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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第7話 汽車に乗るより走ったほうが速い

 座って待っていると、やがて煙突から真っ白な煙を吐き出しながら、汽車が走り込んできた。


 ゆっくりと停車する。何人かの客がドアを開けて降りてきた。


 列車に乗るのは私たちだけだった。客はそれなりにいた。だが、保安官が一緒にいるせいか、私たちが乗車するとぎょっとした表情で目をそらしたり、新聞や本を開いたりした。


 座席は縦ではなく、横に並ぶタイプのものだった。中央に通路があり、四人が向かい合わせに座ることができる。乗客が少ないからなのだろう。席と席のあいだはだいぶ広く、ゆったりとしていた。


 私たちは並んで座った。私の隣にデイジーが、リリーの隣にシスルが座った。


 保安官たちは通路をはさんで、隣に腰掛けている。汽車が走り出した。列車が大きく揺れたかと思うと、すぐさま加速し、車輪が線路の上を駆けるなつかしい音と振動を響かせた。


 汽車は時速二〇〇キロ前後で走るという。地球のものより、だいぶ速い。


 ただ、それでも私たちにとっては自分の足で駆けたほうが速かった。ただ、保安官の案内でなんとなく乗ってしまっただけだった。


 とはいえ、シスルは目を輝かせて、窓の外の景色を食い入るように見つめていた。しっぽが喜びを示すようにゆらゆらと動いている。リリーも興味深そうに車内を見回し、デイジーもリラックスした様子で座席に身を沈めていた。


 走ったほうが速くない? とは言い出しづらい雰囲気だった。


 汽車は何時間も走り続け、駅に着くたびに停車した。利用者はそれなりにいるらしい。どの駅に停まったときも、乗客の一部が降り、新しい人間が入ってきた。


 荷物のやり取りも多いようで、うしろの貨物車は忙しそうだった。


 私たちは朝から晩までずっと移動していた。窓から見える景色は代わり映えがなく、荒野が続いたかと思うと草原が広がり、たまに川辺や山や森が遠くに見えた。


 ガンマ帝国は広大な国だから、町や村もあちこちに散らばっている。私たちは夕暮れに染まるなか、ずっと汽車の旅を続けて、町から町へ移っていた。


 途中、一度だけ昼食を取りに降りた以外は、ずっと車内にいた。案内された店は西部劇に似つかわしくない、全面ガラス張りのお店で、小高い丘に建っていた。


 私たちが案内された席からは、町の様子が一望できた。線路も、駅も、汽車も見える。


 運ばれてきたステーキとパンを食べ、スープを飲むと、私たちは早々に汽車に戻った。支払いは保安官たちが行なった。


 そうして、二〇〇〇キロ以上を旅するが、まだ帝都には着かなかった。


 日が暮れると、ホテルに案内された。私たちは一泊し、翌日には発った。さらに汽車に乗り続けること、八時間……一六〇〇キロほど進んで、ようやく帝都ガンマに到着した。


「正直、走ったほうがよかったわね……」


「ああ……うん、そうだね」


 私がぼやくと、疲れた顔でリリーがうなずいた。


 シスルも無言で、疲れ切った様子だ。猫耳としっぽがだらんと下がっている。デイジーも、やっとですか……と抱きつくように私の首に腕をまわして飛んでいた。


 最初こそ物珍しさから楽しそうにしていた三人だったが、ずっと列車にいたのでさすがに飽きたようだ。それはそうだろう。私たちにとっては、走ったほうがはるかに早く到着したのだから。


 無駄に時間を使った気がしないでもない。


 保安官に案内され、私たちは帝都の城におもむいた。これまた西部劇に似つかわしくない建物だ。もっとも、それを言ったら帝都自体が西部劇とは程遠い雰囲気だったが。


 道は当たり前のように舗装されていて、光の魔石を埋め込んだ街灯が立ち並んでいた。だが、それ以上に目を引くのは摩天楼だ。高さ一〇〇メートルを超える高層ビルが建っていた。


 もちろん、すべての建物が高層建築なわけではない。だが、全体に大きな建物が目立った。高さ五〇メートルを超える建物もちょくちょくある。


 そして、帝都の中央にある皇帝の住まいは要塞だった。


 比喩ではなく、大砲だらけだ。城は高い壁に囲まれているが、規則正しく並ぶ小窓の代わりだと言わんばかりに砲塔が顔をのぞかせている。


 門を入った先の庭にも大砲があって、来訪者を狙い撃とうとしているかのようだった。

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