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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第16話 天変地異を起こす気満々の人たち

 ただ、今代魔王は地上侵略には否定的で、メーちゃんことメーヴィスも、金と戦力と時間の無駄遣いだと結論づけていた。


 しかし、長老会(要は魔王の補佐役で、結構な権力があるという)が、地上侵略は一〇〇年ごとの節目に行なう重要行事だから、と強弁したらしい。


 今代魔王は就任から五年も経っていない新人なのだが、先代魔王があれこれと準備していたため、無下にできなかった。仕方なく、当初の計画どおりに侵略を進めていく形となったのだが……。


 今代魔王にとって不運だったのは、侵略がとても順調に進んでしまったことだ。


 ヒュスタトン大陸は、もともと小国が乱立する場所だった。侵攻当時、かの大陸は小国同士が覇権を争い、天下取りをしている真っ最中、いわば漁夫の利であっさり侵略が完了した。


 さらにメソン大陸だ。聖王国が大陸全土を支配する強固な中央集権国家で、聖騎士たちも精強で知られていた。そう簡単には行くまい。


「被害が大きいので撤退します」という体で行こうと思ったら、なぜか竜と人が争っていて、その隙をついて戦を有利に進められた。


 かつてない大戦果に、魔界は盛り上がった。


 さらに魔王の反対を押し切った長老会も鼻高々。そら見たことかと若輩者の魔王を差し置いて、実権を握っている状態らしい。魔王は今でも中止したい意向だ。


 しかし結果が出ている以上、やめましょう、とは言えない状況なのだ。


「ってな具合でして……」


「要するに魔王じゃなくて、その長老会を皆殺しにすれば解決するってこと?」


「え、いや、それは……」


 私の発言に、魔獣はぎょっとして目を泳がせた。


「魔界全体が盛り上がってるなら、主戦派を翻意させないとダメじゃないかな?」


 リリーが言った。


「魔族というか、魔界に住む住民たちが、戦争なんてこりごりだって思うような――」


「プリムとデイジーが本気で暴れりゃいいんじゃねーの、魔界で」


 シスルが退屈そうに言った。


「自分らの住処で天変地異が起きたら、さすがに戦争だ侵略だ言ってられねぇだろ?」


「それは確かにいいアイディアかもしれない」


 リリーはうなずいた。デイジーが感慨深げにつぶやく。


「まさか天変地異を起こしてくれ、と言われる日が来るなんて……。お嬢さま、よかったですね。努力の賜物ですよ?」


「別に私、天変地異を起こしたくて修行してたわけじゃないんだけど!? というか他人事みたいに言ってるけど、主にあなたじゃないの原因!?」


「私はあくまでもお嬢さまの指示に従っただけであって……。それに、お嬢さまだって加減してたじゃないですか。もっと闇の大魔術を連発していれば――」


「罪のなすりつけ合いをすんなよ」


 シスルがそう言って、私たちのあいだに入った。


「とにかく当面の方針は決まったろ? それでいいじゃねぇかよ」


「シスルさん、まさか逃げる気ですか?」


 は? とシスルは唖然とした表情で口を半開きにした。


「補助魔法しか使えないとはいえ、上級魔術なんですから、自己強化して大暴れしたら、十分に天変地異クラスの災害起こせますよね? 拳法の皆伝だって持ってるんですから、全力強化して思いっきり地面ぶん殴れば、ちょっとした地震くらいなら起こせて――」


「わかったわかった。あたしとリリーも一緒に大暴れしてやるから。つーか、そんなに気にしてたのかお前」


「シスルさんは知らないかもしれませんけど! 私たち、あのあと騎士団に捕まってるんですからね! 大暴れしたせいで捕まって、魔界で裁判とかになったら恨みますよ!」


 デイジーはぷんすか怒っていた。シスルは呆れ顔だ。


「天変地異を起こせるやつがなんで素直に捕まってんだよ……。逃げるか滅ぼすかくらいできるだろ……。なんで変なとこだけ常識的なんだお前ら……」


 シスルは大きく息を吸い込み、長く深いため息をついた。息と一緒に、しっぽと猫耳も下がるのだった。

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