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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第4章 聖なる乙女の覇者
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第8話 順調に世界征服が進んでしまっている

「やめろ! そいつを手本にするな!」


「私もああいう修行をしたら、プリム陛下みたいになれますか!?」


 ウェデリアは私に迫ってきた。


「え、えっと……どうかしら?」


 困ってシスルを見ると、彼女は目をむいた。


「いや常人にあの修行は無理だろ!? お前、全身火あぶりにされたり、致死性の猛毒飲んだり、腕やら足やらぶった斬られた状態で殺し合いしたりできんのか!?」


「痛かったり苦しかったりするのはイヤです! 楽して強くなりたいです!」


 ウェデリアは純真な笑顔を浮かべた。


「じゃあ、なおのことプリムはダメだろ!? こいつのどこを見て、楽して強くなれると思ったんだ!?」


「全然苦しそうじゃなかったんで!」


「それはこいつが色々とおかしいだけだ! 普通の人間は――いや、魔族だろうがなんだろうが、あんな修行してたら心がすり切れるわ!」


「わかりました! じゃあやめます! でも美女になりたいです! どうしたらいいですか猫耳しっぽの人!?」


「名前くらい覚えろ! シスルだ! そして美容魔法を使え! これ以上ないくらいのアホみたいな量の魔力をそそぎ込んで使え!」


「わかりました、シスルさん!」


 そう言って、ウェデリアは自分に美容魔法をかけるのだった。目一杯の魔力を自分自身に使用しているのがわかる。


ちょっと使いすぎでは……? と私は思ったが、シスルやリリーに言わせると、これでも少ないらしい。デイジーがいぶかしげに訊いてきた。


「自覚ないんですけど、こんなに魔力そそぎ込んでますっけ?」


 私は首をひねった。


「さぁ……。正直、意識したことないからわからないわ」


「日常的にこんくらい使ってんだよお前らは……」


 シスルは疲れた様子でため息をついた。それから彼女は、捕らえた聖騎士を見た。


「それより、どうすんだよ? また撃ってくるかもしれねぇだろ?」


「大丈夫みたいですよ」


 デイジーは、茫然自失としている聖騎士を指さした。何かつぶやいている。断片的な言葉の羅列だったが、とりあえず連射が不可能であることはわかった。


 あの光の柱は、一万を超える聖騎士が集まって、大規模な儀式を行なうことで初めて使えるらしい。魔力を極限まで高めないと行使できないという。


 ゆえに連続使用は難しい。そもそも、あれは必殺必中の一撃、喰らって生きていられる生物はこの世にいない……らしい。


 普通に相殺できたのだけれど。


 いや、確かに聖剣の力とデイジーの補助魔法がなければ厳しかった。だが、さすがに「必殺必中の一撃」は言い過ぎではなかろうか。


 とはいえ、もしかしたら第二射を用意しているかもしれない。


 急遽、私たちは予定を変更してメソン大陸に乗り込み、そのまま聖騎士たちと一戦交えた。といっても、やることは大してなかった。本気であの大規模魔術が「必殺必中」だと思っていたらしい。


 防がれるとは想像すらしていなかった様子だ。


 私たちはラオカに乗って移動し、聖都の結界をぶち破って宮殿に突入した。中庭に巨大な魔法陣が描かれている。人文字のように、大勢の聖騎士たちが剣や槍をかかげて並んでいた。


 私たちが魔法陣の中央に着陸すると、彼女たちは揃って「なんてことだ! よりによって目標を間違えるなんて……!」と嘆いた。


 違う対象に攻撃したという認識であり、相殺されたとは微塵も思っていないらしい。


 しかしその後、ヒュスタトン大陸から通信があった。誰かが――あの聖騎士は拘束済みだから、たぶん見張りとなる別の人員がいたのだろう。


 その人物が、ようやく宮殿に報告を行なったようだ。


 慌てた足取りの文官が、中庭まで駆けてきた。彼は声を張り上げて、やけくそのように通信文を読んだ。すると、魔法陣を形成していた聖騎士たちは、一様に押し黙った。


 彼女たちは互いに顔を見合わせた。困惑したような空気さえただよってくる。


 その後、彼女たちはなぜか涙目になりながら、雄叫びを上げて私たちに突撃した。陣形も何もあったものではない。連携もとれておらず、倒すのは容易だった。


 私は剣を抜き、一回転した。黒い斬撃が、聖騎士たちの体を真一文字に切断する。同時に、デイジーの回復魔法が飛んだ。


 一万を超える聖騎士たちは、ひとり残らず上半身と下半身を分かたれて、すぐさま再生した。上半身が生えたものと、下半身が生えたものと、半々くらいだった。


 彼女たちは全員地面に転がって、不思議そうに辺りを見回した。そして、転がっている自分や仲間の上半身や下半身を見て、悲鳴を張り上げた。


「そこまでだ!」


 宮殿から声が飛んだ。


「我々は降伏する。どうか攻撃しないでもらいたい」


 バルコニーから、聖王が顔を出していた。

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