ってくる。空中にいる大魔術使いは残り半分……だが、数が減ろうと彼女たちの士気は下がる気配を見せない。
巨大な水流が蛇のように私を追いまわし、炎の鳥が行く手をさえぎる。風が渦巻いて大気を引き裂き、巨大な岩石が超音速で飛び、光り輝く白い龍が襲いかかる。
私は火に水を、水に火を、地に風を、風に地を、そして光には闇を叩き込んで相殺した。聖剣を振るう。
斬撃を放ち、私は轟音を立てながら空中を飛びまわる。斬り、突き、払い、振り下ろす。
最後のひとりを一刀両断にして、私はふたたび大地に降り立った。
待ち構えていたように武芸者たちが突撃してくる。私は横薙ぎに一閃して二人を仕留めた。残るは跳ぶか伏せるかしてかわした。
跳んだ者は剣を、斧を振りかぶる。伏せたものは槍を突き出した。
背後からは三人。拳、蹴り、ひじ打ち。
私は後ろを無視した。まずは真正面。伏せた槍使いに斬りかかる。強烈な踏み込みで大地に亀裂が走り、地面をえぐる。突き出された槍をかわしながら、私は女の首を叩き斬った。
私は横に跳びながら、黒龍を撃った。
跳んだ二人、剣使いと斧使いを仕留める。着地と同時に大地を蹴り、うしろの三人に飛びかかった。両手で聖剣の柄を握り、一人を袈裟懸けに、もうひとりを真一文字に、最後の一人が放った蹴りをかわして首を刎ねる。
私は襲ってくる勇者たちをひたすら斬り続けた。
何人やられても怯まぬ戦意に、私はいつしか違和感を覚えていた。なにかおかしい。絶望も焦燥も感じられない。こいつらはなにか仕掛けるつもりだ。
無意味に殺されているのではない。
こいつらの目には、まだ希望がある。望みを捨てていない。やけっぱちの人間がする戦い方じゃない。