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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第29話 伸縮自在の聖剣

 しばらくすると、彼女ははっとした様子で私に向き直り、たどたどしく一礼した。


「ごめんなさいです。えっと、アーちゃんです」


「これ、もう抜いていいのかしら?」


「はいです」


 彼女はうなずいたので、私は聖剣の柄を握った。驚くほど抵抗なく、するりと抜けた。刺さっていたのではなく、置いてあっただけのようだ。


 私は剣を見上げて困った。


「思ったより……大きいわね」


 私の使っている剣より、だいぶ大きな剣だった。リリーが持っているのと同じくらいある。どうも聖王国の剣は、アルファ王国より大きいものが好まれるらしい。


 マリーゴールドなど、自分の背丈より大きい剣を持っている。


「それじゃダメですか?」


「このくらいの長さがちょうどいいのよ」


 私は腰に差した剣を左手で叩いてみせた。全長は一メートルもない。聖剣はこれよりも大きく、一四〇センチくらいはあった。


 正直、アルファ流剣術で扱うにはちょっと長すぎる剣で、どうしようかと思っていたら、いきなり聖剣が縮んだ。


「これでいいです?」


「伸縮自在なの?」


「ある程度は大きくなったり小さくなったりできるです」


「使い手次第なのね。さすがは神の……神様の作った武器って触れ込みだったわよね?」


 はいです、とマリーゴールドはうなずいた。


「でもアーちゃん……自分が生まれたときのことはよく覚えてないそうです。気づいたら岩に刺さってて、人間が抜いたところからしか覚えてないって言ってるです」


「製作者不明なのね」


「ちなみに我も知らんぞ」


 ラオカが物珍しげに聖剣をながめながら言った。


「気づいたらこの世界にあったからな」


「思ったより謎の武器なんですね、これ……」


「まぁ誰が作ったかはどうでもよかろう。強力な武器であることに変わりはない――これを使ったら、我にも勝てるかもしれんな」


 ラオカが冗談めかして言った。私はもともと持っていた剣を抜きつつ、


「別にラオカさまに勝ちたくて聖剣を手に入れたわけじゃないですよ」


 あくまでも目的は魔王――もとい、魔王軍をどうにかするためだ。


 私は聖剣を鞘に収めてみた。不思議なことに、ぴたりと合った。もともと持っていた剣は旅行缶に入れた。


「用は済んだし、行きましょうか」


 私たちは神殿を出ていった。帰り際、神官や騎士にじっとにらみつけられた。よほど気に食わないようだ。


 私たちは森を出ると、竜になったラオカの背に乗って、ふたたび空を舞った。


「このまま魔界へ行ってしまうか」


 ラオカはそう言った。


「ついて来てくれるんですか?」


 私がたずねると、ラオカはしばし考えるふうに押し黙った。


「最初は竜たちに面を通すだけのつもりだったが……ここまで来たついでだ。最後まで付き合うとしよう」


 ラオカは空を駆けた。


 あっという間に森が遠ざかり、山々を越え、メソン大陸から海の上へ出た。大海原が広がり、驚いた海鳥たちが鳴き声を上げた。


 ラオカの速度はいよいよ増していき、大気を突き破るように進んでいった。


 途中、雨雲や雷雲に遭遇することもあったが、なんの障害にもならなかった。そういうとき、ラオカは高度を上げ、雲のはるか上空を通過するのだった。


 雲海の上をしばらく行くと、雲が途切れて青々とした海が見える。やがて陸地がゆっくりと視界に入ってきた。ヒュスタトン大陸だ。


 本来なら、港町ローを拠点に魔王軍に奪われた国々を解放しながら、少しずつ前進していくらしい。だが、もちろん今回はそんなことはしない。


 そのまま魔界への出入り口がある神殿プシーへ直行する。


 当然のように魔王軍が待機していた。超高速で近づいてくるドラゴンに仰天した様子で、慌ただしく迎撃準備をするのが見えた。


 バリスタやら投石機やら用意しようとしている。もちろん武器を片手に陣形を整えようと魔族、魔獣、魔物が連携して動いていた。


 だが、ラオカが「どけ!」と一喝すると、びくりとした姿勢のまま、軍勢は彫像のように固まって動かなくなった。


 武器を構えようとした、あるいは武器を竜に向けようとした状態で、彼らは硬直している。まるで指先一つでも動かしたら、破滅すると思っているかのようだ。


 ラオカがいつもどおり空中で人型になったので、私たちはそれぞれの場所に着地した。一緒に歩き出す。魔王軍がいる中を、私たちは堂々と進んでいった。


 軍勢は息をひそめている。かくれんぼでもしているかのように、彼らは一言もしゃべらず、仲間と視線を交わすこともなく、ただラオカに一喝されたときのまま、じっとしている。


 かすかな息遣いと、カタカタと震える音だけが聞こえていた。

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