第15話 人体改造を提案するデイジー
「関わると面倒そうだって忌避されてたんでしょう」
デイジーが口をはさんだ。彼女は空中で、昼寝をするような体勢でふわふわと浮いていた。
「まぁ結果としてはそれがよかったわけですけどね。おかげで元の世界に帰す方法に頭を悩ませる必要がなくなりましたし。彼女にはこのまま、ぐうたら生活で満足してもらいましょう」
「それはそれでどうなんだ?」
シスルは腕組みしてうなった。おずおずといった様子で凛ちゃんが手を上げた。
「あのー……さすがにずぅっと何もしないのは申しわけない気が――」
「いえいえ。こちらの手違いで呼び寄せてしまったのですから、どうか安楽な日々を満喫してください。お嬢さまが」
とデイジーは私を見た。
「求めてやまなかった生活ですよ?」
「そのとおりよ、凛ちゃん。ぐうたら生活は素晴らしいわ」
「プリム陛下って意外とダメ人間思考ですよね、すごいのに……」
「本当のダメ人間は、こんなに強くなれねぇけどな」
シスルがため息まじりにぼやいた。
「んで、なにかしたいって、なんか希望とかあんのか?」
「あ、えっと……そのぅ、魔法、使ってみたいなぁーって」
凛ちゃんは恥ずかしそうにうつむいて、小さな声で言った。
「プリム陛下とか、みんなすごい綺麗じゃないですか。あれ、美容魔法っていうんですよね? それに風魔法で空を飛んだり……あれって、わたしにもできますか?」
期待に満ちあふれた目だった。シスルが困り顔で言った。
「おい、どうすんだよ?」
「んー……できれば叶えてあげたいけれど」
私が歯切れ悪く言った。凛ちゃんはがっかりした顔である。
「ダメなんですか?」
「地球人に魔法が使えるかというと……不可能じゃないかしら?」
そもそも種族自体が違うのだ、見た目が似ているだけで。
当然、地球人である凛ちゃんは魔力など持っていない。できるかできないかで言えば、絶対に無理だろう。
「いえ、美容魔法による人体改造を施せば行けると思いますよ」
デイジーが口をはさんだ。
「彼女はもともとこの世界の人間です。つまり、魂は地球人ではありません。混じり気なしの本物の地球人なら無理でしょうが、魂がこの世界の人間と同一なら、おそらく美容魔法で肉体を変容させるだけで魔力を得られるでしょう」
デイジーはそう言ってうなずく。
「通常、この手の品種改良は何十世代にもわたって少しずつ行なうものですが、今回は特別処置です。私の厖大な魔力によって――」
「いや待て待て待て!」
シスルが大慌てで止めた。
「それつまり完全に地球人じゃなくなるってことだろ!? いいのか!? 要するに人間やめて化け物に作り変えますってことだろうが!」
「化け物とはひどいですね。これは進化であり成長ですよ。不便な肉体を捨てて、より強く、より美しく、優れた生物になるんですから。というか化け物って自己否定じゃないですか」
デイジーは嫌そうな顔をした。
「シスルさんだってその化け物でしょうに」
「だ、だって……! いいのか、やっちゃって!? つーか普通は何世代も重ねてやるのを一世代だけでやるって完全な人体実験……!」
「決めるのは凛ちゃんですよ。どうせ地球に戻れないんですから、この世界に馴染むためにも施術すべきだと思いますけどね。いえ、仮に地球に戻れたとしてもやるべきだと思いますよ。何も好き好んで苦行をしなくてもいいじゃないですか」
「前から思ってたけど、お前ほんと地球人にめちゃくちゃ辛辣だな……」
「辛辣なんじゃなくて、ただの事実ですよ。客観的に比較したら優れてる点がないでしょう? 肉体も脆弱、魔力もなし、外見だって」
とデイジーはちらりと凛ちゃんを見た。
「決してブサイクとは言いませんが、まぁ、なんと言いますか」
「あの……気を遣わなくても大丈夫です」
凛ちゃんが控えめに手を上げた。
「そのぅ、自分の容姿がかわいくないのは自覚してますから……」
「い、いや、そんなことねーよ! もっと自分に自信持って――」
シスルの言葉に、デイジーはため息を吐いた。