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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第4章 聖なる乙女の覇者
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第12話 異世界召喚するデイジー

「魔族じゃねぇじゃん!? つーか年齢!」


「異世界に転生していたようだな」


 閣下が言った。


 シスルが、はい!? と説明を求めるように閣下を見た。


「別におかしな話でもないだろう? 我々のような存在がいるのだから」


「いや、でも……! 年齢……!」


 シスルは少女を指さしながら、閣下に顔を向けた。


「そんなに驚くことかね?」


 閣下は肩をすくめた。それから指を一本立てて、


「いいかね? 異世界と、こちらの世界の時間の流れが一定だという保証はどこにもない。そもそも『今』召喚したからと言って、『現在』の地球から召喚されるとは限らない」


 閣下は少女を見つめながら語った。


「十年後、一〇〇年後の『未来』である可能性も、逆に一〇〇年、二〇〇年前の『過去』である可能性もあるわけだ。それに一口に地球といっても複数存在しているわけだろう?」


 閣下は意外そうな顔をするシスルに笑いかけた。


「私は『聖なる乙女の学園』とか『騎士』とか『英雄』とかは知らない。君たちも『覇者』という作品を知らなかった。つまり、それぞれパラレルワールドの地球から転生してきたわけだよ」


 閣下は息をついた。


「この世界の言語を見ても、むしろ時間の流れはめちゃくちゃだと思ったほうがいい」


「なぜか言語が日本語な点ですか?」


 リリーが訊いた。閣下はうなずき、それから独り言のようにつぶやいた。


「そうだな、確かめてみるか……」


 閣下は少女を指さして、はっきりと問うた。


「君、名前と出身は? 日本人か?」


 少女は戸惑った様子をしながらもうなずき、自分の名前を言った。閣下はさらにいくつもの質問を浴びせかけ、少女のほうは戸惑いながらも回答を続けた。


 それから閣下は、両腕を大きく広げて言った。


「君はこの世界のことを覚えているかね? あるいは」


 と閣下は私を手で示した。


「彼女のことは?」


 少女は首を横に振った。閣下はうなずいた。


「やはりな……」


「どういうこと!?」


 シスルが眉根を寄せた。


「彼女はこの世界のことを覚えていないんだ。転生したが、この世界での記憶はいっさい持っていない――実を言うと、君たちの件があって、私も少し気になってね。ちょっと調べてみたんだよ」


 閣下は微苦笑を浮かべた。


「すると、面白いことがわかった。どうもおぼろげながら地球のことを覚えている人が、少数ながらいるみたいなんだよ。もちろん、私たちのように鮮明に記憶している者はいない。あくまでもぼんやりした知識として、前世のことがあるだけだ」


「もしかしてフランスパンとか、そういうのを作ったのも?」


 私が問うと、閣下は愉快そうに笑った。


「ああ、フランスパン――あれはちょっと面白い事例だよ。なんでもフランスパンを考案した男は、最初から『フランスパン』を作ろうと思ってパン職人になったそうだ」


 私が首をかしげると、閣下は笑いをこらえながら説明した。


「つまりだな、その男は漠然と『フランスパン』という食べ物のことを記憶していたわけだ。もちろん、当時のこの世界に『フランスパン』なんてものは存在しない。にもかかわらず、彼は『なぜパン職人になりたいのか?』と聞かれて、『フランスパンが食べたいからだ』と答えたそうなんだよ」


 お手上げ、といった様子で閣下は軽く両手を上げた。


「当然、まわりの人間はわけがわからなかったそうだ。実際にフランスパンを作ってみせることでようやく納得されて……それまでは、半分気が狂っているんじゃないかと疑われていたという話だ」


 ふふっ、と閣下は笑いを噛み殺した。


「これはちょっと極端な例だがね。だが探せば、漠然と前世の知識を持っている人がちらほらいるんだよ」


「となると」


 リリーが言った。


「言語が日本語なのも――」


「言葉については古すぎてなんとも言えないが、おそらく相対的に日本人が多かったのではないかと考えている」


「ほかの国の人もいたわけですか?」


 リリーの問いかけに、閣下はうなずいた。


「少なくとも外国語をしゃべれる子供はいたよ。もっとも、日本語を浴びて育つから、ある程度成長すると忘れてしまうようだがね。ただ、幼児期に不思議な言葉をしゃべる子供の話は、どこの国にも伝わっている」

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