第4話 ゲームの展開を無視するか、なぞるか問題
「で、ウェデリアが仲間になって、聖騎士たちを倒して竜の巣クシーへ。解毒剤を手に入れたらニューに戻って、アイリス先生が仲間に。ただ、解毒剤を手に入れるとき、竜の長老から聖剣を抜けって依頼されて……」
「それで聖剣を?」
リリーが訊いた。
「そうです。もっとも、事前に聖騎士と揉めてる上にウェデリアも一緒ですから、無理そうだと最初は断るんですが、そこは竜たちと一緒になって聖都オミクロンまで押しかけるんで」
「完全に脅しじゃねぇか」
シスルが頬杖をついた。デイジーがメソン大陸中央のやや南を指差す。
「まぁ脅しですね。とにかく女神アントスの神託を授かった巫女マリーが本物だと認めたんで、聖王もしぶしぶ聖地パイに行くのを許可します。で、マリーが仲間になって」
「ロリキャラだっけ?」
シスルは両耳を伏せて、呆れたように訊いた。デイジーは大仰にうなずいた。
「そうです。十歳の巫女さんです。身長一三〇センチのガチのロリキャラですね。お嬢さまが気に入りそうな……」
「ちょっとまって、デイジー。私はロリコンじゃないわよ?」
「知ってますよ。ただ、見た目とかお嬢さまにストライクっぽいから、たぶん気にいると思うんですよね」
デイジーは真顔で言った。私は首をひねりながら、
「写真が、見たいわね……」
「なに真剣に検討してんだよ。お前やっぱロリコンだろ?」
「違うわ!」
私は力強く否定した。リリーが続きをうながした。
「その話はともかく……それで、聖剣を手に入れて、最後のヒュスタトン大陸へ?」
「そうですね。ちなみにここまで進めた上で」
と、デイジーはあらためてプロートス大陸のアルファ王国に指先を置いた。
「アルファ王国まで戻って面倒なイベントこなすと、マーガレット陛下を仲間にできますよ。めちゃくちゃ強いぶっ壊れキャラですけど、特に仲間になる兆候とかなかったから、たいていの人は初見だと仲間にできなかったんじゃないですかね」
「忘れ去られてんのかよ……」
「いや、だって、イベントとか特にないんですよ。ストーリー的にも。わりと唐突な加入なんで、『え? ほんとに仲間になるの?』みたいな状態でした。正しい意味での隠しキャラですよね。本当に仲間になると思わなかったキャラが加入するっていう」
「で、最後のヒュスタトン大陸は?」
デイジーは取り出した地図をテーブルに載せた。
「ここらへんは普通に魔王軍に支配された小国を順々に解放していくって流れです。聖王国や竜たちと協力して、取り戻した場所を守って、神殿から魔界へ行って、魔王を倒して終わりです」
「最後はさらっと流した感あるな」
シスルの感想に、デイジーは苦笑いを浮かべた。
「終盤はわりとサブイベントっぽいんですよね。実際、さっさと魔界に行って魔王倒してもよかったわけですし、正直仲間も全部そろって、本筋は魔王倒して終わりって感じで、小国の解放とかはサブストーリーっぽいんですよ」
「とにかく、それがゲームの流れなわけね?」
私が確認すると、デイジーがうなずいた。
「じゃ、現実だとどうなるのかしらね?」
「そりゃさっさと魔界に行って、魔王しばき倒して終わりだろ?」
「聖剣は無視するのかい?」
リリーが訊いた。シスルは片手を振った。
「ラオカさまの言葉を信じるなら、聖剣なしでも行けるんだろ?」
「確かに『魔王は聖剣でないと倒せない』という伝承はありませんが……」
「ゲームの順番通りに進めるべきだとわたしは思うな」
リリーの言葉に、理由は? とシスルが訊いた。
「ゲームどおりに魔王軍の襲撃があるかもしれないし、そういうのは撃退しておきたいかなと思って……。ダメかな?」
「確かに襲われたのを放っておくのは寝覚めが悪いけどよ……」
どうする? とシスルは私とデイジーに目を向けた。
「私はお嬢さまに従う方針です」
「私が決めるの? うーん……じゃ、ゲームどおりのルートをたどってみましょうか」
「いちおう訊くが、理由は?」
シスルが苦笑いで私を見た。私は胸を張って言った。
「ゲームの私たちは見事に魔王討伐を成し遂げたんでしょう? なら、それにあやかるわ」
「ま、あたしは最終的に魔王が討伐できりゃなんでもいいけどな」
シスルはそう言って、頭に両手を置くと、背もたれに寄りかかった。