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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第4章 聖なる乙女の覇者
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第10話 野心家マーガレット・ハイアシンス

 私はやることがなかった。


 いつもデイジー、シスル、リリー、さらにラオカとマリーゴールドを加えた六人で行動していた。適当に訓練したり、駄弁ったり、観光に行ったり、わりと自由に行動していた。


 私たちはのんびりしていたが、メソン大陸各地は騒がしかった。


 聖騎士による叛乱が起きていたからだ。当然のように魔王軍が鎮圧に出向く。しかし、成果はかんばしくない。思った以上に苦戦していた。


 で、ある日突然、四天王の一人が部下を引き連れ、私のところへ言いわけにやってきた。昼過ぎで、太陽が少しばかりかたむき始めた頃のことだ。


 私たちは聖都の城にいた。中庭の東屋で、お茶を飲んでくつろいでいた。マーガレット閣下とウェデリアも、四天王と一緒にやってきた。


「まことに申しわけございません!」


 と彼女は頭を下げるのだった。なにが? と思っていると、閣下が補足した。


「想像以上に時間がかかっているからな。皇帝陛下がお怒りではないかと恐れているわけだ。大陸ごと消し炭にするのではないかと……」


「私、どういうイメージ持たれてるんですか!?」


「聖王国の切り札、大規模儀式魔術をさらっと相殺したせいで、必要以上に恐れられているようだな! まぁ些細なことだが!」


「私のイメージを改善してくださいよ!?」


「無理だな。すでに『暴君』という印象が強くなっている」


「そんな……。一般人相手に大暴れしたわけでもないのに……。というか、それ統治者としては結構まずいんじゃ……」


 マーガレット閣下は愉快そうに笑った。


「案ずるな。あくまでも『気に入らないことがあると、相手を殺して蘇生する』というだけで、統治そのものはそれなりに評価されている……怒らせると、死ぬよりひどい目に遭うと思われているだけでな!」


「結構致命的!」


「しかし! 聖騎士を皆殺しにした上で蘇生したのは事実だ。なにより魔王軍がプリム陛下を恐れておとなしくしているという事実! それが恐怖感を煽っているのだよ!」


 閣下は高らかに笑った。


「私としては別に問題ないから一向にかまわない! 畏敬の念と恐怖は紙一重だ。プリムローズ・フリティラリアを雲の上の存在だと思ってくれるならそれでよし!」


「あんまりよくないんですけど……! 本人的には!」


 私はそう答えるが、柳に風だ。


「案ずるな。重要なのは民の生活だ。存命当時、いかに暴君と呼ばれていようと、善政を敷いていれば後世の歴史できちんと評価される」


「生きているあいだは暴君確定なんですか!?」


「仕方がない……仕方がないのだよ陛下」


 閣下は悲しげな表情で首を横に振った。


「優れた者は民を導くため、上に立つ義務がある。結果的に恐怖を抱かれようと、国の安寧のためにはやむを得ないのだ。我々が行なう世界制覇と同じこと! なぜなら!」


 彼女は力強く拳を振り上げた。


「プリムローズ・フリティラリアを『王』に据え、私が『宰相』として辣腕を振るう! そのほうがみんな幸せだから! 世界のため、民衆のため、人々の暮らしをより良いものにするために、我々は前に進まなければならない! それに……」


 ふふ、と彼女は実に楽しそうに笑った。


「今でこそ侵略の恐怖で皆、目が曇っているが……歴史という武器は勝者に味方する! 長い時間が経てば経つほど、成し遂げた偉業が凄まじければ凄まじいほど、人々の尊崇の念は強まるのだ!」


 狂気すら感じさせるような演説口調で、閣下は言った。


「そして、偉人であればあるほど、人々は『意外なお茶目エピソード』を喜ぶ。後世の人々は皆、プリムローズ・フリティラリアが愛嬌のあるいい王様だったと理解するだろう。ちょっと色々常識知らずで押しに弱くて、手段が苛烈なだけのな!」


 シスルが口をはさんだ。


「その手段の過激さが問題なんだよなぁ……」


「けなされている気がする! ものすごく!」


 しかし二人とも答えなかった。閣下が言った。


「とはいえ、そのような未来を作るには善政が必要だ。統治自体はしっかりやらねばならない。心配するな。我々アルファ王国が世界を統べる日は近いぞ!」


 閣下は見るからに邪悪な笑みを浮かべた。私はビスケットを頬張りながら言った。


「マーガレットさまって意外と野心家ですよねー。というか、しれっとアルファ王国って言っちゃってるし……」


 閣下は笑った。


「プリム陛下は逆だな! 野心がなく、権力にも関心がない! それほどの力があるなら、自ら前線に出向き、叛逆者をことごとく打ち破って兵を鼓舞! 人民を心酔させることも可能だろうに、まったく前に出ようとしない!」


 閣下は手で周囲の風景を示しながら言った。


「今もこうして中庭でのんびり過ごすことに無上の喜びを感じている!」


 私は大きくため息をついた。

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