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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第26話 聖剣に選ばれたプリム

「思ったよりもろいのね」


「いや、真横と背後から強襲されたら普通はこうなるだろ? 特にマリーゴールドが撃ったアレ、リリー以上の威力じゃねぇか。無事で済むかよ。つーかアレ喰らって平気な連中なら、そもそも聖都の結界もぶっ壊せるだろ?」


「意外と魔王軍って質は高くないのかしら?」


 首をかしげる私に、シスルは呆れたような顔を向けた。彼女は盛大にため息をついて、こう言った。


「……お前の基準で高いか低いかは知らんけど、メーヴィスが四天王筆頭なんだろ? じゃ、あとは推して知るべし、じゃねぇか」


「ああ!」


 と私は思わず手を打った。


 確かに彼女がトップクラスの使い手なら、魔王軍の力はそれほど高くないという証明になる。時間停止が有効なことから、魔王の戦闘力も低いと見ていい。


「お前やデイジーより強かったら、とっくにプロートス大陸まで来てると思うぞ?」


 シスルはそう言って、また地上に目を向けた。残党を追撃する聖騎士たちの姿が見えた。


 だが、マリーゴールドは森のそばに佇んで、動こうとしない。彼女はまた空を、私たちをじっと見ていた。まわりの騎士が、いぶかしげにそんな様子を見ている。


「で、どうすんだ? 聖剣を手に入れるんなら、ちょうど巫女さんがいるが?」


「無視して魔界に突入する手もありますけどね」


 冗談めかしてデイジーが言った。


「そっちのほうが手っ取り早いかもしれませんよ?」


「いえ、順番は守っておきましょう。ひょっとしたらとんでもないイレギュラーが起こる可能性もあるんだから。それにあの魔術を見るに、マリーゴールドって結構強いでしょ。戦力としても期待できるわ」


「彼女は『英雄』の仲間キャラですからね」


「話はまとまったか?」


 ラオカが言った。私たちがうなずき、隠密魔法を解除すると、彼女はゆっくりと降下した。


 高度が下がるにつれて、地上が騒がしくなった。追撃していた聖騎士はもちろん、逃げている真っ最中の魔王軍すら一瞬足を止めた。


 この大陸の竜たちは、聖王国と揉めているという話だった。


 だからだろうか。マリーゴールドに近づいていくと、幾人かの騎士が彼女を守るように走り寄ってきた。だが、マリーゴールドは首を横に振って、自分から私たちに近づいた。


 地上に降りながら、ラオカは人の姿になった。空中に放り出された私たちは、それぞれ地面に着地する。


 マリーゴールドは私の前に来た。二メートルほどの距離で立ち止まると、彼女は短いスカートの裾をつまみ上げて一礼する。


「お待ちしてたです」


「その反応はつまり、私が聖剣の使い手ということでいいのかしら?」


「はいです」


 彼女はうなずいた。まわりから抗議の声が上がる。


「お待ちください! 彼女はいったい何者ですか!」


 一番近くにいた聖騎士が走り寄ってきた。私の顔を見て、ぎょっとした表情を浮かべる。


「プリムローズ・フリティラリア……?」


 彼女の言葉に、聖騎士たちが警戒をあらわにした。遠巻きに、私たちを囲うように陣形をととのえる。魔王軍を追撃していた聖王国軍も、異状に気づいたらしい。


 続々と走り寄ってきて、私たちを取り囲んだ。


「あまり歓迎されていないみたいだけど?」


「それはプリムローズさまのせいだと思うです。マリーは聖剣の言葉を伝えただけですので。聖剣の巫女ですから」


「聖剣って意思持ってるの?」


「マリーには話しかけてくるです。アーちゃんはあなただと言ってるです」


「アーちゃん?」


「聖剣アスプロ・クリノスのことじゃないかな」


 リリーが口をはさんだ。


「確か、そういう名前だったよね?」


 デイジーを見ると、彼女はうなずいた。私は言った。


「ふぅん……リリーではないのね」


「やっぱりゲームとは違うんだろうね」


 リリーは、どうしたものか、と困った様子でまわりの騎士たちを見た。


「あの……なんと言ったかしら。えぇと」


 と、私はデイジーに目を向けた。彼女は私に抱きついてきた。


「女神アントスのことですか?」


「そう、それ。女神さまの声が聞こえるわけじゃないのね?」


 私はマリーゴールドを見た。彼女は首を横に振った。


「女神の声は聞いたことないです。そもそも本当にいるですか?」


「え? さぁ……」


 私が言うと、彼女はいささかがっかりした様子を見せた。


「そうですか……」


「期待はずれだったかしら?」


「いえ……。アーちゃんは、プリムローズさまはすごい人だから、マリーの疑問にもきっと答えてくれるって」


「申しわけないけど、私はそこまですごい人物じゃないわよ? 知らないことも多いし」


「いや、知識はともかく、お前は十分すごい人物だぞ。いろんな意味で」


 シスルがどこか疲れた様子で言った。それから彼女はまわりを見て、


「んで、この状況はどうすんだよ? すんなり聖剣もらって魔界へ……ってわけにも行かなそうだが」


「ある意味、ゲームどおりですけどね」


 デイジーが、ふふっ、と楽しげに笑った。

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