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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第17話 降伏した敵は殺さない理知的な怪物たち

 私たちは森の奥に逆戻りした。


 そこに建設途中の拠点があって、通信機器もあるという。途中、散開していた魔王軍の魔獣や魔物、それに魔族を回収した。私たちに降伏したという話を聞くと、納得がいかないと一部の魔族や魔獣がごねた。


 グリズリー似の魔獣が説得しようとするが、なかなか話がまとまらない。


 デイジーが、斬ったほうが早いんじゃないですか? と言ったので、私は反対する魔族や魔獣を一網打尽にした。剣で体を真っ二つに裂き、デイジーが回復する。


 反対していた者たちはおとなしくなった。全員、魔王軍を離反すると宣言し、今後は決して人間に危害を加えないと誓った。


 私たちはそのまま未完成の拠点に行った。森の一部が切り開かれ、砦が作られていた。完成していないという話だったが、石組みの立派な建物だった。堀と壁もあった。


 有事の際は、この壁と堀に沿って結界が展開され、敵の侵入を阻むのだろう。


 私たちは通信室に案内された。通信魔法は漢字も使えるはずだった。が、メーちゃんことメーヴィスの通信には、漢字がいっさい使われていなかった。


 なにせ内容がこれだ。


 ――――――――――


 まおうぐんやめます めーびす


 ついしん かてないからしんりゃくやめたほうがいいよ


 ――――――――――


「こんな内容でいいのか? 辞表だろ?」


「いえ、これは、さすがに……」


 シスルの言葉に、グリズリー似の魔獣は困惑の声を上げるのだった。


「とりあえず、もう送っちまったんで……俺が詳しい報告書を」


「その腕でキーボード打てんのか?」


 シスルはいぶかしげに訊いた。魔獣は猿に似た魔物に目を向けた。


「口述筆記です」


 というわけで、送られたのが次の内容だ。彼はわざわざ通信文書を私たちに見せてきて、これで問題ないかと律儀にたずねてきたのだった。


 ――――――――――


 挟撃作戦失敗および部隊消滅の報告


 艶麗えんれい歴五年四月二十六日、プロートス大陸ガンマ帝国南部のピラード大樹海にて、四天王筆頭メーヴィス直属部隊の隊長グラントリーが記す。


 本日午前十一時すぎ、魔王討伐の任を受けたアルファ王国の貴族プリムローズ・フリティラリア率いる一党と交戦。部隊は全滅した。


 建設途中の砦は占拠され、四天王筆頭のメーヴィスは精神に異常をきたしている。任務の続行は不可能。部隊も事実上の消滅となった。


 プリムローズ・フリティラリアの一党に時間停止は通用しない。


 また、プリムローズは直属部隊の精鋭二十二名を一太刀で皆殺しにしている。一党のメンバー、デイジー・ロータスは死者蘇生を行なうほどの魔力を有す。


 我々は完全に戦意を失った。この戦争は負ける。


 プロートス大陸に拠点を築き、そこから聖王国を挟撃する作戦は実行不可能である。砦は破壊される。


 新たに部隊を送りこむ前に、プリムローズたちは魔王城へ到着するだろう。


 早急に講和し、戦争を終わらせねば手遅れになる。早期終戦を願う。


 ――――――――――


 私たちは砦を破壊した。


 私は闇の大魔術を使おうとしたのだが、周辺の被害を考えろとシスルに言われたので、上級魔術に変更した。


 足りるかな、と私は不安だったのだが、一発で崩壊した。


 思ったより、もろかったようだ。壁のほうも蹴りや拳で適当に壊して、残骸は堀に投げ捨てた。さすがに堀を埋めるだけの量はなかったが、別にいいだろう。


 処理を済ませると、私たちは総計で一〇〇を超える魔族、魔獣、魔物を率いて森を出ることになった。


「連れて行くのか?」


 シスルは怪訝な顔をしたが、


「行き先は同じだし、別に一緒でもいいんじゃない?」


 と私は気楽に言った――が、ここで一つ問題が発生した。私たちは新聞につけ狙われている。魔族や魔獣、魔物を率いてガンマ帝国を移動したら、何を書かれるかわからない。


 私たちの目的地は、魔族の隠れ里イプシロンだ。つまり、ここから七〇〇〇キロも北上せねばならない。やっぱり同道するのはまずい……? と迷っていたら、見えなければいいのでは? とデイジーが提案した。


 かつてリリーやシスルに見破られた、あの隠密魔法の簡易版だ。


 姿を見えなくするだけで、音や匂いまでは消せない。だが、新聞記者やガンマ帝国の人間をごまかすくらいなら、これで十分だろう。

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