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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第25話 隠密魔法を使っているのに高度一万メートルの気配に気づくマリーちゃん十歳

 別れの挨拶を済ませると、私たちはラオカに乗って隠れ里を飛び立ち、聖都オミクロンへ向かった。


 上空から見ると、あちこちに魔王軍の幕舎があった。大陸全土で戦いが巻き起こっているようで、真新しい砦や戦場の跡が目につく。


 魔術でえぐられたような大穴や焼け焦げた地面もあった。見つかったら面倒なので、私たちは隠密魔法をかけて高空を移動していた。


 オミクロンに近づくと、ちょうど戦闘が行なわれているところだった。聖都は水堀と高い城壁によって守られていた。


 もちろん、強力な結界が張られている。上空から侵入しようとする軍勢もいたが、見えない壁によって阻まれていた。


 城壁を壊さねば、結界は破れない。


 だが、近づけば強烈な重力によって地面に、正確には水堀のなかに沈められる。堀は通常よりも重力が強くなっていて、入り込むと地面に縫いつけられたかのように動けなくなるらしい。


 らしい、というのは、私は普通に動けたからだ。


 昔、ためしに結界がどんなものかと自作したことがあった。だが、多少重力を強めたところで、さほどの障害にもならなかった。水堀だと、水中に沈めて窒息死させる目的があるというが、本当かと私は疑っていた。


 なにせ私は水のなかで何時間過ごそうが死なない。溺れることもない。


 実用性があるのか、はなはだ疑問だった。だが、こうして戦闘を見るに、この方法はかなり有効らしい。魔王軍の部隊が、城壁を破壊しようと果敢に突撃する。


 しかし、水堀に沈んでそのまま浮かんでこなかった。遠距離から魔術攻撃もしている。だが、それもすべて水堀に落ちてしまうのだった。


 籠城作戦をとる聖王国の騎士団に、魔王軍は手を焼いていた。


 この世界では、兵糧攻めを行なえない。普通の村や町がそうであるように、聖都にも田畑がある。町のなかで、いくらでも糧食を生み出せるのだ。


 籠城して食料が問題になることはまずない。


 私たちは高度一万メートルほどの高さにいた。加えて隠密魔法もかけてあるのだ。私たちの存在に気づくものはいない……はずだった。だが、一人だけ、こちらに目を向けたものがいる。


 十歳くらいの少女だった。


 遠目なのと、大きな帽子をかぶっているので確認しづらいが、身長は一三〇センチくらいだろう。十歳にしては……と思ったが、そもそも十歳児の平均身長を私は知らなかった。高いのか低いのかよくわからない。


 ともかく、彼女は私たちの視線に気づいたように上空へ目を向け、足を止めた。


 小さな体には不釣り合いなほどの大きな剣を背中にしょって、ミニスカートとオーバーニーソックスを履いていた。成長途上の小さな胸元に大きなリボンがあって、それがチャームポイントになっている。


 私はデイジーに確認した。


「あれ、例の……なんて言ったかしら?」


「マリーゴールド・クレマチス。聖王国の巫女ですよ。ゲームだと神託を受けて、聖剣の使い手を導き、生涯支える役割を持ってました」


「そういえば、この世界って神様いるのかしら?」


「さぁ、どうでしょう? 私は興味ないんでどうでもいいですね」


「どうでもいいって言い切るんかい」


 あぐらをかいたシスルが口をはさんだ。


「私は神様がいるとかいないとか、世界はなぜ存在するのかとか、そういう問いかけにはいっさい関心がないんですよ」


 デイジーは肩をすくめる。


「私にとって重要なのは、目の前にある現実だけです。神様がいようがいまいが、魔王討伐しなきゃいけないことに変わりはないんですから、どっちだっていいでしょう?」


「確かにね」


 私は笑った。


「神様がいるかどうか考えてる暇なんてないのよね、こっちは」


「お前ら辛辣だなぁ」


 シスルがそう言って私を見た。リリーが微笑をたたえながら、


「でもまぁ、正論ではあるんじゃないかな? 魔王をどうにかしてこい、なんて無理難題をふっかけられた状態で、そんなこと考える余裕がある人は普通ないだろうし」


「こいつらは普通じゃないから無理難題じゃねぇだろ」


 シスルはごろんとうつ伏せに寝っ転がって、地上に目を向けた。


 相変わらず、マリーゴールド・クレマチスは立ち止まっている。まわりには五十人ほどの騎士が連れ添っていた。みんな、リリーと同じくらいの大剣を背負っている。


 彼女たちは、空を見上げる少女に怪訝そうな視線を送っている。周囲に促されたらしく、マリーゴールドはふたたび走りはじめた。


 彼女たちは別働隊として動いているようだ。


 森をはさんでオミクロンの南にいる。彼女たちはそのまま(マリーゴールドは時たま私たちにちらちらと目を向けながらだが)森を迂回しつつ、魔王軍の後背に移動した。


 そこから、さらに部隊は分かれた。マリーゴールドは三人の仲間を引き連れ、魔王軍の真横に移動する。残る騎士は見つからないように隠れていた。


 そして、魔力が高まってマリーゴールドが魔術を使った。光の大魔術だ。


 全長六〇〇メートルほどの光の龍が現れて、隊列を組んでいた魔王軍を横から襲う。突然の攻撃に、魔王軍は大混乱に陥った。さらに後背にひそんでいた騎士たちが突撃する。


 同時に、聖都の門が開いた。聖騎士たちが我先にと突進してくる。魔王軍はあっさりと瓦解し、散り散りになって逃げていった。

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