第3話 RPGのストーリー
「ちょっと待った」
リリーが手を上げた。
「魔獣は魔族の配下だろう? 逆じゃないのかい?」
「仇って役柄なせいか、魔獣の中でも抜きん出た実力者っていう扱いなんですよ。だから、特例で指揮官になってる設定です。まぁその赤黒い魔獣も、小さな王国エータに攻め込んだときに討ち取られて終わりなんですけど」
「そういえば、プロートス大陸最後のボスとかなんとか言ってたね」
はい、とデイジーはうなずいた。
「魔王軍に苦しむ人々を見て、ゲームのリリーは自分の故郷が滅んだときの光景を思い出すんです。つまり、リリーに魔王討伐を決意させるキャラですね。ストーリー的には重要ですけど、ボスとしてはさほど強くないんですよね」
デイジーは思い出すように自分の顎を指先でつんつんとつついた。
「弱いわけでもないんですけど、いわゆる普通の中ボスというか……特にレベル上げとか、スキル振りとか、装備とか、これといった工夫なしでも倒せちゃうんで、ゲームのボスとしてはよくも悪くも印象に残らないキャラですね」
「仇なのに、扱い雑くね?」
シスルの言葉に、デイジーは肩をすくめた。
「しょうがないじゃないですか。ゲーム的には序盤のボスなんですから。仲間キャラだって、まだ四人しか揃ってないんですよ? このあと港町シータでダリア先生と再会して、アイリス先生探しに行く展開ですからね」
「そういや仲間になるって言ってたな。探しに……ってことは、アイリス先生は魔王討伐に行っちまってるのか?」
デイジーはメソン大陸の地図を出しながら言った。プロートス大陸の地図に重ねる。
「違いますよ。現実のほうはどうだか知りませんが、ゲームだとアイリス先生の故郷がメソン大陸の小さな漁村なんです。心配だからって里帰りしたまま帰ってこないんで、親友のダリア先生が探しに行くんですよ。で、いきなり休学した四人と出くわして、お説教です」
「そりゃ相談もなしに休学すりゃな」
シスルの猫耳が呆れを示すように伏せられる。デイジーは人差し指を立てた。
「で、なんやかんやでダリア先生と一緒にメソン大陸まで行って、港町イオータから城塞都市カッパ経由で漁村ラムダに行きます。ちなみにカッパで情報収集すると、魔族の娘をかくまって逃げてるうさみみの獣人女がいる、という情報を聞けます」
おっ、とシスルと期待に満ちた顔でデイジーを見た。猫耳がピンと立つ。
「お察しのとおり、魔族の娘はウェデリアですね」
シスルの露骨な反応に苦笑いしつつ、デイジーは語った。
「ラムダで聞き込みしても、アイリス先生の足取りはつかめまん。それで妖精族ほどじゃないけど、長生きな鬼人族の里ミューへ行きます」
デイジーは地図に目を向けた。
「そこからメソン大陸の魔族の隠れ里ニューへ向かう展開です。ちなみにここらへんで聖王国の聖騎士と一悶着ありますね。確か人手が足りないからって冒険者を仲間に雇ってます」
デイジーは南東部を指さした。
「なんで揉めんだよ?」
シスルはいぶかしげに首をかたむけた。かたむけたほうの猫耳が垂れ下がる。リリーが腕組みして答えた。
「たぶん、聖王国は魔族殲滅をかかげているからじゃないかな。魔族をかくまってるアイリス先生が気に食わないんじゃない?」
「そのとおりですね。魔族の隠れ里があるなら、殲滅するとかなんとか言って……まぁ戦時下ですし、わからないでもないですけどね」
「そういや魔王軍と戦争してんだから、魔族は完全に敵か」
シスルは背もたれに寄りかかって、のんきそうにぼやいた。
「でも全部が敵ってわけでもねぇんだろ? ウェデリアみたいな……」
「そのとおりです。ニューやイプシロンにいるのは」
と、デイジーは地図をずらして、プロートス大陸の地図も見せた。
「魔王軍とは無関係の魔族なんで、完全にとばっちりなんですよね。もちろんウェデリアも魔王軍とは無縁の魔族。彼女は赤黒い魔獣を追って、プロートス大陸へ行こうとしたときに魔王軍に襲われ、そこをアイリス先生に助けられるんです」
デイジーはメソン大陸の地図を一番上に置いた。
「ただ、ウェデリアをかばったときにアイリス先生は毒を食らってて、隠れ里ニューで寝込んでるんです。で、解毒剤を手に入れようと竜の巣クシーに向かったウェデリアを追う展開」
「死なねぇんだよな?」
シスルは心配そうに訊いた。デイジーはうなずいた。
「途中で、例の聖騎士と冒険者の一団と揉めてるところを助けるから大丈夫ですよ。ウェデリアは角しか生えていないタイプの魔族なので、鬼人族のふりをしてるんですが、聖騎士には通用しなかったんですよね」
魔族の特徴は角、コウモリのような羽根、しっぽの三つだが、必ず揃っているわけではない。羽根だけで角としっぽがなかったり、逆に羽根はないが角としっぽがあったり、個人差がかなり激しいのだ。