第5話 西部劇な世界
私たちはアルファ街道に戻った。交易都市ベータに行くときに通った道だ。
デイジーによれば、最初のボスはここにいるらしい。念のため、撃破しておこうという話になった。だが、すでに街道の魔獣は討伐されていた。
ただ、誰が倒したのかは不明らしく、交易都市ベータや冒険者ギルドで話題になっていた。
が、私たちはあっさり正体を知った。王国が派遣した諜報部隊が始末したらしい。マットソン商会の商人から聞いたことだ。
彼女たちはつかず離れず、私たちの周囲で動きまわっているそうだ。かなりの手練らしく、ときどき誰かに見られている視線を感じるものの、どこにいるのかはまったくわからなかった。
ともかく、街道のほうは問題なかったので、私たちはガンマ帝国の帝都ガンマへ向かった。交易都市ベータを西に進むと、ベータ山脈がある。大きく迂回するルートもあるのだが、私たちは山越えをした。
デイジーいわく、山を越えるのがゲームのルートだそうだ。途中、適当に魔獣や魔物を退治しながら進んだ。
もっとも、相手が逃げまわるので、襲ってくる敵を返り討ちにすることはできなかった。なにしろ私たちが近づくと、魔物も魔獣もすぐさま逃走するのだ。
仕方なく、私たちは逃げる魔獣や魔物を追いかけて始末した。時間はさほどかからなかった。
山の頂上からは、ガンマ帝国の領土が見渡せた。といっても、雲海が広がっていて、一望できたわけではない。雲の切れ間から、広大な平原や木立が見えただけだ。
私たちは早々に山を降りると、ガンマ帝国名物の駅に向かった。
ガンマ帝国は平野や荒野の多い土地だった。もちろん山も谷も森もあるが、それ以上に多いのが草原であり、荒れた土地だ。砂漠地帯すらある。プロートス大陸で一番大きな国だが、もっとも特徴的なのは独特の文化だ。
西部劇の世界である。
「おおー……マジにカウボーイがいる。汽車まで」
町に着いて早々、シスルはきょろきょろと辺りを見回した。うれしそうにしっぽが揺れ動いている。デイジーがたしなめた。
「完全に田舎者のリアクションじゃないですか。恥ずかしいからやめてください」
「んだよ。別にいいじゃねぇか。あたし、本物のカウボーイとか見たことねぇんだよ」
「私だって――というか、前世含めても見たことある人なんていないでしょう? それと、カウボーイじゃなくてカウガールじゃないですかね、性別的に」
「細かいこと気にすんなよ。ってか、あたしの反応もわかるだろ?」
「周りの目もあるんですから自重してください」
「ほら、シスル」
とリリーが口をはさんだ。
「あんまりじろじろ見ると迷惑だろうから」
シスルは不満そうだったが、得心したらしく物珍しげに周囲を見るのをやめた。といっても、まわりを歩く人々はそんな様子など気にしていないふうだった。
私たちには目もくれず、足早に歩き去っていく。この国の人たちにとって、シスルのような反応は「いつものこと」なのかもしれない。
私はあらためて、町の様子を見渡した。
アルファ王国とはまったく違う風景だった。道は舗装されておらず、乾いた土がむき出しになっていて、そこを馬車や馬に乗った人々が駆けていく。もちろん徒歩の住人もいた。
カウボーイハットをかぶり、拍車つきのブーツを履いて、ガンベルトを身につけている。ホルスターには拳銃が収まっていた。
西部劇との違いは、男女を問わずカウボーイスタイルの者が多いことだろうか。人間族はもちろん、妖精族や獣人族、鬼人族など、みんな西部劇に出てきそうな恰好をしていた。
「この辺は『英雄』と同じですね」
デイジーが飛んで移動しながら言った。
「十九世紀モチーフなので、ガンマ帝国は西部劇っぽいデザインになってました」
「西部劇スタイルなのってガンマ帝国だけなんだろ?」
シスルの問いに、デイジーはうなずいた。