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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第4章 聖なる乙女の覇者
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第1話 シミュレーションRPGとか知らないんですけど?

「なんだかあっさりとした終わりね」


 私は拍子抜けして言った。正直なところ、もっと揉めると思っていたのだ。


「いや、むしろ戦後処理のほうが面倒くせぇだろ? たぶん降伏に納得いかなくて交戦しようとする魔族とかいると思うぞ」


「それに条約を結んだり、そういうこともしなきゃいけないんじゃないかな?」


 リリーとシスルが言った。私は軽く手を振った。


「そういうのは女王陛下のお仕事でしょ? 私はあくまでも、命令どおりに魔王軍を降伏させただけよ。討伐じゃなくなっちゃったけど、許可は得てるし、大丈夫でしょ」


 よし! これで帰れる!


 私は内心で歓喜していた。だが、それをぶち壊す声音が――私をこの最悪の旅路へと送り出した、あの悪夢の声がまた聞こえた。


「ああ、何も問題はない。期待どおり! いや、期待以上だ! よくやってくれた! さすがはプリムローズ・フリティラリアだ!」


 つかつかと瓦礫の山のあいだを縫って、女王陛下が現れた。


 最初は偽者かと思った。だが、違う……この気配と魔力は間違いなく、マーガレット・ハイアシンスだ。彼女は優雅な足取りで私の前まで来た。


 彼女は一人ではなかった。両隣に、学園の教師であるアイリス・ラナンキュラスとダリア・ダンデライオンを引き連れている。


 それに、見慣れぬ魔族の少女が一人いた。角しか生えていなかったので、最初は鬼人族かと思ったが、違う。背丈が一五〇センチくらいしかない。鬼人族はもっと長身だ。


 それに体型も鬼人族らしくない。隣にダリアがいるので、なおのこと目立った。筋肉質なダリアに比べて、少女はスリムなのだ。


 もちろん、胸やお尻など出るところは出ている。しかし、腕や足が明らかにほっそりとしていた。見比べれば違いは一目瞭然だ。


 とはいえ、一番目を引くのは少女の持っている武器だ。リリーやマリーゴールドのものより、さらに大きな剣を肩に担いでいる。全長は二メートル近くあるだろう。


 巨大さゆえに、本人よりもまず武器に注目してしまう。


「あれ、ウェデリアじゃねぇか? そうだよな?」


 シスルが確認するようにデイジーを見た。


「確かに、私の記憶する姿と同じですね」


「戸惑うのも無理はない!」


 普段より女王陛下のテンションが高かった。というより、ここまで興奮している姿を見たことがない。あのマラソン大会で優勝したときですら、泰然としていたのだ。


 それが今は、大はしゃぎで目を輝かせている。


「現実とゲームは別物だということは、私も理解している!」


 チッチッチ、と言わんばかりに彼女は指を振った。


「だが、やはり妙なことをしてストーリーがズレたら事だからな! ゲーム開始まではできるだけ接触しないようにしていたのだよ!」


「あー、これは……」


 リリーがぼやくようにつぶやいた。さすがの私も、なんとなく事態は察した。デイジーが私の前にやってきて、合掌するように手を合わせた。


「ご愁傷さまです、お嬢さま」


「死刑宣告のように言わないで!」


「でもコレ、完全にアレですよね? お嬢さまがまた……」


「いや、わっかんないでしょ!? モブキャラかもしれないじゃない! ただの一般人Aの可能性もある! 希望を捨てないで!」


 だが、叫ぶ私にリリーとシスルが無慈悲な言葉をかけた――血も涙もない言葉を。


「その希望は、たぶん叶えられないと思うよ?」


「いい加減学習しろよ。お前が平穏な人生とか遅れるわけねーだろ」


 なぜなのか? もしや、私は前世で何か恐ろしい罪を犯したのか? 知らずに他者の人生を破滅させていたのだろうか? それゆえに現世で罰を……?


 いや、考えが飛躍しすぎている。私は呼吸をととのえ、気を落ち着かせようと試みた。


 だが、無駄だった。私が冷静さを取り戻す前に、リリーが女王陛下に向き直った。彼女は、なんのためらいもなく訊く。


「それで、陛下はこの世界が何に似ていると思ったのですか?」


「おいおい、何を言っているんだ」


 女王陛下は、私たちの様子にまったく気づいていない様子だ。彼女は高らかに言った。


「シミュレーションRPG『聖なる乙女の覇者』に決まっているだろう!」

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