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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第28話 聖剣の使い手が現れたが、まったく歓迎されない

 聖剣はあっさり手に入った。


 事前に聖都から通信があったらしい。私たちは大理石で作られた神殿に迎え入れられた。周囲は広大な森で、恐るべきことに森全体に結界が張ってあった。


 効果自体は、以前妖精の里で見たのと同じだ。霧はないが、入り込んできた者の視覚と方向感覚を狂わせ、侵入できないようにする。


 私が驚いたのは範囲だ。


 なにせ結界は神殿を中心に、半径一〇〇キロを軽く超えている。面積だけでいったら日本の九州と同じくらいだ。さすがにこれだけ大規模なものを、しかも常時展開しているのは見たことがない。


 加えて、神殿にも三重の結界が張られてあった。


 森を抜けると切り開かれた平原が広がっているが、その周囲を深い堀と壁が囲う。これが最初の結界で、それを通り抜けると神殿が見える。が、普通は目視できないようだ。


 なぜなら五感を封じる結界が張られてあって、通常は光も見えず、音も聞こえず、匂いや感触、味覚すら使えなくなるからだ。


 そして、それらを突破しても、最後の結界がある。


 神殿全体を覆うこの結界は、ふれると強制的に森の外へ飛ばされる。見た目に変化はないので、うっかり進むと引っかかってしまう仕組みだ。


 もっとも、私たちにはどれ一つとして効果はなかったが。


 最初の結界は妖精の里と同じだから、なんの苦もなく突破できた。二つ目も同様だ。そもそも私は五感を封じられても動けるように訓練している。結界そのものを無効化できてしまったから今回は無意味だったが、効いていても行けるはずだった。


 せっかくだから、意図的に喰らってちょっと訓練しようかとも思った。


 しかし、シスルから「やめろ。また変な噂が立つぞ」と脅されたので断念した。三つ目の結界も私たちには効かなかった。そもそも結界があるということ自体、私には感じ取れなかった。


 ともかく、これらの結界を通過することで、ようやく神殿の中に入れる。


 神殿には、聖騎士が何人も詰めていた。腕利きであることは一瞥しただけで見て取れた。歓迎されていないことも。


 やはり、私たちの印象は最悪らしい。神官と一緒に出迎えた騎士たちは、敵意を隠そうともしない。


 まるで魔王軍の精鋭が攻め込んできたと言わんばかりに身構えていた。体勢を低くし、利き手が大剣の柄を握っている。


 いつでも反撃できるよう、彼女たちは筋肉を緊張させていた。


「ようこそ。お越しくださいました」


 神官は、騎士ほどあからさまではなかった。が、口ぶりとは裏腹に、態度と表情に苦々しさがにじみ出ている。


 やむを得ず降伏を決めた司令官のようだった。時おり、マリーゴールドに目を向ける。裏切り者でも見るように。


 なぜ、こんなやつを選んだ? と口にできたら言っていたに違いない。


 しかし、マリーゴールドは気にしたふうもなく、こっちです、と言って私の手をつかんで歩き出した。騎士も神官も無視して、彼女は小走りでうれしそうに神殿を進んだ。


 親友と久しぶりに再会する少女のようだった。


 置いてけぼりを食らった神官と騎士たちは、その場に留まった。はじめからついてくる気がなかったのか、それともマリーゴールドの様子を見てやめたのかはわからない。だが、とにかく私たちだけで聖剣のもとまで歩いた。


 聖剣は神殿の中央、ちょうど中庭に刺さっていた。


 まわりは植物園のように草花が生い茂り、木々が植えられていた。天井は透明なガラスで覆われていて、日の光が入るようになっている。敷石のうえを歩き、聖剣の刺さった台座まで歩く。


 花の甘い香りがただよっていた。


「アーちゃん、来たよー」


 マリーゴールドは私の手を引いたまま、聖剣にそう話しかけた。


 久しぶりに会ったようで、彼女は大喜びだった。はしゃぐ姿は年相応に見える。聖都での生活について、彼女は聖剣と話していた。


 もっとも、私たちに聖剣の声は聞こえない。はたから見ると、マリーゴールドが一方的にしゃべっているようにしか見えなかった。


 彼女は言った。


 勉強や礼儀作法の時間が退屈で、よく抜け出していたこと。あまりにもサボるので、終いには教師が投げて、言葉遣いはとりあえず語尾に「です」をつけろと言われたこと。


 武術や魔術の訓練は大変だが、自分が強くなっていくのはとても楽しかったことなど……彼女は雄弁に語った。

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