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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第3章 聖なる乙女の英雄
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第2話 アルファからオメガまで

「うるさいとかいう以前に、ちょっとでもそういう音とか声とか漏れ聞こえてくる時点でアレなんだよ! 自重しろ!」


 シスルは青筋を立てて言った。


「つかデイジーのほうが積極的って……お前のほうから手ぇ出したんじゃねぇのかよ?」


「何よ、しっかり聞いてるじゃない」


 と私が頬をふくらませると、


「聞こえてきたんだよ! 仕方ねぇだろ!? そして思ってたんと違うから余計に気になっちまったんだよ! なぁこれ、あたしが悪いのか!?」


「それは知らないけど……」


「なにを誤解しているのか知りませんが」


 デイジーが鼻で笑った。


「お嬢さまはわりとヘタレだったので、相手をベッドに押し倒すなんて真似はできませんよ。今はたまに攻守交代しますけど、基本的に今も昔も私が押し倒す側です」


「え? なんかすげぇ意外なんだが?」


「どこがですか?」


「いや、だってさぁ……プリムってしょっちゅうデイジーに抱きついたり、頭なでたり、胸揉んだりしてるじゃん? わりとやりたい放題だからさ、あたしはてっきり……」


「そういうことはできても、押し倒すところまでは行けないのがお嬢さまです」


 そうなんか……と物珍しそうにシスルは私を見た。私は恥ずかしくなってきた。


「その話はいいじゃない、もう……。とにかく、今はゲームのほうの話でしょ?」


「順番どおりにめぐるだけって言ったよね?」


 リリーが確認するように訊くと、デイジーがうなずいた。


「この世界の町の名前、おかしいと思いませんでした?」


「そりゃあね……。アルファ王国の王都アルファ、その南に交易都市ベータ、アルファ王国の西にガンマ帝国があって、帝都の名前が同じくガンマ……これってギリシャ文字だよね?」


「そのとおりです。王都アルファから始まって、交易都市ベータを介して帝都ガンマに行きます。冒険者ギルドで情報を集め、長生きの妖精族の話を聞きに行こうと妖精の村デルタに行きます」


 デイジーは指を一本立ててみせた。


「で、そこで魔族の隠れ里イプシロンの情報を得てそちらへ。さらにこのあと観光都市ゼータ、小さな王国エータ、港町シータ……と、ここまでがプロートス大陸です。基本、この順番で攻略します」


「メソン大陸とヒュスタトン大陸も?」


 リリーの問いかけにデイジーはうなずく。立てた指をゆらゆら揺らした。


「はい。メソン大陸は港町イオータから始まって、城塞都市カッパ、小さな漁村ラムダ、鬼人族の里ミュー、魔族の隠れ里ニュー、竜の巣クシー、聖王国の聖都オミクロン、最後に聖地パイで聖剣アスプロ・クリノスを手に入れて、メソン大陸は終了です」


 デイジーは私の手から逃れて、ベッドから降りた。旅行缶を開けてごそごそと荷物を取り出そうとしている。探しながら彼女は言った。


「ヒュスタトン大陸は港町ローから始まって、小国のシグマ、タウ、ウプシロンをそれぞれ魔王軍から解放して、そのあと同じく魔族の支配下にあった小国のファイとカイを解放、そして神殿プシーから魔界に行って、魔王城オメガに攻め入って魔王を倒せばエンディングですね」


「ストーリーは? 確か、わたしが主人公なんだよね? 王立学園の生徒で……」


 リリーが自分を指さしながら訊いた。


「スタート全然違いますけどね」


 とデイジーは言って、地図を取り出した。シスルのいるテーブルに広げる。


 地図は世界地図と、一つの大陸だけを描いたものの二種類があり、今回デイジーが取り出したのは後者のほうだ。私もリリーも、テーブルの周囲に集まった。


「出発はリリーさん一人で、学園に休学届を出して交易都市ベータに向かいます」


 デイジーは指先で地図を示しながら説明した。


「あれ? 王様に『魔王倒してこい』って言われてスタートするんじゃねぇのか」


 意外そうに言うシスルに、違いますよ、とデイジーは首を横に振った。


「ゲームのリリーは、故郷を滅ぼした赤黒い魔獣が魔王軍にいると聞いて、真相を確かめるべく旅立つんです」


 デイジーは地図を指差しながら説明した。


「で、ベータに向かう途中のアルファ街道で最初のボス戦、ボスの魔獣が『エリュトロン・メランに勧誘されて魔王軍に入った』と話すことで、噂が真実だと確信するわけです」


 シスルが自分を指さした。そわそわとしっぽが揺らめいている。


「あたしはどうなってんだ? 仲間になるんだろ?」


「シスルさんは最初に加入しますよ。交易都市ベータまで追いかけてきてくれるんです。突然休学届を出していなくなったリリーさんを心配して、同行してくれるんですね。で、ベータで情報集めするんですが、めぼしい情報は手に入らないので」


 とデイジーの指がベータからガンマ帝国に動く。


「もっと多くの情報を求めて帝都ガンマへ。ここで私とお嬢さまが加入」


 デイジーの指先が動いていく。


「そして、私の提案で妖精族の里デルタに。そこから魔族の隠れ里イプシロンまで行って情報収集、観光都市ゼータでエリュトロン・メラン率いる魔王軍と交戦、ここでは副官の魔族がボスで、赤黒い魔獣は部下に任せて立ち去ります」


 デイジーは指先を動かして、位置を示した。もっとも、妖精族の里デルタや魔族の隠れ里イプシロンは地図に載っていなかったが。

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